第71話

 いつもは冒険者たちが大勢いるギルド会館だが、今は寂しい雰囲気だった。

 リゼは、いつも通りクエストボードから、クエストの紙を剥がして受付へと持っていく。

 ランクCのクエストも、もう少しで全て受注することになる。

 本当であれば、リゼは討伐系のクエストばかりしたいと思っていた。

 しかし、清掃系のクエストも街のためには大事なことだと、分かっていたので同じようにクエストをするように心掛けていた。


 今回、リゼが受注したクエストは『川原の除草と清掃』だった。

 区間ごとにクエストが分かれている。

 今回の場所は、特に荒れている地域にため、除草だけでなく清掃も加わっていた。

 労働力が多いため、報酬も高いし、区間も短い。

 当然、ランクBとの共通クエストだ。

 ランクBの冒険者がいない今、清掃作業をする冒険者がいないので、リゼは積極的に清掃系のクエストを受注していた。


「はい、リゼちゃん」


 受付嬢のアイリは、リゼに背籠と大きめの皮袋を渡す。

 通常であれば、除草した草は肥料になるため、その場所に固めて置いておく。

 しかし、今回の区間では、食料を扱う店が近くに幾つかある飲食街と呼ばれる場所だ。

 そのため、虫が大量発生することを嫌うので、除草した草は持ち帰るようになっていた。

 清掃も、食べ歩きした食事のゴミを川原に捨てる者がいるためだ。

 当然、店側の要求や、本来であれば店側がすべき清掃作業をするのだから、店側も報酬の一部を負担している。


「ありがとうございます」


 リゼはアイリに礼を言うと、クエスト場所へと向かう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「久しぶりって感じもしないわね」

「当り前だろう。この間、来たばかりだ」

「儂は疲れたから、休みたいんじゃがの~」


 オーリスに着いたアリスにクウガ、ササジールの三人が口々に話す。


「はぁ~、僕は久々だけどね」

「お前は前回のクエストに参加しなかったからな」

「だって、留守番していろっていったのアルベルトたちだろう⁈」


 欠伸をしながら話すのは、銀翼のメンバー『オプティミス』だった。


「それよりもなんで、今回はフルメンバーなんだよ!」

「お前がサボりすぎなんだ」

「そうそう。残してきた二人を教育するって言っておいて、遊んでいたのは知っているのよ」

「そ、そんなことないよ‼」


 言い争うクウガたち――。


「お前さんたち。声が大きいから注目を浴びておるぞ‼」


 疲れ切っているササジールが諭すような口調で、三人に話す。

 街の人々も銀翼のメンバーが又、オーリスに来たことに驚く。

 そして同時に、期待を抱いていた。


「とりあえず、ギルド会館だな」

「そうね」


 クウガたちは馬から下りて、ギルド会館へと歩き出した。



 馬の見張りもあったので、ギルド会館へはクウガとアリスの二人が入る。

 クウガとアリスの姿を目にした受付嬢は、すぐに受付長のクリスティーナへと報告をする。

 アイリとレベッカは、リゼのことを話すべきかと悩みながらも、必死で冷静を装っていた。


 奥の部屋からクリスティーナが飛び出してきた。

 そして、そのままクウガとアリスの所へと走っていく。


「銀翼のメンバーであるお二方に、お願いが御座います」


 呼吸を乱しながらも冷静に話をするクリスティーナ。


「ゴブリンたちのことなら、アルベルトとラスティアに、ローガンとミランの四人が向かっている。もう、合流しているだろう」


 クウガは、クリスティーナの言おうとしていたことが分かっていた。


「ありがとうございます」


 クリスティーナは頭を下げる。

 ランクAの冒険者が、ゴブリン討伐に加わってくれれば、生存率が格段に上がる。


「俺としては、あっちは心配していないんだが……」


 クウガは受付にいるアイリとレベッカのほうを見る。

 アイリとレベッカは、冷静に営業スマイルで返した。


「例の事件。報告してくれて、ありがとうな」

「いいえ。仕事ですので、お礼を言われるようなことではありません」


 クリスティーナは表情を変えることなく、淡々と話す。


「それで、事件の被害者は今、どこにいる?」


 クウガはリゼの名を出さずに、被害者という言葉を使った。

 クリスティーナは、受付にいるアイリとレベッカのほうを向く。


「飲食街のクエスト『川原の除草と清掃』をしているかと思います」


 アイリが答える。

 殆ど、人がいないギルド会館なので声が通るため、クリスティーナとクウガたちの会話が聞こえていた。


「怪我の具合はどうなんだ?」

「はい、ほぼ完治しているかと思います」

「……もう、ギルドの部屋からは出たんだよな?」

「はい、その通りです」

「アルベルトが来たら、事件の詳しい内容を教えてもらってもいいか?」

「はい。しかし、詳しい話であれば、衛兵詰所のほうが良いかと思います」

「そうだな。衛兵詰所へは、話を聞いた後で行ってみる」

「お願いします。しかし、ゴブリン討伐に向かわれているのであれば、ギルマスと会うかと思います。もしかしたら、話を聞いておられるかも知れません」

「ギルマス自ら、討伐に参加しているのか‼」

「はい。事情が事情でしたので――」


 クウガはクリスティーナに、乗ってきた馬を預かってもらうよう交渉をする。

 とりあえず、受付に移動をして、クウガは一泊分の料金をクリスティーナに支払った。

 そして、八人分の宿を紹介してもらおうとするが、ゴブリン討伐を手伝ってもらっているので、宿の手配はギルドがすることとなった。



「では、愛しの妹分に会いに行きましょう‼」


 アリスはリゼに会うのが嬉しいのか、笑顔になる。


「その前に、アイリとレベッカに話を聞いてからだ」

「……相変わらず、慎重ね」


 クウガはアリスの言葉を聞き流すように、受付のアイリとレベッカに話し掛けた。


「リゼの様子はどんな感じだ?」


 クウガの質問にアイリとレベッカは顔を見合わせる。


「事件前と変わっていないと感じます」

「そうですね」


 アイリとレベッカが答えると、クウガは礼を言って受付から離れた。

 ギルド会館から出ると、ササジールとオプティミスが暇そうにしていた。


「これから、どうするの?」

「とりあえず、自由行動だな」


 オプティミスの質問にクウガが答える。


「儂は疲れたから、エールでも飲んで休んでおるわ」


 エールを飲みたいササジールは、立ち上がる。


「クウガとアリスは、どうするの?」

「私たちは、ちょっと用事があるのよ」

「……クラン内の恋愛は禁止だよ‼」

「馬鹿ね。私がクウガのような男に惚れるわけないでしょう!」

「それは俺も同じだ」


 クウガとアリスは、睨み合っていた。


「ケンカなら他所でしてくれ。儂は先に行くから、宿が決まったら探して教えてくれ」

「ササ爺。途中までは一緒に行きましょう」

「……お主らも、エールを飲むのか?」

「違うわよ」


 クウガとアリスは、リゼのクエスト場所である飲食街まで行くつもりだったので、向かう先はササジールと同じだった。


「オプティミスは、どうするんだ?」

「一人で行動しても面白くないから、クウガたちに付いていくよ」

「えぇ~、オプティミスはササ爺と二人で、エールでも飲んでればいいじゃない」

「……やっぱり、アリスはクウガと二人っきりになりたいんじゃないの?」

「違うわよ‼」

「じょ、冗談だよ!」


 本気で怒るアリスに気付いて、オプティミスは笑って誤魔化した。


「お主ら、もう行くぞ‼ 儂は我慢出来んのじゃ」

「ごめんごめん!」


 オプティミスは、怒っているアリスから離れるように、ササジールに駆け寄った。

 そして銀翼の四人は、ギルド会館から飲食街へと歩き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る