第65話
「お待たせしました」
ラスティアがアルベルトたちと合流した。
アルベルトとニコラス、フリクシンにラスティアは簡潔に報告をした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ‼」
ミランの話をしたところで、フリクシンは話を止めた。
ほとんど一人で、ゴブリンたちを倒したことが信じられないようだった。
「まぁ、ミランなら余裕でしょうが……」
「暴走せずに、ちゃんと戦っていましたから安心してください」
ラスティアは笑顔で答えるが、アルベルトは苦笑いしていた。
ミランの戦う姿を想像できたのだろう。
そんな二人をニコラスとフリクシンは、何も言わずに見ていた。
「それで、こちらの様子は?」
「あぁ、それは――」
アルベルトは、現在の状況に自分の考えを加えながら話し始めた。
全員で総攻撃するにはリスクが高い。
ニコラスから冒険者の情報を聞いたアルベルトが、数人選んだ。
その選んだ冒険者のみで、先行して洞窟に入る。
その後、安全を確保した状況で、第二陣が洞窟に入る。
洞窟の入口にも、数人待機させる。
「アルベルト……それは無謀なのでは、ないですか?」
話の途中でラスティアが口を挟む。
「ゴブリンの上位種がいると聞いていますが、数人で討伐可能なのですか?」
「洞窟の規模にもよるが、狭い通路であれば攻撃の手段も限られるはずです。懸念事項は、脇道などによる前後からの攻撃だけです」
「たしかにそうですね……以前のオーク討伐を参考にしていますね」
「さすがラスティア、鋭いね。その通り、オーク討伐を参考にしている。あの時、アリスやササ爺たち魔術師は、魔法を使うことが出来なかったので、ほとんど戦力にならなかった」
「魔法攻撃が強力だったからですよね」
「そう、洞窟を崩すおそれがあったしね。だから、ラスティアもミランの方に魔術師を多く残してきたんじゃないのかな?」
「可能性の一つだったし、ミランには後方支援の方がいいと思っただけです」
離れた場所にいたアルベルトとラスティアだったが、同じような状況を考えて行動していたことに、ニコラスは驚く。
「洞窟への道が細ければ、剣を使う私よりもローガンのほうが良かったかもしれませんね」
「それを言うなら、クウガがいないのも同じですよ」
「まぁ、そうだけど……クウガは、あの子に会いたかっただろうしね」
「そうですね」
アルベルトが言った「あの子」とは、リゼのことだろうと話を聞いていたニコラスは分かっていた。
「では、細かく班を分けますので、ニコラスとフリクシンは説明をお願いします」
ニコラスとフリクシンは頷くと、冒険者たちの方へと歩いて行った。
「まだ、隠していることがありますよね?」
ニコラスとフリクシンが、いなくなったのを確認すると、ラスティアはアルベルトに小声で話しかける。
「気付いていましたか……」
「もちろんです。どれだけ、一緒にいると思っているのですか」
アルベルトは苦笑いをする。
「予想ですが、この集落をまとめているのはホブゴブリンか、ゴブリンジェネラルだと思います」
「だから、ゴブリンメイジのことしか話していないのですね」
「不安を煽るような発言は、戦力に影響しますからね」
「それで勝算は、どれくらいなんですの?」
「……良くて八割、悪くて五割ですかね」
話を聞いたラスティアは考え込んでいた。
勝率を八割としたのは、リーダーをホブゴブリンと考えて、他に脅威となる魔物がいない場合だろう。
最悪の場合は、ゴブリンジェネラル指揮下のもとで、ホブゴブリンがいた想定だと思っていた。
実際、ゴブリンジェネラルやホブゴブリン単体での戦闘となったら、アルベルトに頼った戦いになる。
そのアルベルトを援護できる冒険者……いや、アルベルトの実力についていける冒険者はいない。
危険な状況になれば、アルベルトもレベルを落とした戦いはできない。
フリクシンなら……とも思えたが、部隊をまとめるためにアルベルトと行動を共にすることはない。
近接戦が得意な銀翼のメンバーが、この場にいないことをラスティアは悔いていた。
「八割なことを祈りましょう」
ラスティアは冷静な口調で、アルベルトに答えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
日も沈みきり、辺りを暗闇が包み込んでいた。
「――そろそろですね」
見張りのゴブリンの数が少なくなったことを確認した、アルベルトが呟く。
「では、行きましょうか‼ ニコラスにフリクシン、後衛は頼みますよ」
「はい」
「おう、任せておけ」
アルベルトは軽く頭を下げた。
腰の剣に手を添えると、アルベルトの目つきが変わった。
「ラスティア。サルディにバクーダ、コファイ行きましょう!」
アルベルトが勢いよく丘を駆け降りる。
すでに、この時点でラスティア以外は後れを取っていた。
これは、長年同じクランで過ごしていたラスティアだから反応が出来ただけだった。
外にいたゴブリンに気付かれると同時に、アルベルトが一気に倒してしまう。
「ここからですよ‼」
アルベルトが洞窟に足を踏み入れる。
「思っていたよりも広いですね」
「そうだね。まぁ、そのほうが戦いやすくていいけどね」
普通に会話をするアルベルトと、ラスティア。
そんな二人の後ろ姿を見ながら、サルディとバクーダ、コファイ三人は緊張した目で見ていた。
どうなっているかも分からない洞窟に、先発隊として五人だけで侵入する。
しかも、ゴブリンが多くいる集落への襲撃だ。
いままで、一度もない経験だった。
サルディは、冒険者になって八年目の拳闘士だ。
バクーダは剣士だが、冒険者の経験年数はサルディより短い五年だ。
今、オーリスの冒険者のなかで、もっとも勢いのある二人だ
そして、最後のコファイは、初級魔術師になる。
戦力としては、サルディやバクーダと比べたら、かなり落ちる。
冒険者の経験年数は、サルディと同じ八年になるので、自分の身を守る術は持っている。
アルベルトが、今回のメンバーに選んだ理由は、コファイの魔法属性にあった。
コファイが使う魔法属性は『光』になる。
光属性の魔法を使う魔術師は、数少ない。
だから、光属性の初級から中級の魔法書は、店頭に置かれているため、簡単に入手することができる。
補助攻撃の目くらまし【フラッシュ】や、暗闇を照らすことができる【ライトボール】など重宝される魔法だが、初級魔術師だと敵を直接攻撃できる魔法はないため、お荷物扱いされることが多い。
もちろん、上級魔法以上になれば、敵を直接攻撃できる魔法も習得できるが、あまり知られてはいない。
今回、コファイの主な任務は、後続からくる冒険者へ安全だと連絡するために必要不可欠な冒険者だった。
ゴブリンに攻撃を仕掛ける数時間前、サルディとバクーダ、コファイの三人は、アルベルトに呼ばれて集められた。
アルベルトの横にはラスティアがいた。
コファイは、サウディとバクーダの実力は知っている。
自分が何故、この場に呼ばれたのか分かっていなかった。
「私とラスティア、それと君たち三人の五人が先発でゴブリンに攻撃して欲しい」
アルベルトの言葉に、三人は驚く。
「そ、そんな、俺たちだけで……」
「そうです。俺より強い冒険者なんて他に、たくさんいますよ」
サウディとバクーダは、自信がないのか早口でアルベルトに話す。
「洞窟の中は狭い可能性があるので、拳闘士が必要だった。それに……」
アルベルトは黙ったままでいたコファイに視線を移す。
「コファイ。君は光属性の魔法を使えるんだってね?」
「は、はい……あまり、役に立ちませんが……」
コファイ自身も、光属性の魔法を習得したことを少しだけ後悔していた。
通っていた学習院で、魔術師を選択した。
コファイの両親も魔術師として、貴族に仕えていた。
両親はコファイに一般的な魔術師でなく、唯一無比の魔術師を目指すようにと、敢えて光属性の魔法書をコファイに渡していた。
しかも、コファイに渡したのは初級の魔法書だけでなく、中級の魔法書も渡していた。
しかし、コファイは中級の魔法書を契約したことを誰にも言っていない。
何故なら、コファイは初級の光魔法でさえ使いこなしていなかった。
学習院の成績に落胆した両親は、コファイが学習院卒業後、自分たちの住む街に戻って来ることを禁じた。
自分たちの息子が及第点に達していないことが、我慢でならなかったようだ。
卒業後、進路に困ったコファイは両親が住む場所から、出来るだけ遠いオーリスで冒険者となった――。
「光属性の魔法は、世間で言われるよりも使用勝手がいい魔法だから、あきらめなくていいと思うよ」
「……たしかに、あのスケベで下品な魔術師も腕だけは確かですからね」
「ラスティアったら……ササ爺が聞いていたら、泣いているよ」
「事実ですから、仕方ありませんわ!」
「まぁ……そうだけども。それよりも、三人とも将来優秀な冒険者だから、自信をもってくれていいよ」
アルベルトの言葉を聞いても、不安を隠し切れないコファイたちだった。
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