第64話

 洞窟の中に逃げ込んだゴブリンたちは、時間が過ぎると様子を見るためは、数匹が姿を見せる。

 そのたびに、ミランが攻撃をしていた。


 暫くすると、別の場所へと逃げていったゴブリンの場所を突き止めたと、戻って来た冒険者から聞いた。


 ここより、一キロほど先にある別の洞窟のようだ。


「よっしゃ! 早く、ゴブリンたちを倒そうぜ!」


 血気盛んなミランが叫ぶ。


「ミラン、まだですよ。情報が少なすぎます」

「ラスティアは、あいかわらず慎重だな」

「ミランが無鉄砲なだけです」


 ラスティアは、呆れるようにミランに言い返した。


「とりあえず、少しだけ洞窟の入口を塞ぎましょう」

「塞ぐ? 中に入って倒せばいいだけだろう?」

「……もしかしたら、報告のあった洞窟と繋がっている可能性もあります。不安要素は少しでも消しておいたほうが、よいでしょう」


 不満そうなミランを横目に、ラスティアは魔術師たちに、洞窟の入口を攻撃して岩で塞ぐように指示を出す。

 魔術師たちは、すぐにラスティアの指示に従い洞窟の入口を攻撃した。

 激しい音とともに、崖が崩れて洞窟の入口が塞がれた。

 これで、洞窟のゴブリンたちが、こちらに出てくる事はない。

 出られるとしたら、別の場所に繋がっている洞窟へ行くしかない。


 ミランとラスティアは、崩れ落ちた入口のあった場所へと二人で歩いていく。

 何のために、二人で行ったのかは分からない冒険者たちだったが、ミランとラスティアに声をかけることはできずに、二人の後ろ姿を見ていた。


「どうですか?」

「これなら、ゴブリンの力では動かすことはできないだろうな」

「そうですか――念のため、ミランは残って様子を見ていてもらえますか?」

「仕方ないな。本当なら、アルベルトたちと合流して、ゴブリンたちを倒したかったんだけどな」


 少し悔しそうにミランは話す。


「残るのは、私一人でもいいぞ?」

「いいえ。念のため、魔術師を含めて四人ほど、この場に残ってもらいます」

「……多くないか?」

「念のためです。なんなら、ミラン。あなたが選びますか?」

「いいや。面倒だから、ラスティアが選んでくれ」


 軽くため息をつきながら、ラスティアは冒険者の所へと一人で戻ると、数人にミランと、この場に残るように指示を出す。

 指示を受けた冒険者はミランの所へと、移動をする。


「じゃあ、ミラン。よろしくお願いしますね」

「おぉ、任せておけ!」


 ミランは陽気に手を振りながら答えた。


「では、皆さん。移動しましょう!」


 ラスティアたちは、アルベルトたちの所へと移動を始めた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「やはり、こちらが本命のようですね」

「しかし、どうして……」


 アルベルトとニコラスが小声で話をしていた。


「多分、ラスティアたちが相手をしているゴブリンを討伐すれば、私たちが大人しく帰っていくと思っているのでしょう」

「しかし、私たちは……この場所を突き止めましたが?」

「逃げたゴブリンの行き先まで、追跡するとは思っていなかったのでしょうね」

「なるほど……」

「それに、途中に私たちを追撃するような仕掛けや、ゴブリンたちもいなかったことから、向こうも油断している可能性がありますね」


 ニコラスは驚く。

 冷静な判断に、常に先を読んでの行動。

 これがランクAの冒険者の実力――いや、強豪クランのリーダーの実力なのだ‼


「ちょっと、いいか?」

「なんですか?」


 フリクシンがアルベルトに質問をする。


「班分けする時に、向こうは少人数だった理由を知りたい」

「それは簡単な事です」


 アルベルトは答える。

 まず、向こうには狂戦士のミランがいる。

 ミランであれば、ゴブリンの数十匹が襲ってきても問題なく倒してしまう。

 冷静なラスティアがいれば、暴走するミランを止めることが出来るし、万が一けが人が出ても、回復魔術師のラスティアがいれば治療することも可能だ。

 それに、向こうには下級魔術師を多く残してきたので、手数だけでもゴブリンを倒すことができる。

 逃げ出したゴブリンのあとを追うのは少人数で、その後ろから多くの冒険者たちがついて来るため、ゴブリンに気付かれる心配もない。


「あの一瞬で、そこまで判断したのか?」

「えぇ、幾つかの考えの中から、もっともありえそうなパターンと、最悪のケースを回避するパターンを比べてみただけです」


 フリクシンも言葉を失った。

 ニコラスと同じことを思ったからだ。

 同じ冒険者として、年下だが到底敵わないことを痛感する。


「出てきましたよ」


 アルベルトが、ゴブリンたちのほうを指す。


「……あれは」


 ニコラスとフリクシンの顔が青ざめる。

 ゴブリンの数が思っていたよりも、多かったからだ。

 なによりも、ゴブリンナイトがゴブリンに指示を出していた。

 統率のとれたゴブリンほど厄介なものはない。

 それは、いままでのゴブリンたちとの戦いでも分かっていた。


「……厄介な奴がいますね」

「厄介な奴?」

「あれです」


 アルベルトが指差す方向。

 洞窟の入口付近に、骨のような仮面を被っているゴブリンが少しだけ見えた。


「ゴブリンメイジ――ですか?」

「多分、そうでしょう。ゴブリンメイジの知能は、ゴブリンとは比べものになりません。ホブゴブリンと同等でしょう」

「そうすると、あいつがこのゴブリン集落のリーダーか?」

「だと、いいんですが……」


 アルベルトの言葉に、ニコラスやフリクシンは不安を感じた。


「それは、別のリーダーがいるということですか?」

「あくまでも可能性の話です。もし、ゴブリンメイジがリーダーであれば、こんな前線に姿を現すのは、変だと思いませんか?」

「確かに――」

「それは、ゴブリンメイジよりも強力な奴がいるってことだよな⁉」

「はい。多分ですが、ホブゴブリン以上の存在がいると考えて、いいでしょう」

「ホブゴブリン以上だと――」


 ホブゴブリン以上ということは、『ゴブリンジェネラル』『ゴブリンキング』もしかしたら、ゴブリンの最終進化系の一つである『ゴブリンロード』も、十分に考えられる。

 単独討伐であれば余裕かもしれないが、ゴブリンや、ゴブリンナイトに、ゴブリンメイジを相手にしながらだと、オーリスの冒険者たちの戦力では、ホブゴブリン一匹でも厳しい。


 もし、アルベルトたち銀翼が来てくれなかったら――。

 ニコラスとフリクシンは、最悪の事態を想像してしまった。


「とりあえず、ラスティアたちの班が合流するのを待ちましょう」

「そうですね」


 アルベルトはゴブリンたちを観察しながら、リーダーについて考えていた。

 ニコラスたちからの、今迄の情報などからゴブリンロードや、ゴブリンキングの

存在はないと考える。

 この二匹の進化種は、体がゴブリンに比べて、何倍も体が大きい。

 実際、目にしているアルベルトだから分かることだ。


 今、見ている洞窟の入り口からも、ゴブリンロードやゴブリンキングでは、入れるような大きさではない。

 他の入り口があることも考えるが、その可能性は低いと考える。

 あったとしても、用意した逃げ道から出られなければ意味がないからだ。

 ゴブリンジェネラルは個体差も大きい。

 ホブゴブリンに近いものから、ゴブリンキングに近い大きさのものまで、様々だ。

 ホブゴブリンの体格に近いゴブリンジェネラルの場合、戦闘力はホブゴブリンの比ではない。

 ゴブリンジェネラルが、このゴブリン集落のリーダーであれば、かなりの被害がでるだろう。


 アルベルトは、幾つもの作戦を頭の中で考えていた。

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