第63話

 ニコラスたち冒険者の元へと駆け付けたのは、『銀翼』のメンバーだった。


 先頭に聖騎士のアルベルト。

 手綱を握る狂戦士のミランと、回復魔術師のラスティアが一緒に乗り、もう一頭には、拳闘士のローガンが後ろにいた。


 ニコラスたちと合流したアルベルトたち。


「どうして、ここに?」


 ニコラスはアルベルトたちに質問をする。


「魔物討伐へと向かっていたが、途中で変なうわさを耳にしてね。急きょ、オーリスに寄らせてもらった」

「そうですか……」

「その途中で、ゴブリンに村を襲われていると聞いて、私を含めた四人はオーリスには寄らず、直接こちらに向かった次第です」

「それは、ありがとうございます」


 アルベルトがニコラスと、あいさつをしている間に、ラスティアがけが人の治療を始めた。

 ローガンとミランは、自分たちが持っていた回復薬などを、手持ちが少なくなった冒険者に配っていた。


「アルベルト。申しわけないが、銀翼に払えるような報酬は出ない」


 あとで、報酬のことで揉めると感じたニコラスは、先に話をした。


「そうでしょうね。報酬は不要です。今、補充している回復薬などの料金だけで結構ですよ」


 ニコラスは驚く。

 ランクAの冒険者が無償で働くなど、聞いた事がないからだ。


「あっ、それと私からのお願いを聞いてもらえればと」

「お願いですか?」

「えぇ、でも強制的ではありません。可能な範囲で構いません」

「それは、一体……」

「詳しいことは、オーリスに戻ってからで」

「……分かりました」


 ニコラスは了承する。

 強制的ではないというニコラスの言葉を信じたからだ。

 ランクAの冒険者への報酬など、とても払える訳がない。



「終わりました」


 ラスティアが、けが人たちの治療を終える。

 毒に侵されて、体力の低下が激しい冒険者には、これ以上の戦いは無理だと、ラスティアは伝えた。

 その数は三人。

 大丈夫だと訴える冒険者もいたが、ローガンが軽く触ると、顔をしかめたりする。


 ニコラスも、ラスティアの意見に賛成する。


「俺が街まで送っていくか!」


 ローガンは負傷者を街まで送る役目を引き受ける。

 幸いにも、馬は三頭いる。

 馬を操れる冒険者が二人いた。

 比較的けがの軽い冒険者に馬の操作をさせて、重傷者は、ローガンと一緒に乗ることにする。

 しかし重傷者は、もう一人いる。


「俺が馬を操って、一緒に戻ってやるぞ!」


 シトルが名乗りでる。


「俺は、皆ほど強くないから戦力が減ることも、ないだろうしな!」


 自虐的な言葉を口にしながら、笑っていた。

 帰り道に襲われても、ローガンがいれば安心出来るし、シトルもランクBの冒険者だ。

 護衛としては申し分ないだろう。


「分かりました。シトルはローガンと一緒に負傷者を連れて、街に戻ってください」

「おぅ、任せておけ!」


 シトルとローガンは、負傷者を馬に乗せて、街へと戻って行った。




「シトルと言ったかな……あの冒険者は、優しいですね」

「えぇ、お調子者なのが、たまに傷ですが」


 シトルとローガンたちの馬が見えなくなると、アルベルトがニコラスに話し掛けた。


 アルベルトとニコラスいや、冒険者たちはシトルの優しさに気付いていた。

 冒険者として、ここまで来たのに途中で帰るのは、悔しいに違いないからだ。

 しかし、仲間である冒険者を助けたいという気持ちは誰もが持っていた。


 シトルは、誰もが言い出しにくい状況に、あえて名乗り出たのだ……。


「私たちも、さっさとゴブリンを倒して帰ろうぜ‼」


 指の関節を鳴らしながらミランが話す。

 その行動は、まさに狂戦士にふさわしい。


「そうですね……行きましょう」


 ニコラスは、ゴブリンたちを倒すために移動を始める。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――三十分後。


 森が切り開かれて崖がある場所に出た。

 その少し先に、洞窟らしきものがあり、ゴブリンたちが出入りをしていた。


「あそこに間違いないですね」


 ニコラスは確信する。


「そうですね。ゴブリンは暗い所を好みますから、しかし……」

「どうかしましたか?」

「出入りするゴブリンはいるものの、見張りがいないのは変だと思いませんか?」

「確かに……」

「罠……かも、しれませんね」


 ニコラスは思った。

 流石はランクAの冒険者だ。

 少しでも違和感を感じたら、慎重に慎重を重ねて事態と向き合っている。


「少し周囲の探索をした方がいいかも知れません。別の場所に、本当の入口があるかもしれません」

「分かりました。あと、指揮をアルベルト、あなたに任せても宜しいですか?」

「僕にですか? それは構いませんが、あなたに着いて来た冒険者たちは納得しますか?」

「それは大丈夫でしょう。ランクAの冒険者であれば、私よりも影響力はあります」

「……分かりました。冒険者たちが納得するのであれば、お受けしましょう」


 ニコラスは冒険者たちに、今後はニコラスの指揮に従うようにと説明をする。

 冒険者たちもニコラスの意図が分かっていた。

 幾度となく危険を回避してきた経験豊富なA級冒険者のアルベルトのほうが、より的確な判断ができるからだ。

 反対意見も無く、ニコラスの提案は通る。


 指揮を任されたアルベルトは、冒険者の力量を確認する為、二言三言の質問を冒険者全員にする。

 少し考えた後、アルベルトは冒険者を二班に分けた。

 一班は、罠だと分かっている目の前の洞窟に攻撃を仕掛ける。

 この班の指揮はラスティアが取り、先方はミランが担う。

 だが、洞窟に入り深追いはしない。

 あくまで戦闘をするのは、洞窟の外だけだ。


 もう一班は逃げ出すゴブリンを、気付かれないように追跡をする。

 可能性の問題だが、他の場所で待機しているかもしれないゴブリンを、確認しておく必要があったからだ。



「よっしゃーーーー‼」


 ミランは一人でゴブリンたちの所まで行くと、気合を入れるように大声でだした。

 ゴブリンたちは、ミランに気付くと、攻撃を仕掛けてきた。


 多勢に無勢……ミランには関係なかった。

 銀色に輝くアックスを両手で持ち、次々とゴブリンたちを倒していく。

 その光景に冒険者たちは呆気に取られていた。


「……俺たちの出番いや、戦う必要ないんじゃないのか?」


 冒険者の一人が呟いた。

 それほど、ミランの戦い方は凄かった。

 意気揚々と戦う姿。

 豪快でありながら、雑な戦い方ではない。

 ミランの戦う姿に目を奪われていた!

 ランクA冒険者の戦いを間近で見る機会は少ない。

 今の自分の力と比べて、圧倒的な力の差があることを思い知ることになった――。


「皆さん。行きましょう‼」


 ラスティアが冒険者たちへ出撃の指示をだした。


「おぉ!」


 ミランとゴブリンが戦う場所へ、冒険者たちが突撃した!



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ほとんどのゴブリンをミランが倒してしまっていたので、突撃した冒険者が数人で一匹のゴブリンを倒していたので、楽勝な展開だった。

 思った以上に歯ごたえのない相手だったのか、ミランは不満気味だった。


 しかし、油断をしてはいけない。

 洞窟の中へ逃げ込んだゴブリンや、別の場所へと逃げていったゴブリンの反撃があるからだ。


「しかし、臭いな……」


 ミランは自分の体の臭いを嗅ぐ。

 ゴブリンの体液は、悪臭とされていて、洗ってもなかなか臭いが取れない。

 短期間で臭いを落としたいのであれば、特殊な薬草を調合した洗剤が必要になる。


「お前らも、街に戻る前に水浴びしろよ!」


 ミランはオーリスの冒険者たちに向かって、冗談交じりに話す。

 冒険者たちも笑い、場の空気が和む。


「まったく、もう‼」


 ラスティアは、まだ戦闘が続いているのに笑っている、ミランたちに呆れていた。

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