第41話
リゼは、レベッカに教えてもらった地図を頼りに、地下水道の入り口に到着する。
レベッカから地下水道での照明代わりの松明に、ネズミ回収用の袋と、その中に入っているネズミの罠を十五個を受け取っていた。
思っていた以上に大きい地下水道を見ながら、大きく深呼吸をして、地下水道へと入る。
そして、陽の光が届かなくなる場所で、松明に火を灯す。
奥へと足を進めて行く。
途中で罠を仕掛けて、更に奥へと進む。
定期的に、ランクBのクエストで地下水道の調査等があるので、繁殖能力が高いネズミも、多くは居ないとレベッカからは説明を受けていた。
リゼはレベッカが話していた『赤い印』を探していた。
それ以上、奥へは進んでいけないので、どこまで入っていいのか分からなかったからだ。
それと、今回のクエストを受注した事で発生した『ノーマルクエスト』だ。
『達成条件:指三本で生活する』だった。
制限時間は、一時間。
この指三本が、片手なのか両手なのか分からなかったが、両手合わせて指三本という事は、時間が減る事で理解出来た。
この指三本という制限がリゼを苦しめていた。
指三本で安定して物を持とうとすると、必然的に片手になるからだ。
その為、松明も不安定だが、指三本で持っていた。
しかし、懸垂で疲労した握力は戻っておらずに、震えが止まらなかった。
生活するという曖昧な表現も、何かを持っている事で生活するという解釈になる事も分かっていたので、リゼは何かしらの物を指三本で持つようにした。
初めて入る地下水道は、リゼを警戒させる。
松明の光で照らされる濡れた壁。
時折、天井から落ちる水滴に、リゼは何回と驚く。
もしかしたら、水の中から魔物が現れるかも知れないという妄想まで膨らみ、不安になる。
ネズミの罠を十五個全て仕掛け終わる。
あとはネズミが掛かるのを待つだけだ。
しかし、レベッカが言っていた『赤い印』を見つける事は出来なかった。
もしかしたら、自分が思っていた以上に奥にあるのかも知れないと考えた。
リゼは、ネズミが十匹捕まえる事が出来なければ、更に奥へ進もうと考えた。
右手と左手で松明を持ち帰るが、リゼの握力は回復する事は無く、疲労は更に増す。
松明を落として、危うく火が消えそうになる事もあった。
一本目の松明が消えようとすると、一時間経過したようでノーマルクエスト達成となる。
成功報酬は、『素早さ:一増加』だ。
事前にクエスト内容が分かる分、成功報酬は下がっている。
しかし、リスクを避ける意味では仕方が無い事だと、リゼは思っていた。
罠を回収する。
思っていた以上にネズミが入っていない。
罠に掛かったのは、八匹だった。
リゼは、罠が作動しなかった七つの罠を場所を変えてもう一度、仕掛ける。
そして、暫く待つ。
リゼは赤い印を探して、地下水道を奥へと進む。
しかし、赤い印はすぐに見つける事が出来た。
リゼが最後の罠を仕掛けた場所から五分程、奥に進んだ個所に大きく目立つように印はあった。
リゼのような冒険者が見落とさないように、大きく描かれたのだろう。
(早く、この先に入れるようにならないと!)
リゼは真っ暗な赤い印の向こうを見ながら思う。
しかしリゼは、地下水道の調査は単独でなく、複数人でのクエストだという事を知らないでいた。
リゼの頭の中には、他の冒険者とクエストをするという事が無く。
あくまでの自分一人でという事しか無かった。
一人では限界があるという事を知らない事を、リゼは知らない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はい、十一匹ね。クエスト達成ね」
罠に掛かったネズミをレベッカに渡して、報酬を貰う。
これで、今日二つのクエストを達成したので、残り一つだ。
握力は少しだけ戻っている。
清掃系のクエストが無い事は分かっていたので、採取系のクエストをクエストボードを、もう一度探す。
色褪せた紙ばかりなので、文字が擦れている物も幾つかある。
(これは……)
ランクDや、ランクCのクエストボードは小さく、クエストも少ない。
重なってクエストが貼られている事もある。
ランクC以下の冒険者が、そうそう現れない為、クエスト紙の貼り方も雑になっていた。
リゼは気になって、受付へと持って行き、レベッカに渡す。
「あ~、これね」
「文字が擦れて読めないんですが……」
「そうね、ごめんね」
レベッカはクエスト内容を説明する。
クエストは、『店頭販売の手伝い』だった。
昼や夜の忙しい時間だけ、店頭販売している店の手伝いになる。
しかし、今は昼過ぎだ。
夜の仕事になるが、今も募集している店があるかはギルドも把握していなかった。
「今の時間帯だと難しいわね。夜でもいいのなら、今から確認するけど、どうする?」
リゼは悩む。
夜までは時間がある。
手伝う時間や報酬は、店によって異なる。
「それは又、今度にします」
「はい」
リゼはクエストボードに戻って、もう一度探す。
消去法で探していく。
「リゼちゃん!」
リゼが振り向くと、アイリが居た。
「これも貼っておくね」
アイリはランクCのクエストボードに『魔核の仕分け』と、『魔物の解体(軽)』に『魔物の解体(重)』のクエストの紙を貼っていた。
「ごめんね。私達の処理が遅れていたの。今度からは気を付けるからね」
「いいえ、ありがとうございます」
リゼはアイリが貼ったばかりの『魔物の解体(軽)』のクエストを剥がして、アイリに渡す。
受付でクエストを発注して貰うと、『ノーマルクエスト発生』が表示される。
クエスト内容は『利き手を逆にして生活する』だ。
利き手のリゼは、左手で作業をする事になる事になる。
解体作業は繊細さを要求される作業なので、今回は受注を見送る事にした。
ギルド会館裏にある解体場に向かいながら、これからも定期的に、このクエストがあれば悩む必要が無いと思う。
解体場には指導員兼作業員でもある解体業者のバーランが居た。
「宜しくお願いします」
「おぅ! 又、来たのか」
バーランは笑顔でリゼを迎えた。
解体場に持ち込まれた魔物を見渡して、リゼに解体可能な魔物を探す。
「……これか」
バーランはサーベルタイガーを選んで、リゼの目の前に持って来た。
「覚えていると思うが一応、見本を見せるな」
「はい、御願いします」
まずバーランが手本を見せて、次にリゼがバーランの作業を真似る。
内臓の位置や、皮の硬さ等も確認する。
覚えるより慣れろ。
ベテランの作業員が、若い作業員に言っていた言葉を思い出す。
頭で考えるよりも体が自然に動くようになったら、本物だ!。
バーランが、その言葉を若い作業員に掛けていた事も覚えている。
これは解体だけでなく、冒険者としても同じだと感じたからだ。
窮地に陥った時に、反射的に体が動く事で助かる可能性もある。
だからこそ、一刻も早くリゼは魔物討伐のクエストを受注したいと思っていた。
その為には、防具と靴が必要だとも分かっている。
流れでヴェロニカに甘える形になってしまったが、支払いを優先にすれば報酬の良い魔物討伐をしたいのも本心だ。
そんな事を考えながら、リゼは解体作業を続けた。
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