第32話
「おはようございます」
朝一番に、受付に現れたリゼの姿を見て、アイリは安心する。
「体調はどう?」
「はい。おかげさまで良くなりました。御心配お掛けして、すいませんでした」
リゼはアイリと、受付嬢達に頭を下げた。
「リゼちゃんが元気なら、それでいいよ。でも、無理だけはしないでね」
「ありがとうございます」
リゼはアイリから、昨日と同じクエスト『魔核の仕分け』を受注する。
当たり前のように、『ノーマルクエスト発生』と『強制受注』が表示されて消えると同時に、クエスト内容が表示される。
『達成条件:命令(指示)に従う』『回数:三回』
このクエスト内容に、リゼは表情を変える。
命令……「死ね」と言われたら、死ななくてはいけない。
先程、アイリが「無理だけはしないで」と言われたが、クエスト発生前なので無効だ。
魔核仕分けをする時に、バーランから指示を受ける。
よって、実質二回になる。
今迄は、時間的は期限を設定されていたが、今回は回数になっていた。
徐々に、クエスト内容も変化するのだと、リゼは考える。
リゼが一瞬、驚く表情を見せた事にアイリも気付くが、何も言わなかった。
時折、リゼが見せる表情にアイリは心配していた。
リゼは既に『デイリークエスト』である『達成条件:片足立ち三時間』を実行中である。
孤児部屋で三十分程、片足立ちを行っていた。
しかし、怪我が完全に治っていないリゼは、バランスを取る際に態勢を崩すと、怪我をした所に痛みが走った。
三十分が限度だった。
しかし、終わり間際に足を上げていれば良い事に気が付き、地面すれすれで片足を上げていても、数字が減って行く事に気付く。
しかし、歩行の際に片足になっても、数字が減る事は無かった。
受付で貰った紙を持って、作業場のバーランを尋ねる。
「おぅ、リゼ。体調は戻ったのか?」
「はい。御心配お掛けしました」
「元気ならそれでいい。じゃぁ、今回の仕分けを説明する」
バーランは昨日より難易度の高い魔核を用意していた。
種類が昨日よりも多い。
クエスト報酬は同じなのだが、難易度だけが上がっていた。
「分かりました」
「じゃぁ、頼むな」
「はい。それと、立って仕分けをしてもいいですか?」
「別にいいが、痛む所でもあるのか?」
「いいえ、座ってばかりだと筋力が落ちると思って……」
「そういう事か。別に仕事の体勢は、好きにすればいい」
「ありがとうございます」
リゼはバーランに礼を言って、魔核の仕分けを始める。
この時には、ノーマルクエストの達成条件が『残:二回(進行中:一)』と表示されていた。
魔核の仕分けにリゼは手間取っていた。
スライムの粘液は全て綺麗に洗い落とした。
しかし種類が多い為、思っていたよりも時間が経っていた。
傷が入っている魔核も、傷と判断するのかが難しい魔核もあり、余計とリゼを混乱させていた。
途中でバーランが様子を見に来る。
リゼが仕分け終わった箱から、魔核数個を手に取る。
(魔核洗いは、相変わらず綺麗に出来ているな)
リゼはバーランの表情を気にしていた。
きちんと仕事が出来ているか、不安で仕方が無かった。
「それは、仕分けで悩んでいる魔核か?」
「はい」
リゼは悩んでいる理由を、バーランに話す。
バーランは詳しく説明をしながら、教えてくれた。
魔核から魔物名に、魔核の傷が付いた理由。
又、魔核を傷つける事無く討伐する方法等だ。
リゼにとっては、とても有益な情報だった。
バーランもリゼが魔物に詳しい事に驚いていた。
魔核の場所は魔物により異なる。
むやみに攻撃すれば魔核を傷付けるし、魔法によっても損傷する事もある。
リゼがする質問は魔物について、かなり勉強をしなければ知らない知識だったからだ。
正直、バーランは冒険者で無く、このまま解体の仕事に就いてくれないかと思っていた。
真面目に仕事をして、知識もある。
これで解体に特化したスキルがあれば、言う事が無い。
しかし、リゼが外れスキル持ちだという事は、知っていた。
バーラン自身も、スキルによって今の仕事を選択しているし、この作業場で働く仲間の殆どもそうだ。
作業場の職人達が授かったスキルは『解体』や『刃物使い』、『選別』等が多い。
学習院でも、最初から生産系職業を選択している。
バーラン自身、冒険者に憧れもあったが自分のスキルでは、冒険者になっても活躍が出来ない事を、冒険者を選択した同級生を見て痛感していた。
「これで、残りの魔核も仕分け出来るな」
「はい、ありがとうございます」
リゼはバーランに礼を言って、魔核を仕分ける作業を再開した。
バーランから助言を貰った事で、仕分けは順調に終わる。
デイリークエスト達成までの時間も、約一時間半くらいまで減っていた。
リゼはバランの所に、作業が終わった事を告げに行く。
「そうか、最後の確認をするか」
バーランが立ち上がろうとするが、リゼの向こうにいる作業員に向って、バーランが指示を出していた
「おい! そこのアルミラージだが、解体しておいてくれ」
リゼの向こうにいる作業員に出した指示だが、バーランとリゼの目が一瞬だが合う。
その瞬間に、ノーマルクエストの達成条件が『残一回(進行中:二)』と減っていた。
リゼに頼まれた訳では無いが、目が合ったことで『指示された』と解釈をされたのだろう。
「バーランさん!」
リゼは目の前に居るバーランの名を大声で叫ぶ。
「どっ、どうした?」
大声で名前を呼ばれたバーランは驚き戸惑っていた。
「その、アルミラージの解体ですが私にさせて頂けませんか?」
リゼはアルミラージの解体が、クエストの『魔物の解体(軽)』か、『魔物の解体(重)』なのかは分からなかったが、クエストの罰則を回避する為に言わずに叫ばずにはいられなかった。
「……そうだな。魔核の仕分けが終われば、続けて『魔物の解体(軽)』を受注してくれ」
「ありがとうございます」
リゼの目の前に又、『進行中:三』と表示される。
つまり、進行中の内容を全て達成しないと、未達成になってしまう。
リゼは頭の中で整理する。
最初は、『魔核の仕分け』だ。
これは、バーランに確認確認をして貰い、受付にクエスト達成の書類を提出すれば問題ない。
次はアルミラージ解体をする事と、このクエストを受注するだけで達成となる。
(大丈夫だ!)
リゼは内容を確認終えると、自分に言い聞かせるように心の中で呟いた。
バーランの確認が終了する。リゼの仕事に問題は無かったので、クエスト達成の書類をリゼに渡す。
そして、リゼと共に受付に行き『魔物の解体(軽)』をリゼに受注させた。
その様子を見ていたクリスティーナは、怪我が完治していないリゼが精力的にクエストをこなす姿を見て、「無理をして、怪我が悪化しなければ……」と、少し心配になる。
リゼが『魔物の解体(軽)』を受注した事で、新たにノーマルクエストが発注される。
『達成条件:自分で解体した肉を食す事』『期限:三時間』と表示される。
つまり、解体するアルミラージを調理して食べなければいけない。
解体する魔物の所有権は、冒険者ギルドにある。
勝手に魔物を食べたりする事は、窃盗行為にあたる。
リゼは悩んだ。
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