第10話

本屋を出て、坂道を下り、線路の前の少しカーブがかっている通りの和歌子のマンションまで歩いて来た。

今しかない。今なら言える。

「和歌子さん。読んでもらいたい小説があるんです。今から僕のアパートへ来ませんか?」

「え?いいんですか?行きます」

和歌子はオーケーしてくれた。

そこに話しかけてきた。

「そう言えば、大西さん。あの朝、どうして私に会いにきたんですか?」

にやにやしながら聞いてくる。

俊一郎は一瞬、戸惑ったが、彼女のにやけた顔を見て

「もう、わかってるくせに」

と言った時、俊一郎のひと言は、走ってくる電車にかき消されたのであった。

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二十七歳の恋(後編) 林 風 @hayashifu

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