第7話

和歌子に渡そうとしていた小説。『君と結婚できないなんて』。不器用な男が、女性と婚約しているが、結婚できないと言われてしまい、男が散々悩んだ挙げ句、憐れみと同情で、女性に結婚をオーケーされる、俊一郎のオリジナルの話だ。その女性の名を、和歌子と書き換え、彼女に渡そうとしていた。それは、そのまま机の上に置きっぱなしにしてあった。

本屋さんへ行ってみたくなった。家にいても、くだらないことをごちゃごちゃと考えてしまうからだ。普段なら自転車で行くのだが、歩いていくことにした。

和歌子のマンションの前を通り、歩いていった本屋に足を踏み入れる。静かだった。歌謡曲が流れていた。

『さよならを繰り返し、君は大人になってく。さよならを言えただけ、君は大人だったね』

という歌詞を誰かが歌っている。頭がくらくらする。さよならも言えてない。大人にもなれてない中途半端な自分がそこにいたからだ。帰りたくなった。

「大西さん?」

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