精霊馬
鳥皿鳥助
初盆
盆。
それは死者が一年に一度、現世を生きる子孫の最も近くに
「さて、婆さんや。準備は良いかね? 」
「とっくの昔に出来ておるよ。そんなことより爺さん、またいつかみたいに道を間違えないでくれよ? 」
「むっ、昔の事……と言うか生前のことを言うでないわい!! 」
二人の老人はそんなことを喋りながら
二人でゆったりと歩き進んでいると通りがかりの人がコソコソと隠れながらこちらを見て何か話をしている。
「お、吉村さん。今年もだけど、アンタの所の精霊馬凄いねぇ! あれなら一瞬で行けるんじゃないかい? 私も先を越されないように早めに出なきゃねぇ。お先に~! 」
「吉村さん! あの精霊馬は何だ!? ありゃもはや馬じゃねぇだろ!! 」
コソコソと話すだけでなく、一年ほど早く
「なんじゃ、婆さん。凄い不安になってきたんじゃが……」
「あー……爺さんは私が死んでから倒れちゃったから知らないか……心配する事は無いよ。『私達の孫が凄い』って事なんだからね」
お婆さんは自信ありげな顔で歩みを進めていく。
__________
「今年は爺ちゃんの初盆か。去年の精霊馬は車だったけど今年は何にしようかな……父さん、何が良いと思う? 」
「お婆ちゃんと揃って来れることと速度を考慮して……オスプレイで良いんじゃない? 」
これは晩ご飯を食べている一家の会話である。
最近の家庭では精霊馬を作らない家庭もちらほら存在するであろうが、この家族は作る方の家庭だった。
去年は『折角婆ちゃんの初盆なのに、ただキュウリに割り箸を刺すのは芸がない』と言う息子の言葉によって車が制作された。
ちなみに去年も今年も母親は呆れた顔で眺めている。
「よっしゃ! 後で作ってくるぜ! 」
__________
「ぬおぉぉぉぉぉ! 分からん!! 操縦方法が分からんぞ孫よぉぉぉぉぉぉ!!!」
空中で錐揉み回転するオスプレイの操縦桿を握るのはお爺さん。
最初は副操縦席に座るお婆さんに格好付けようとしていた物の、半世紀以上前のレシプロ機以外全く触ったことのないお爺さんには扱えきれない代物だった。
「鈍くさいねぇ、爺さんは。私がやるわよ」
「婆さん……一体どこで操縦方法を……」
「説明書を読んだのよ」
「なんじゃと……いやいや! それより孫よ……次は儂にも運転出来る乗り物で頼む……!!」
……孫は夢でこんなお爺さんの声を聞いたとか聞かなかったとか。
「おはよう。何か……来年はスーパーカブを作らないといけない気がしてきた」
「今から来年の事を考えてどうするのさ。さ、起きたなら
精霊馬 鳥皿鳥助 @tori3_1452073
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