第8話

おすしを食べている間、しばらく彩子と母親の会話だけが、そこで交わされていた。あまりおすしに手を加えなかった。いや、加えられなかった。このおすしがなくなった頃に、彩子は武の方に目で合図した。い、いまだろうか。いや、ここまできたら、もう後には引けない。心臓がバクバクし、今にも心臓が口から飛び出すかのように、一世一代の勇気をふりしぼり、父親に言った。「娘さんを、い、いえ彩子さんを僕にください!」

父親はやっと言ってくれたと言わんばかり、

「武君。君は近頃にはめずらしく実直な青年だ。わたしも以前から、よくわかっていた。彩子は小さい頃から、わがままなところがある。しかし、武君ならきっとそれを、受け止めてくれる。彩子を幸せにしてくれるね」

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