第6話
「武さん、おすしが届きました。こちらへ座って」
母親が、軽く手招きすると、引きずられるように、さっきの席に正座した。
「うむ、武君、まあ召し上がりたまえ」
父親がそう言うと、「はいぃ」と、急に背筋を伸ばし、置いてある割りばしを割った。「あっ」割りばしを割ると、真ん中から急に斜めに割れはじめ、実に中途半端な割れ方をして、その割りばしでは、もう食べられないようになってしまった。
「あらあら、武さんの割りばし、いじわるだこと」母親が笑顔で言う。
「武さん、大丈夫よ。私のを使って」
彩子は自分のを代わりに差し出した。
「あ、ありがとう、彩子さん」かしこまって、彩子にお礼を言う。「もう」彩子は誰に言うでもなく立ち上がり、武におはしを渡すと、台所へ自分のを取りに行った。
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