誰かどこかにいますか?
視界が失われている。手を伸ばすと触れた床が冷たい。その感触が私以外の存在物を知らせてくれる。私は空間のうちにある。
おそらく室内だ。空気が淀んでいる。寒くも暖かくもない。触れた床が体温に馴染むにつれて、私自身の輪郭も曖昧になっていく。身体が解けて拡散していく。次第に刺すような孤独が滲出し始める。世界が、他者が失われる孤独だ。
それが恐ろしくてまた手を伸ばす。冷たい床に触れる。私は私を取り戻す。そしてゆっくりと床を這い始める。
どれほど進んだかわからない。壁には辿り着かない。今や私は遅々とした速度にもどかしさを感じている。しかし壁に向かう理由はなんだろうか? 答えはない。理由を見出だせない余剰だ。私は転ばないよう立ち上がる。関節は凝り、身体全体が重い。注意深く一歩踏み出す。足裏の感覚を研ぎ澄ませながら歩く。どこかに向かって。それは壁かもしれない。イメージの壁には非常口が付き、扉の上でピクトグラムが緑色に発光している。
光はまだない。私は歩いている。いつかどこかに辿り着くだろう。そこへ向かっている実感がある。身体は軽くなっている。
わわわわ けいろ @keidokaii
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