第6話 新たな出会い
「…う――ん……?さっきと特に変わらないようですけど。何か得られたような感じもしないですね」
「それは精霊たちの力がきちんと体にも魂にも受け入れられた証拠ですよ。それにあくまでも神託は精霊たちの力の欠片に過ぎないですから、自身でそうと自覚できるようなことは稀です。
本当は教会の関係者で生命魔法を使える方に判定してもらうんですけど、今日は私がしてあげますね」
そう言うとティアは得意気な笑みを浮かべながら「いっきますよー!!」と気合十分に右手を振り上げて、「ちちんぷいぷいの……えいっ」と言って人差し指を弥行にむける。3人がそれぞれ心の中で「それはさすがに古い」とツッコミを入れたつかの間、指先から小さな光の玉が飛び出て、弥行のまわりをゆっくりとふわふわと漂うと、しばらくしてパチンと音を立ててティアの右手へと帰った。
「これで判定は完了です。何が出てくるかわくわくしますね」
「…今のって、確か中級の生命魔法ですよね。まあ、当たり前と言えば当たり前なのでしょうけど、練習したわけでもないのにいきなり成功させるのはすごいです」
「こんな見た目してるけどちゃんと神様だもんね~。こんな見た目してるけどね~」
「むう。サラ。こんな見た目って言うのやめてください。確かに神様としてはこどもくらいの年齢ですからみなさんより小さいですけど!やる時はちゃんとやるんですっ。ほらっ!!」
ティアの声に合わせて光は体に吸い込まれる。やがて判定の結果を知ったティアはその表情を固まらせた。
「え、何どうしたの。もしかしてやばいもんじゃないよね」
「…え?神託って体に害があるようなものを授かったりするのですか?」
「いえ、基本的にそのようなことはありません。ただその特殊な効果を発揮させる時などに、まれに副作用のようなものが出ることがあるのです。こればかりは精霊が意図したものではなく、同じ神託を貰っても副作用が出たりでなかったりもするので、個人差があるのですが…」
リーファやサラはティアの反応に緊張をにじませる。一時してそれに気づいたティアは皆を安心させるようにと笑みを浮かべた。
「違うんです。誤解をさせてしまってごめんなさい。神託の内容自体は問題があるようなものじゃありませんでした。ただ…」
「ただ?」
「………それがですね。歴代にいくつかあるすっごくレアな神託の中でも、さらに激レアな神託なんです!もうびっくりしました。まあでも弥行だから納得ですけど!」
「あ――――、ね………」
「……まあ弥行ですもんね…」
「…え、そこ納得するところです?しかもなんかだいぶ含みがあるような言い方なのですけど……。まあいいです。それで結局何だったのですか?」
「
「
弥行は些か自信無さげな反応を返す。その心情を唯一理解できたサラは、励ますようにポンとやさしく彼女の肩をたたいた。
「大丈夫だって。弥行なら何の問題も無いよ。今までだっていろんな力を努力で勝ち取ってきたんだし。
それに
「おや。あなたが戦闘以外の知識を持っているなんて珍しいこともありますね。そのとおりです。
…そもそも精霊たちは高位生命体ですから、現世で生活する生物達が知覚することは通常不可能です。今ここには私達のようすを興味心身で見ている精霊たちがたくさんいますけれど、弥行には見えないですよね?」
「そうですね」
「それは彼らが弥行が本来いるところと少しずれた位相に存在しているからで、そこへのアクセス権がこの神託の正体なのです。しかしそれだけ持っていても何の意味もありませんから、ここからはあなたの素質が鍵になります」
「そうだね。…ほら、弥行がもともといた世界には『魔法』って言う概念が無かったでしょ。だから弥行にはあっちの世界に生きる人間達なら誰もが少なからず持ってる魔法を扱う素質、もっというと魔法式を演算するための精神領域が全然無いんだよね。こればっかりは仕方ないんだけどさ。
でもそれだと戦闘を行うにはあまりにも無謀すぎるからさ。下手したらちょっとしたことでその細い腕が折れかねないんだもん。それに敵が人間相手だけならまだしも、あっちの世界には魔物って言う人間達にとっての共通の脅威もいるから、そんなのと戦わせるのはさすがに分が悪すぎる。……ってわけであたしが万人が扱いやすい『身体強化魔法』じゃなく!これまた特殊な能力を弥行に伝授したよね!!それは!!?」
サラは途中で妙な興が乗ったのか、役者のように大きな身振り手振りで弥行に尋ねる。対して弥行は至って平静で質問の答えを口にする。
「『体内循環式身体強化』ですね。文字通り活性化させた魔力を全身に均一に循環させ、体外へともらさないようにする身体強化のやり方です」
「ザッツライ!」
「ああそれなら確かに弥行に適性があるのも頷けますね。あれは魔力のコントロールに関して頭おかしいレベルで高い素質がなければいけません。その昔、高い戦闘能力を誇り武力で世界の半分を支配するにいたった王の参謀が『後ろ手で針の穴の糸通しをミスらず秒1で行い続けるに等しい悪魔の精神力』と言ったとかいう逸話が残るくらいで」
「、、、……え?」
「…いえあの、ティア様?あなたにそんな異次元の化け物を見るような目で見られると大分傷つくのですが…」
「ま、そういうわけだから弥行はいつも通り身体強化やる感じでやってみて?ただし今回はいつもよりたくさんの魔力を倍以上に活性化させて。そうすれば位相の壁をかるーく超えられるはずだよ!!」
「………それ全然いつも通りでもないですし、さらっとかなり高い要求なのですが…」
弥行はティアの反応に少なからず傷ついたのと、サラのかなり難易度の高い要求を前に珍しく顔をしかめながら、言われたとおりのことを実行するために意識を研ぎ澄ませて行く。
…やがて閉じていた目を開けると、そこには色とりどりの大小さまざまな“人”が木の周りを埋め尽くすようにして弥行をじっと見つめていた。
『みゆき――みゆき――わかる―――?』
『やった―――!!こっちみたよ――――!!』
『みゆき―――そっちばっかりみないでわたしたちをみて!!それでかくれんぼしてあそぼ!!」
『え――そんなのずるい――。わたしたちとなわとびしようよみゆき―――」
弥行の周りを取り囲む手のひらサイズの精霊たちは。弥行が自分たちを認識したことに気がついて、それぞれが次々と話しかけようとする。
その声はだんだんとボリュームを増して煩さに思わず耳をふさごうした時。
「静かにしなさい」
その声は決して大声というわけではなく、むしろざわつきに掻き消されてもおかしくないほどの落ち着きがあったが不思議と空気に浮かび上がるように響き渡り、それを合図にサッと辺りに静寂が満ちる。
「ごめんなさいね。ここにいる子達はみんなあなたと話をしたがっていたから、はしゃいじゃっているのよ。耳痛かったわよね?大丈夫?」
そう言いながら現れた“彼女”は周りにいた精霊たちに少し後ろに下がるよう指示を出す。
対して弥行の方は見上げるほどに大きな美しい姿の彼女に、心の中で感嘆のため息をついて、ゆっくりと口を開いた。
「お気遣いありがとうございます。耳は大丈夫です。…あの。皆さんは以前から私のことを知っていたそうですが、こちらは初対面だと思うのですがどういうことなのでしょう?」
「あ、そうよね。私目線で話をしていたわ。…あのね。私達精霊は、あなたが行くことが決まっている世界の創世に関わっているから神や天使たちと同じでちょっと特別な能力を持っているの。だから神の家で暮らしているあなたのことをずっと遠くで見させてもらっていたの。もし気に障ったならごめんなさい」
弥行は申し訳なさそうにする彼女に対して慌てて手を振って答える。
「いえ!!気に障るなんてことはありません。ただきちんと挨拶をしたこともなかったのにこれほど関心を向けてもらって、さらにこんなレアな能力を貰ったりして不思議だなと思ったものですから」
「ふふふ。それはね、元々私達精霊は暇をもてあまし気味だから、誰か話し相手になってくれそうな人を探していたっていうのもあるんだけど、この神の家で暮らしているあなたは今まで私たちが見てきたどんな『ヒト』とも違う特別な輝きがあったから気になってしょうがなったの!だからどうしても直接お話ししてみたくてちゃんと調べたらあなたが
彼女は子どものように無邪気な笑みを浮かべて楽しそうに空中でふわりと踊る。弥行もその光景につられて小さな笑みを浮かべていた。
その後弥行たちはしばらくの間話をしたり、他の精霊たちともかくれんぼやだるまさんが転んだなどの遊びをしたりして(途中からティアたちも加わった)交流を深めた。彼女(水の精霊を統べる存在であると後で発覚した)はもっと弥行と仲良くなりたいと名前をつけるよう強請り、弥行は少し考えて彼女にアイリスと名づけた。
「ひゃーく!!おっしゃいっくよー!!今度は全員見つけるからね――っ覚悟しろ――!!!」
「……あ、あのサラ?あんまりやる気出さないでくださいね。さっきもあわや一面クレーターの危機だったんですから……」
「そうですよ。………今度ティアさまの手を煩わせるような真似したら、食事抜きの刑にしますからあなたのほうこそ覚悟して貰いますよ」
「えっ!!!なんか今かなり不吉な声が聞こえた気がするんだけど、リーファなんて言ったの――!?」
「ほーんといつまでたってもみんな子どもよねー。むしろ最年少であるはずの弥行の方がずっと落ち着いてるじゃない」
「ふふ。でもおかげで毎日退屈しないですみますし、ああ見えて困った時とかは的確にアドバイスをくれたりするのでとても助かっています。不安になることもありますけど、こうした毎日があるから少しでも前を向いて歩み続ける勇気がわいてくるのですから皆には本当に感謝しているんです」
「そう?…なら私もちょっとは皆に負けないように、弥行にすごいところを見せちゃおうかしら?」
アイリスはいたずらっ子のような笑みを浮かべて弥行を見つめる。
「え?それはどういう…」
「今、弥行には自分ではどうしても解決できない悩みがあるんでしょう?それを解決するお手伝いをしてあげようかなって思って。あのね、」
そうして弥行の体力が続くまで和気藹々とした交流は続けられたのだった。
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