十六歳少女、傷心自殺

 こんにちはKです。

 今回は、今までとは少し違った事件をご紹介します。


 平成十年七月四日、多摩市落合にある団地で、少女が自殺を図りました。

 少女の遺体と共に、遺書が発見されました。


 ☆ ☆ ☆


 私は無実です。なのに、私は責められました。

 TVや新聞に取り上げられ、SNSでは中傷され、学校に通う事が出来なくなりました。

 家には毎日の様に誰かが訪れ、罵倒の言葉を浴びせていきます。毎日の様に石が投げ込まれます。

 

 父は、仕事を首になりました。母も、パートを首になりました。

 悪意のある中傷を受けて、友人達は疲弊しています。責任を感じた友人の一人は、既にこの世にはおりません。


 何で有りもしない事で、責められなければならないのでしょう。私だけでなく、友人や家族まで責められるのでしょう。

 父と母を苦しめたのは、私なのでしょうか? 全て私が悪いのでしょうか?


 それでも私は訴えます。

 私は無実です。


 ☆ ☆ ☆


 遺書はそのまま、とあるTV番組で紹介されました。

 番組の司会者や出演するコメンテーター達は、マスコミの在り方について、声を高らかに疑問を投げかけます。

 私は、酷く怒りを感じました。


 少女が自殺に至る大きな原因となったのは、その番組です。

 最初は、SNSでの炎上でした。添付された幾つかの写真に、問題が有った事は間違いありません。

 その炎上騒ぎが新聞記事になり、その番組でも取り上げられました。


 しかし、事の真相を詳しく調査もせずに、記事にした事。また、それを取り上げTV番組で大々的に少女を罵ったことで、問題が大きくなりました。

 そして同番組は、自らには責任が無いと言わんばかりに報じます。


 私は、少女の自殺を、殺人行為だと考えています。

 謂れも無い中傷を受けた少女と、その家族はれっきとした被害者でしょう。また被害を受けたのは、その少女と家族だけでは有りません。多くの方が被害にあいました。

 少女を殺したのは、現代社会です。


 これから、この殺人事件のあらましを、説明致します。


 最初は単なるいたずらだったのです。いじめとは程遠い、仲間内で笑える程度のいたずら。冗談で済まされる程度と、考えていたのでしょう。

 

 少女が通う高校に、顔の一部が似ているクラスメイトがいました。仮に被害者の少女をW,顔が似ている友人をIとしましょう。


 平成十年五月上旬の事です。

 Iさんは、Wさんにドッキリを仕掛ける計画を思いつきます。そして、何名かのクラスメイトと一緒に、計画を実行しました。

 

 先ずは、Iさんが顔の一部を隠し髪型を変え、Wさんと見分けを付かなくします。そして、Iさんが木刀の様な物を持って、あたかも友人を虐めている様な写真を撮影しました。

 次に、Iさんの自宅近くにあるコンビニエンスストアの店主へ、自主製作映画の撮影に協力して欲しいと頼み込みます。

 そして、Iさんがあたたかも万引きをしている様な写真や、店員を刃物で脅す様に見える写真も撮影しました。

 他にも、Iさんが友人にナイフらしき物を突きつけ、恐喝している風を装った写真等も撮影しました。

 

 Iさんとその友人は、SNSのグループチャットにそれらの写真を添付し、Wさんに見せて驚かそうとしたのです。

 無論、バカッターなどと言われる、酷い内容のツイートをする者達と、同じ事をする気は有りません。あくまでも、友人グループ内でのみ閲覧可能な、鍵垢と呼ばれるものでやり取りをするつもりでした。


 勿論、Wさんは驚くでしょう。自分と似た人物が、犯罪紛いの事をやっている写真を見せられるのですから。そして、Wさんから驚いたコメントがチャット内に打ち込まれた後、ネタ晴らしをする予定でした。

 

 この時点で、行き過ぎたいたずらだと言えます。ただ、そのまま計画通りに行けば、然程大きな問題になる事は無かったのです。

 

 若さ故か一気に盛り上がって、様々な写真を撮ってはみた。しかし冷静になると、流石に度が過ぎている。そう感じたIさんと友人達は、その写真を削除する事に決めました。

 Iさんは、スマートフォンの内部に収まった写真データを、その場で消します。写真を共有した友人達にもデータの削除を求め、友人達はそれに同意しました。


 問題はこの後に起こります。

 友人達のほとんどは、その場で写真データを削除しました。しかし、一人だけ先に帰宅した友人Oがいたのです。

 Iさんは、Oさんに写真データの削除依頼を、SNS上で行います。Oさんからは、直ぐに承知した旨の返信が返ってきます。

 

 OさんがIさん達と別れたのは、バイトの時間が迫っていたからでした。

 また、OさんはIさん宛てに、バイトが終わったら必ず消すと、SNSで告げてました。

 そして、普段なら手放す事の無いスマートフォンを、バイト先の制服に着替える為にロッカーに仕舞います。

 

 その時のOさんは、運が悪かったとしか言いようが有りません。

 バイト仲間で、Oさんに密かな好意をよせるMという少年は、この日Oさんと入れ替わりのシフトでした。

 着替え終わったのを見計らい、M少年はOさんのロッカーを漁ります。そして、スマートフォンを手にすると内部データの閲覧を始めました。

 その時はまだ、いたずらの写真は消去しておりません。M少年はその写真を見て、面白半分にSNSで拡散しました。それも、Oさんのアカウントを利用して。


 その事に気がつかず、Oさんはバイトを終え、Iさんとの約束通りに写真データを削除します。

 しかし時遅く、既に写真は炎上屋と呼ばれる者達の手で、急速に拡散をしていきます。JKの実態、伝説DQN〇〇高校の〇〇等の面白半分のタイトル、どこから入手したのかWさんの実名を付けられて。


 ですが、これはまだ地獄の序章でしかありません。


 最初に炎上騒ぎを報じたのは、ネットのニュースでした。写真が拡散した翌朝には、炎上騒ぎの事実と事件を起こした女子高生Wと実名を伏せられて、ネットに掲載されました。

 また炎上騒ぎは、有名なブロガーにも取り上げられます。


 これを受けて警察は、Wさんの自宅に押しかけます。

 登校前で支度途中であったWさんに、窃盗及び暴行の容疑で任意同行を求めました。当然、Wさんは何の事か全く理解が出来ていません。

 そしてWさんは、警察署で謂れのない罪を問われ、脅迫めいた尋問を受けました。


 また、警察は事件のあったコンビニエンスストア、写真に写っていた友人達も事情聴取を受けます。

 コンビニエンスストア店主や友人達の証言で、窃盗と暴行の実態が無かった事が判明します。しかしその間、Wさんは精神的に酷いストレスを抱えたに違いありません。


 釈放され学校へ向かう途中、Wさんは多くの人から、心無い言葉を吐かれたそうです。

 学校、自宅には苦情の電話が鳴り響きます。当該コンビニエンスストアは好奇の目に晒され、何も購入しない見物客で溢れかえり、営業どころでは無かったようです。


 Wさんが登校するや否や、校長室に呼び出されます。

 そこには、家族の姿とIさんら友人達の姿も有りました。そして大勢の教師達に囲まれる中、Wさんは詰問を受けます。

 当然、Wさんは身に覚えが有りませんので、答えようが有りません。Iさんら友人達は、ただのいたずらで誰にも迷惑はかけていないと弁明します。


 しかし教師陣は、それで納得する訳がありません。

 SNSで炎上騒ぎになり、ネットニュースにもなっています。ネットニュースで伏せられているものの、SNSでは学校名と個人の名前が特定されています。苦情が殺到しているのです。

 

 そして何故、SNSで写真を拡散したのか。そこに問題が集約されていきます。

 ただそれに関しては、Iさんら友人達も身に覚えのない事です。事実、すぐにデータは消去したのですから。誤操作でSNSに拡散する可能性も低いでしょう。

 そうなると、バイト中で消去が遅れたOさんに、SNSでの拡散疑惑が向けられます。しかし、WさんはOさんを庇い、教師陣に訴えました。


「Iさん達が、私にいたずらを仕掛けようとした事は理解しました。ですが、OさんがSNSに拡散したのは、何かの間違いです。Oさんは、絶対にそんな事はしません。友達を裏切る人では無いです。どうかOさんを信じて下さい。Iさん達もおんなじです。直ぐに写真データを消したという事は、度が過ぎたいたずらだと、反省したからです。反省をした人間を、責め立てる事は止めて下さい。校長先生、それと先生方、どうか私達を信じて下さい」


 Wさんはこの時、信じていました。

 自分は何もしていない。多少の行き過ぎは有っても、友人達は世間に顔向け出来ない程の、罪を犯した訳ではない。

 警察は、自分に罪が無いから釈放をした。SNSの炎上は、放っておけば収まるだろう。


 しかし、とあるTV番組で炎上騒ぎが取り上げられ、出演者達に酷評されました。それが真の地獄の始まりでした。


 SNSでは、TV番組の一部が切り取られ、再び拡散されます。

 WさんとIさんを始めとした、騒動に関わる友人達は、悪意の有る愉快犯だとして、全て実名を挙げられ非難されます。

 学校や各自宅には、苦情の電話は更に酷くなります。各自宅に投石をする者も出始めます。


 騒ぎは酷くなる一方で、学校はWさん達を停学処分とします。通学中の事故を抑止する計らいでもあったのでしょう。しかし、その事が騒ぎを助長させました。

 停学になった事で、事件を起こしたのは真実であったと、言われる様になったのです。


 同校の生徒達の中に、各自宅に押し寄せる者が出始めました。そして自宅前に大挙して、説明しろと騒ぎ立てます。

 その行動はSNSで取り上げられ、祭り騒ぎの様に囃し立てられました。


 それからは毎日の様に、各自宅へ誰かしらが訪れ、玄関前にたむろして騒ぎ立てます。投石も毎日繰り返されます。

 Wさん、Iさんの父親は、懲戒免職の処分になります。その他の家庭においても、謹慎処分となった父親が出始めます。そして、パートを首になった母親も続出します。


 責任を感じたIさんは、過度の摂食障害に陥りました。一週間以上何も口に出来ず、やがて意識が混濁し、病院に運ばれました。

 停学となった友人達も、然程変わらない生活を送っていた様です。中には、自傷行為に及んだ友人も存在しました。


 そんな中、Wさんはグループチャットを利用し、友人達を励まし続けました。

 友人達は一様に、憔悴しています。返信が返って来ない事も多かった様です。しかしWさんは、諦めずに励まし続けます。

 そして、SNSでも訴え続けました。自分達は何もしていない、無実であると。


 しかし、Wさんが訴える度に、騒ぎは酷くなります。

 新聞やTVは、挙って炎上騒ぎを取り上げては、当事者に否定的な意見を投げかけ、騒ぎを助長させます。

 ネットの住民達は、TV等で自分の書き込みが取り上げられると、喜々として更に煽り立てます。


 病院へ緊急搬送された者、自殺未遂者が発生。それに加えて、近隣住民からの苦情。これを受けて、警察は重い腰を上げます。


 警察が記者会見を開いたのは、Wさんの任意同行から、実に一か月は経過していました。警察は会見で、経緯の説明をすると共に、SNSでの中傷を控える様に促します。


 既に一か月が経過し、騒ぎに飽きる者も出始める頃でしょう。しかし、Wさん達への攻撃は収まりませんでした。


 自宅だけではなく、自家用車のガラスが割られ、タイヤはパンクさせられます。一歩外に出れば、罵倒の嵐です。罵倒されるならまだしも、半グレと呼ばれる集団に囲まれ、リンチされる事も有ったようです。


 各家庭では、買い物にすら出掛ける事が出来ません。配達を頼めば、危険だからと拒否されます。

 最早、Wさん達を悪者に仕立て上げ、攻撃を繰り返す事で、ストレスを発散している様にしか思えません。


 そして、最後の止めとなる事件が起きます。

 一連の騒動に、深い責任をかんじていたIさんは、入院先を抜け出します。そして、遺書を残して自害します。

 これがきっかけとなり、Wさんは殺人犯だと、ネット上で叩かれました。


 友人達を励まし続けてきたWさんは、遂に限界を迎えてしまいます。

 度重なる攻撃に、我慢の限界を超えたWさんの両親は、警察に被害届を提出する為に外出します。


 そして両親が外出している間、Wさんは包丁で胸を刺し、亡くなっていました。


 何故TVは、自分達に罪が無いと言わんばかりの報道が出来るのでしょう。

 何故SNSで中傷していた人達は、息を潜めて知らぬ振りをしているのでしょう。

 何故学校は、彼女らを救ってやれなかったのでしょう。

 何故警察は、彼女らを助けてあげなかったのでしょう。

 何故世間は、そうまでして彼女らを叩いたのでしょう。

 

 私は、Wさんのお葬式に参列した時、ざまあみろという言葉を聞きました。


 何故、死者を冒涜する言葉を吐けるのでしょう。

 

 当時、私は一連の騒動に疑問を感じて、調査を行いました。それ故、事件の真相を深く知っております。

 私はネット上で、彼女らを擁護しました。しかし、私はネット上で多くの攻撃を受け、SNSアカウントは凍結されました。

 また、新聞局やTV局へ何度も投書しました。当然、反応は有りません。電話をしても切られるだけでした。

 警察署に騒ぎを収める様にお願いしても、派出所の警察官がたまに巡回し、自宅前にたむろしている人達を散らすだけです。


 あれだけの騒ぎになったのです。事件の発端となったM少年が、口を閉ざすのも無理は有りません。良心の呵責に苛まれたM少年は、精神的な病を患い現在も入院をしております。

 そんなM少年も、死に追いやるのでしょうか?


 私は、時折この事件を思い出し、無性にやるせない気持ちになります。

 皆さんはこの事件、どうお考えになるでしょうか?

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