少年少女誘拐監禁事件
こんにちはKです。
死んだ魂は、何処に行くのでしょう。残された遺族の悲しみは、何処にぶつければいいのでしょう。ましてや失った無垢な命、その無念を晴らす事は出来るのでしょうか。
今回は平成十五年四月、埼玉県春日部市で起きた、誘拐監禁事件をご紹介します。
この事件が起きてから、既に十年以上が経過しています。
一時は騒ぎになりましたが、もう風化しているのでしょう。誰もこの事件について、話題にしません。
しかし、思い出して下さい。この事件は、ただの誘拐監禁事件では有りません。多くの子供達の命を失った、痛ましい事件なのです。
事件が明るみになったのは、同じマンションに住む住人の通報からでした。
何やら異臭がすると、警察に通報が有りました。強制的に立ち入った警察が、その室内で見たのは、拘束された十歳前後の少年少女が七名。そして、バラバラになって放置された死体は数知れず。
しかも、ばらばらになった死体は、一部が紛失していました。
警察はマンションの借主を、誘拐と殺人容疑で緊急指名手配を行いました。そして、事件から一か月後、福岡県福岡市で容疑者の身柄が確保され、逮捕へと至りました。
おそらく、警察の捜索から身を隠して九州へ逃亡し、最終的には福岡空港から、海外へ逃亡する予定だったのでしょう。
当時、潜伏先となっていたのは、福岡県の古賀に有るアパートの一室。近隣住民の通報から、福岡県警が捜索を開始。福岡空港近くで、容疑者の身柄を拘束しました。
その時、逮捕となったのは、マンションの借主であった容疑者、そして恐らく協力者であると推測される人物の二名でした。
逮捕された二名は、児童性愛が有った為に拉致し、性的暴行とポルノビデオの撮影に及んだと供述しました。
確かに、現場からは多数の児童ポルノビデオが発見されました。しかし、それだけの事で、殺害にまで及ぶでしょうか。
警察は、容疑者二名の身辺を調査しました。
そして判明したのは、二名が闇金融から多額の借金を負っている事実でした。
恐らく児童ポルノは、販売目的で撮影したのでしょう。しかし、疑問はまだ残っております。
それは何故、殺害し遺体をバラバラにしたのか。遺体の一部は、どうしたのか。この二点です。
警察は、容疑者二名と、闇組織の繋がりを疑いました。
闇金融、それを経営する暴力団にまで、捜査の手は及びました。しかし、これと言った物証は、発見されません。
また、容疑者二名も、彼らとの関わりを否定しました。
結局は容疑者二名を、児童虐待と、暴行及び殺人、死体遺棄の容疑で逮捕。そして起訴に至ります。
しかし本当に、闇組織との関係が無いと言えるのでしょうか。
十年前の事件です。私自身、聞き込みには時間を要しました。
監禁され、生き残る事が出来た七名の少年少女は、既に二十歳を超える年齢になっております。しかしほとんどの方が、当時のトラウマから精神障害を患って、未だに入院を余儀なくされております。
既に亡くなっている方もいらっしゃいます。
私は、入院している病院を全て調べ上げ、取材協力を依頼しました。しかし、取材が出来た方は、ほどんどおりません。
仕方の無い事です。思い出したくも無い、過去でしょうから。その事件を仄めかしただけで、発狂する方も少なくありませんでした。
唯一、協力して下さった方、仮にMとしましょう。
Mさんは、覚えている限りの事を、赤裸々に私へ話して下さいました。
ただ、ここではっきりと言っておきます。
Mさんは、淡々と私にご説明なさったのでは有りません。時折、悔し気な表情をし、言葉を詰まらせ、最後には涙を流しながら、私に話しをして下さいました。
「覚えている限りの事を話します。その代わり、必ず世間に公表して下さい」
私は、Mさんが語った最初の言葉を忘れる事は出来ません。どれだけの想いで、私に協力して下さったのでしょう。頭が下がる思いです。
それ故に、私はこうして筆を取っております。
誘拐自体は、極めて有りがちな手段でした。
一人で下校中の子供を狙って車で近寄り、力づくで連れ去る。因みに犯行に使われた車は、警察が押収しました。
犯人の二人が、児童性愛というのは、恐らく嘘の供述です。
目的は、膨らんだ闇金融への借金返済。その為の児童ポルノ撮影でした。その証拠に、犯人の二人がポルノ撮影の為に性行為へ及んだ際は、かなりの不満を漏らしていたそうです。
また、撮影した児童ポルノは暴力団が捌き、利益の一割を生活費として渡され、それ以外は全て借金の返済へ充てられていたそうです。
暴力団が犯行現場のマンションに出入りしていた事、金銭の受け渡しが有った事は、Mさんが目撃しています。その際に、話していた事も、Mさんは聞いておりました。
それは、幼い子供にとって、更なる地獄へ突き落すものだったのでしょう。
「こんなビデオだけじゃ、利子にもならねぇんだよ。借金は今この瞬間にも、膨れ上がってる。完済するには、もっと稼いで貰わないとな」
「これで借金が返せるって言うから、こんな事までしたんだ。今更そんな事、言われても」
「あのなぁ。利子ってのは、一秒でどれだけ増えるかしらねぇのか? てめぇらじゃ、何をしたって返せねぇ程に膨らんでんだよ。まぁ、俺達も鬼じゃねぇ。一つだけ、借金の完済方法を教えてやる。やるか、やらねぇかはお前らの自由だ。だが、やらなければ、てめぇらは一生奴隷だ」
そして、提案されたのは、臓器売買です。当時の警察が、暴力団まで捜査したのは、この物証を得たかったからでしょう。
暴力団側は、余程巧みに隠蔽したのでしょう。若しくは、何かの裏取引が有ったのでしょうか。
どちらにしても、闇金融や暴力団への捜査は、早々に打ち切られたのは事実です。実際にMさんは、一連の事を当時の警察に伝えております。
何らかの取引が有ったと推測しても、あながち間違いでは無いと思いませんか?
当時のMさんは、拉致された子供達の中でも、一番の年長でした。Mさんは、拉致された子供達を励ましながら、助けが来るのを待ったそうです。
大声を出して助けを呼べば、もっと救出が早かったのでは?
これは、既に警察が発表しています。当のマンションは、防音設備が整っておりました。確かに、防音設備が整った環境でなければ、ポルノビデオの撮影は出来なかったでしょう。更にMさんは、付け加えます。
大声を出せば、指を一本ずつ折ると、犯人達に脅されていたそうです。
食事は一日に一度だけ。トイレで用を足す際は、犯人の一方が必ず見張りに付く。大人でさえも、心を病みそうな監禁状態に置かれた子供達には、より残酷な状況が待ち受けていました。
犯人達に、暴行や強姦される事は日常茶飯事。それ以外にも、子供達だけで性行為をさせられたそうです。それでも、Mさんの励ましで、心の均衡を保っていたのでしょう。
そして犯人達は、暴力団の言われるままに、臓器販売に手を付けました。当然、対象は拉致した子供達です。
叫び声が一切漏れない様に、子供達は猿ぐつわを嵌められます。犯人達は、麻酔など持っていません。響く事の無い悲痛な叫びを上げながら、腹を切り裂かれ、内臓を取り出され死亡します。
殺されたのは、一人では有りません。一人、二人と励まし合って頑張って来た子供が、目の前で無惨に殺され、身体をバラバラにされていくのです。
これが、子供達にどれだけのショックを与えたか。子供達は、次々と心を壊していきます。
Mさんは、当時の事を振り返り、私にこう語ってくれました。
「当時の自分に有ったのは、奴らへの憎しみだけでした。だから、目の前の光景を焼きつけ、絶対に復讐する事を心に誓いました」
子供にこんな決意をさせた。それがどんなに残酷な事か、おわかりになるでしょう。
Mさんが、どんな思いで子供達の死を、目に焼きつけてきたのか。未だに、悪夢でうなされるそうです。
私は、Mさんが嘘を言っているとは思えません。そもそも、Mさんが嘘をつくメリットが、どこに有るのでしょう。
子供達が、臓器販売の為に殺されたのは事実です。
犯人の二人は、死刑判決を宣告されました。
しかし犯人の二人を唆し、利益を得た者達は、未だにのうのうと暮らしております。
臓器売買を行った組織を、許してもいいのでしょうか?
そして万が一にも、警察がそれを見逃したのだとすれば、この国の治安を誰に委ねたらいいのでしょう?
最後にMさんは弁護士を通して、被害者の会を結成すると語ってくれました。
現在は、死んだ被害者の遺族や、入院中である被害者の両親に働きかけている最中との事です。結成後は闇金融を含めた暴力団を、法的手段に訴える予定だと語ってくれました。
私は取材協力の報酬を兼ねて、相応の資金援助をさせて貰いました。
Mさんや、遺族の方々が声を大にする事で、事件の真相が明るみになる事でしょう。
それにより再び捜査が始まり、真の悪に法の裁きが下される事を願っています。
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