千代田区神保町スナック店員、バラバラ殺人事件

 こんにちはKです。

 今回は、昭和六十二年に起きた事件を紹介致します。

 この時期は、バブル景気に日本中が溺れ、誰もが金を湯水の様に使っていました。そんなバブル全盛期に起きた痛ましい事件です。


 事件が起きたのが七月三日。公務員には、ボーナスが支給されている時期です。秋川の山中で、バラバラになった死体が発見されました。

 死体を発見し警察に通報したのは、トラッキングを趣味としていた二十歳の大学生。

 死体は無惨にもバラバラになって発見されました。発見当時の死体は、首、動体、手足と各部が、山の中に点在していました。発見者の男性は、たまたま被害者の手を目撃し、通報に至った様です。


 死亡した死体の身元は、捜査により直ぐに判明しました。

 千代田区の神保町にあるスナック、そこで働いている二十四歳の女性。未婚で一人暮らし。平均して月百万以上を稼いでいた、人気の店員だった様です。


 被害者の女性は、一週間ほど前から出勤しておらず、連絡もつかない状態だったと、警察はスナック関係者から証言を得ています。


 神田付近と言えば、古くから書店が集まり、またお茶の水近辺では楽器店が集合しています。また、近辺には大学が集中し、学生の街として知られています。カレーで有名な街でもあります。

 また近くには、日本武道館、靖国神社が存在します。


 バブル当時は地価が高騰しましたが、この地域は比較的高騰が抑えられていた様です。それによる諸問題も多数発生した様ですが、事件には直接の関係が有りません。


 捜査の結果、容疑者として浮かび上がって来たのは、当時大学教授を務めていた三名。この三名は被害者の女性にかなりの贈り物をしていた様です。

 警察は怨恨の線で捜査を進め、三名の大学教授に尋問をしました。尋問の結果、被害者の女性が死亡したと思われる七月の三日は、大阪で行われてたシンポジウムに参加しており、アリバイは確かだと思われていました。

 

 そして、捜査を進めた結果、ある目撃者の証言で状況は更に複雑となります。

 シンポジウムの前日七月二日に、容疑者になっていた教授の一人。ここではA教授としましょう。このA教授が一名女性宅を訪れ、タクシーを使い共に東京駅へ向かった事が判明したのです。

 被害者の女性とA教授を東京駅まで乗せたと、タクシー運転手からの証言も得ました。そして東京駅では、大阪行きの新幹線、指定席のチケットを二人分購入した履歴も確認出来ました。


 ただ、捜査官を悩ませたのは、大阪に向ったはずの被害者が、なぜ秋川の山中でバラバラになって発見されたのか。

 この時点で最大の容疑者となったA教授は、その日に大阪へ到着し、ホテルにチェックインしているのです。

  

 そして警察は、A教授を任意出頭を求めて、事情聴取を行いました。その結果、A教授から供述を得て逮捕、起訴へと至ります。

 そして裁判では、殺人事件の犯人として実刑判決が下されます。

 

 これだけを見れば、A教授を犯人と断定するのには、証拠が不足しております。仮に供述を強要されたとしても、A教授は裁判で無罪を訴える事も出来たはず。なのにA教授は、それをしなかった。

 それは何故か。


 この当時、警察は殺害動機を怨恨としています。

 そして警察が、A教授を犯人であると仮定したのは、一つの事実からでした。

 出発時は、二人で新幹線に乗った。しかし、大阪に到着した時、A教授は一人であった。これは、駅員からの証言を得ています。

 当然ながら、ホテルにチェックインしたのは、A教授のみでした。また、A教授が東京駅を出発したのが、午前十時。そして大阪に到着したのが、午後七時。到着にまで九時間を要した。この間に新幹線を途中下車し、犯行に及んだ可能性が高いと踏んだのです。 


 途中下車を想定した捜査の結果、A教授と被害者の女性が、新横浜の駅で下車した目撃証言を得ました。

 駅近くでA教授がレンタカーを借りている事も、判明しました。


 A教授は、殺害目的で被害者の女性を連れだした。女性を誘った口実は、大阪旅行。しかし予定を変更し、新横浜駅で途中下車しレンタカーを借り、秋川へ向かった。

 そして山中で、女性を殺害。そのまま死体を遺棄し、新横浜まで戻った。返り血が付いた服は、車内で用意していた服に着替え、新幹線に乗り大阪へと向かった。

 返り血が付いた服と女性を殺害したサバイバルナイフは、レンタカーで移動している途中で破棄した。破棄した場所は、覚えていない。

 これが、警察がA教授から得た供述です。

 そして裁判でも、この供述が覆る事は無く、無期懲役に至ります。


 さて、ここで私が得た、事件の真実をご紹介しましょう。

 確かにA教授がレンタカーを借りたのは、事実です。そしてレンタカーを返したのも、A教授です。しかし、実際にレンタカーを運転し、女性を殺害した犯人は別に存在します。


 犯人の動機等をお話しするには、被害者の女性について説明をしなければなりません。

 被害者の女性は、仮にMとしましょう。Mは、確かに千代田区の神保町にあるスナックで勤務していました。ただ、よく考えて頂きたい。


 新宿等の繁華街にある高級クラブであれば、月百万を稼ぐ女性はざらにいたでしょう。もっと稼ぐ女性もいたはずです。

 幾ら当時がバブル全盛期であったとしても、千代田区の神保町付近の飲食店で、月百万を稼げるでしょうか。

  

 確かにMは、勤めていたスナックでは、人気がありました。しかしそのスナックだけでは、そこまでの収入を得ていなかったようです。

 またMは、拝金主義的な一面もあった様です。そして、Mの被害にあった男性も少なくなかったらしいです。

 

 バブル当時は、男性が女性に貢ぐ事は往々にしてありました。アッシー君、メッシー君等の言葉が流行した位ですから。

 Mも、複数の男に貢がせていました。Mを目当てにやって来た客に、思わせぶりな態度を取り、自分に気が有る振りをする。そして貢がせる。中には借金までして、Mに貢ぐ客も現れる。


 ただそこまでは、界隈で当たり前の光景かもしれません。

 そして、当時のサラリーマンの収入は、今では考えられない程の金額です。多少の借金なら、直ぐに返せたのでしょう。


 しかしMが上手かったのは、仲良くなった客を言葉巧みに、闇賭博に誘った事でしょう。闇賭博を仕切っているのは、暴力団です。

 暴力団は、初めて訪れた客に大勝ちさせます。懐が温かくなった客は、Mに良い所を見せようと、再び闇賭博へ赴きます。

 ただし、段々と負けがこんで来ます。そこでMが金を貸して、賭博を続けさせます。結果的にMへの借金が膨らみます。


 最初は、Mの貯金を資本とした、個人的な金貸しだったのでしょう。ただ、暴力団と繋がりを持つ事で、規模が大きくなります。

 Mの収入のほとんどは、多額の利子だったのでしょう。取り立ては、暴力団が行います。また、Mの友人複数が協力者であった事も、後に明らかになっています。

 中には、借金が膨らみ首が回らなくなった男性も存在しました。


 その男性こそが、殺人の実行犯です。覚えておいででしょうか、第一発見者となった二十歳の大学生、彼が実行犯となりました。

 本来であれば、第一発見者も容疑者となって当然です。しかし、直ぐに容疑者から外れたのは、Mの勤めるスナックへ出入りが無かったからです。

 Mと直接の関係は無いと判断されたのでしょう。しかし、真実は異なります。

 

 実行犯の男性は、A教授のゼミを受講しておりました。また成績が優秀だった事も有り、A教授から目をかけて貰っていました。

 たまたまA教授が誘ったキャバクラで、一人の女性に一目惚れし、彼は常連となりました。しかし不運だったのは、彼が一目惚れした女性は、Mの協力者でした。

 それ以降は、語るまでも無いでしょう。


 暫く大学へ顔を出さなくなったA教授は、不審に思いました。そして、実行犯の男と連絡を取り、事情を知りました。

 借金で首が回らなくなった彼は、闇手術で内臓を摘出し、売却した金で借金を返済していました。しかし膨れ上がった借金は、それでも返済しきる事が出来ませんでした。

 

 A教授は、Mの周辺を調査しました。そして判明したのが、被害に遭ったのは一人ではなかった事です。被害者の中には、A教授の実子もいました。怒ったA教授は、警察にこの事を打ち明けます。

 しかし、捜査は直ぐに打ち切られました。

 

 闇賭博に行った事が知られれば、逮捕となります。被害者が早々口を割る事は有りません。当然、暴力団側も、資金元を失う訳にはいきません。余程巧妙に、事実を隠したのでしょう。


 Mを許してはおけない。A教授の怒りは頂点に達しました。

 A教授がMの勤めるスナックに通い出した時は、既に殺人計画が始まっていました。A教授は、Mに多額の貢ぎ物を送ります。しかし、闇賭博に誘われても、言葉巧みに躱します。

 Mは、新たな獲物を前に、歯噛みをする様になります。


 そしてMとA教授の関係は、均衡を保ったまま続きます。そしてMが焦れている事を察したA教授は、大阪旅行に誘いました。

 A教授との関係を深め、食い物にしようと企んでいたMは、快く誘いを受けます。

 

 A教授は、新幹線に持ち込んだ酒に、薬物を混入させました。そしてMを泥酔状態にします。そこからは、供述とほぼ変わりません。実行犯が、A教授ではない事を除いて。

 殺人計画に被害者の一人である実子を混ぜなかったのは、親としての愛ゆえでしょう。そして、A教授は全てを背負って、事件の犯人となります。

 

 この話を私にしてくれたのは、A教授の実子と実行犯となった男です。

 どの道、A教授の罪は殺人教唆であり、罰が軽減される事は考え辛いです。そして、実行犯である男の罪は、逃れる事が出来ません。そして、事実を知りそれを隠蔽したA教授の実子も、何等かの罪に問われる可能性が有ります。


 A教授の実子と実行犯となった男は、既に家庭を築き子供もいます。容易に、事実を公表する訳にはいかない状況もあるでしょう。

 恩師が自分の罪を被っている事に、長年苛まれてきたのは間違いありません。私に真実を話してくれたのは、良心の呵責からでしょう。

 

 ただ私がこの話を皆さんにしたのは、本当の加害者は誰なのか、そしてこの事件がどう解決されるべきか考えて欲しかったからです。

  

 報道されている事だけが、真実ではありません。

 その裏に隠された事実を知らなくては、本当の意味で善悪を判断する事は出来ないでしょう。

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