四話 「骸の巨鯨」

 体から幾つか骨が突き出ている。


白い肌に黒く照曜する毛並み、それが口を開けば無数の牙が敷き詰められていた。


頭から生えている二本の角は、尻尾に向かって伸びている。


それに目は、ついていない。


否、正確にはついているのだろうが、全身が毛に覆われて確認することはできなかった。


確認したくない。





目を見開き、酸素の巡りを全身で感じる。


体は、一切の微動を許さない。





「葵......見えるか?」





身動きの取れない俺は、救いを求めるように、やっと俺に追いついた葵に語り掛けた。





「んー? どうし――」





幽霊である葵でさえ、その異形を前に硬直する。





「どうした、二人とも」





葵よりも少し遅れてやってきた未麗は、不思議そうに俺と葵にそう言った。


見えていないのか?この異常を?





「先輩、見えてないんですか!?」





「未麗ちゃん! 大きなお魚が......!」





夕日を喰らう巨大な影。それは日々の惰性を穿ち、優雅に泳ぐ。





「一体全体どうしたんだ、何がそこにいる」





理解不能な焦りがその空間を撫で、不安が緊迫の音を奏でる。





そして――





目の前に映るその惨劇に怖気づいた心臓が、悲鳴を上げる。





「――ん?」





その悲鳴を嘲笑うように、不気味な咆哮と共に体毛を逆立て、化物が目を見開いたのだ。そう、体中に寄生するその紅に発光する瞳を。





そして徐に口を開き、接近する。


それはそれは、まるで笑顔を掲げるような容貌、夕日を血飛沫で染め上げたような絶景、果実を踏みにじったあの感覚の様な、不愉快極まりないその宵闇で。





「あっ――」





その様はまるで、鯨の捕食。





俺は骸に、食べられた。

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そのうちやってくる怪異に立ち向かう俺は、幽霊ちゃんと一緒にオカルト研究会に入会します @hypo

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