ぱらぱ~♪(必殺のテーマ風) Take2

 ノブを緩めて、ドアをけ飛ばす。


 ドカッ! ガタン!


「しっつれい、しまーす!」


 いきなり開いたドアと白々しい俺の挨拶に、中にいた池谷含む四人がぎょっとするのがおかしい。

 ……ふむふむ、全員で四人か。おーおー、悪そうというよりバカそうなツラしてやがるわ、四人とも。


「よー、池谷。おまえのツラなんか見たくなかったが、この前ぶりだな」


「! な、なんでおまえ……らが! 小松川まで!」


「今だけちょうどア〇ソックのバイトやってんだよ」


「う、嘘言え! その制服、全く違うニセモノじゃねえか!」


「細かいこと気にすんなよ。なんだか、佳世を招待してなにやら楽しいパーティーを予定してたようじゃねえか。俺たちも混ぜてもらおうかなと思って寄ってみたわ」


 目が泳いでるぞ、小心者のくせに脅迫なんてすんじゃねえ。


 俺がふてぶてしく言ったセリフにビクッとした池谷は、少し怯んだあとにあわててお手伝いさんに向かって叫ぶ。


「お、おい何やってる! 早く警察を呼べ!」


「いや、警察は呼ばない方がいいと思うが? 自分で自分の首を絞めるだけだろうからな」


「な、なにを……」


 そこで俺は握りしめた拳に力を込め、部屋内へ足を踏み入れた。ああ、アドレナリンどっぱどぱ。


「……佳世は、自殺をしようと、手首を切ったぞ」


「!」


「残念ながら、池谷。おまえが送ったメッセージのおかげで、佳世が手首を切った理由も想像がついてる。警察が来れば、おまえも連れてかれると思うんだがな」


「な、なんで……」


 自殺、という言葉に池谷が少しだけ顔を青ざめさせるのは確認できたが。


「おうおう、てめぇ、他人の家でなにスカしてやがる? ボコボコにされて監禁されてぇか」


「チョーシこいてんじゃねえぞ」


「おまえ一年か? やっちまうぞコラ」


 かなりの怒りを込めた俺の言葉を意にも介さず、まわりにいる三人がすごんでくる。一昔前のヤンキーみたいなすごみ方だな。斜め四十五度からのガン飛ばしとウンコ座り。

 ここは家の中だというのに、なんでウンコ座りですごんでくるのか意味不明。


 しっかし、たかがヒロポンの部屋なのに、なんでこんなに広いんだ。二十畳くらいある部屋。金持ちって本当、地球にやさしくない。

 気のせいか、部屋の中がちょっとばかりイカ臭いけど。


「れ、れ、れんらくぅ!」


 お手伝いさんはなにやらびっくりして、そう絶叫したあと階段を降りて行った。


「あーあ、お手伝いさん警察呼んじゃうね。じゃあ、佳世がハメ撮りで脅されたことを苦に自殺を試みたことで、池谷君もタイーホだねえ」


「な、な……しょ、しょうこ、しょうこ、メッセージだけじゃ証拠にならないだろう! いくらでも捏造できる!」


「頭膿んでんのか? そんなの、おまえのスマホやPC調べられて、佳世のハメ撮り動画とか画像が出てきたら言い訳しようがねえじゃねえか」


「ぐっ……」


「もしタイーホされても罪がこれ以上重くならないように、早くその動画なり画像なり全消しした方がいいと思うぞ?」


 俺の挑発を受け、慌てて池谷は自分のスマホを操作し、終わるや否やすぐにベッドわきのテーブルにあったPCを操作し始めた。


「……消したんか? だが、お友達と共有してたら、おまえだけ消しても意味ないんだが?」


「か、佳世の動画は誰にもコピーさせてない! だからこれで証拠はない!」


 池谷の動揺ぶりからして、その言葉に嘘はなさそうだ。つばを飛ばしながら必死でしゃべってる池谷は、醒めた目で見ればイケメンからイカゲソくらいにスケールダウンしとるな。ああ、だから部屋の中がイカ臭いのか。納得。


 いやー、それにしてもバカは面白いくらい手のひらの上で踊ってくれるね。とりあえずあっさり第一関門突破。


「ま、いいさ。おまえら過去にもやらかしてんだろ? 槍田パイセンのこととか。リベンジポルノ防止法なんてもんがあるからな、それなりの罰は期待かくごしとけ」


 続いてナポリたんが俺のわきに並び、バカどもを指さしながらドヤ顔をする。


「あ、あれは俺は関係ない! 星田先輩が勝手にやったことだ!」


「ば、バカ! 黙れ池谷!」


 けーさつからんで責任転嫁開始。見苦しいわ。

 脅すなら最初からそんくらい覚悟しときゃいいのに。星田という名前らしい男を指さして糾弾する池谷が必死過ぎてもうね。殴りたい、このゲソ顔。


「ほう……現住所が角田市××町○○の△△。家族構成は母ひとり、姉ひとり。誕生日は一月二十三日。趣味はAV疑似プレイ強要。血液型はB型、の、星田卓巳ほしだたくみ、か。槍田パイセンの動画を拡散した奴は」


「なっ……!」


「で、あとは誰が悪い? 同じく角田市に住む藤沢清隆ふじさわきよたかか? それとも、素行不良でウチの高校を去年すでに退学済みの穂積博幸ほづみひろゆきか?」


 ナポリたん、そういや池谷の過去を調べるとか言ってたから、つるんでた人間の情報くらいは知ってて当然だわな。

 三人とも、素性がバレていることで一瞬だけおそれを顔に浮かべたが。


「こ、このくそチビがあああぁぁぁ!」


 すぐに穂積と呼ばれたソフトモヒカンの男が、やぶれかぶれモードでナポリたんに殴りかかってくる。


「おっと」


 ナポリたんは身体を右に少しだけ傾けてそれをかわし。


「なってない。正拳突きとはこうやるんだ」


 一歩踏み込んで穂積のみぞおちに左拳を叩きこむ。少し鈍い音が聞こえた。


「うぐっ!」


 思わぬ反撃を食らい、たまらず穂積が片ひざをつく。

 それを確認したナポリたんは、畳みかけるべくそのひざを踏み台にして、軽く飛び上がり。


「くらえ、天誅!」


 放った右膝蹴りを、男の側頭部テンプルへ叩きつけた。

 ガシンッ! という衝撃とともに、断末魔の叫び声も上げず崩れ落ちる穂積。見事に失神したっぽい。


「ほう……やるな」


 吉田先輩が感嘆の声をあげるのを聞いたのか、ナポリたんは着地した後、得意げにない胸をそらせた。


「いっちょあがり。いちおう死なないように加減はしたから、正当防衛ということでヨロシク」


「おおう、シャイニング・ウィザードとはまた派手な技を」


「相手次第だからな、なかなか使う機会はない」


 さすが一子相伝の暗殺拳継承者。

 ネタばらしするなら、友美恵さんがなんだか聞いたことのない格闘術の師範なんだけどね。弟子は取ってないから後継者がナポリたんしかいないという。

 美良乃母さんに行くはずだった運動神経もすべて受け継いだ存在だから、ナポリたんは小さくても侮れない。この身長でバスケ部レギュラーなのも納得である。


 ……とはいっても、シャイニング・ウィザードってジーニアス様発祥のプロレス技なんだけどな。まるでご都合主義ラノベのような倒し方だ。


「た、タマシイ抜けてませんか、あの男の人……?」


「ナポリたんも手加減したみたいだし、まあ死んではいないと思うよ……たぶんね。巻き添え食らわないように気を付けて、琴音ちゃん」


「は、はい。だいじょうぶです! 主水さん、さすがです!」


 琴音ちゃんの中で、ジェームズさんが主水さんに変化したようです。棒読み。


 とりあえずひとり倒した。俺たちは残った三人に目を向け、一歩前へとそろって進む。


「……さて? 残りの方々はどうなの? 誰が悪者なのかなぁ? 全員か?」


 ナポリたんの大技に飲まれたか、それとも後ろに控える吉田先輩の威圧感にやられたかは知らないが。カスどもの威勢のよさがあっさり消失した。

 煽りは俺の得意技。ここで煽らなきゃいつ煽るってね。さあ踊れ。


「ひ、ひっ。ち、ちがう! 動画を流そうと俺をそそのかしたのは藤沢だ!」


「ば、ばかやろう! それにホイホイ乗っかった実行犯は星田だろ! 俺はなんもしてない!」


 焦りながら内輪もめ継続中のカスどもが予想以上にカス過ぎて笑える。

 これはどっちも有罪ギルティーということでいいだろ。


「ということらしいですよ吉田パイセン。こいつらが例の件での主犯共犯であることは間違いないっすね。あとはお任せします」


「……わかった」


 ナポリたんから譲られた吉田先輩が、ゼロフレーム始動でダッシュしたかと思ったら、すぐに藤沢と星田、ふたりの首に両腕を絡める。

 これが噂のガード不能技か。ジョインジョイントキィ、みたいな絶望感あるよね、対戦相手には。


「ぐっ、く、く……」

「や、やめ、ぐえぇ……」


 みるみるうちに二人の男の顔色が苦し気に。

 その傍らで俺とナポリたんは、のんきに解説を始めた。


「おお、ふたり同時に絞め落とそうとするとは、さすが霊長類最強の異名を持つ我が校バスケ部歴代最高のセンター。ボクも瞬殺されるな間違いなく」


「やっぱりか……それさあ、男に生まれてるから、間違いなく何人か殺してるんじゃないの、あの先輩……?」


「ふだんは温厚な人だからそれはない。それにあいつらならもし死んでも人類の損失にはならん」


「損失にはならないけど重犯罪にはなるでしょ、カスを始末して重罪人になるなんてバカバカしいから、キリのいいとこで止め……あ、落ちた」


「そのようだな。ジャスト十秒だ……おお、藤沢と星田だけじゃなく、穂積まで一緒に抱えはじめたぞ。しかも軽々と。吉田パイセン無双だ」


「お隣国に中継されてたら【絶望】ってあだ名をつけられそうなシーンじゃん……」


 解説よりも行動が早い。気絶中の三人を抱えたまま部屋の出口まで歩を進めた吉田先輩は、くるりと振り返って俺たちにやるせなさそうな笑顔を向けてきた。


「……今日はありがとう。こいつらを警察にそのまま渡したら俺の気が済まない。ちょっとだけ世間の厳しさを教えてやりたいと思う。あとは任せていいか?」


 俺やナポリたんはおろか、琴音ちゃんまでなぜか敬礼をしてしまうくらいの怒りのオーラを見せられたら、吉田先輩を止められるわけもない。かなわん。


 …………


 なんか槍田先輩の病み始めは、おそらく……いやいやそこに今触れちゃいけない。それにこいつらなら別に。


「らじゃです。感謝します、吉田パイセン」


「ああ……そのうち、キミらと今日のことを笑い話として語り合いたいものだな。じゃあ……俺は行く」


「……」


 ナポリたんとおとこ同士のやり取りを終え、覚悟のうえで戦場へ向かうような吉田先輩であった。なんかわけわからないけど、うん、フラグが立ったとでも思うことにしよう。笑い話になるとはとても思えないが、これにて敬礼終了。


 で、やんちゃ仲間は三人とも霊長類最強先輩に連れ去られ、イカ臭い部屋に残ったのは池谷ただひとり。


「……さあ、どうする? 池谷? お仲間はもういないぞ?」


 俺の言葉で虐殺モード突入だ。悪者を精神的に追い詰めるって楽しいわ。

 俺とナポリたんと琴音ちゃんは、三人並んで一斉にジリッ、ジリッと近づき、池谷へプレッシャーをかけつつ、言葉による蹂躙を開始する。


「おまえさあ、ボクたちやバスケ部員含め、係わったみんなに対してシャレにならないことをやってたって自覚ある? 死んで詫びるか?」


「や、やめ……」


「おまえが精子脳だったおかげで、佳世は手首まで切ったんだけど? 覚悟しろよ、年貢の納め時だぞ?」


「い、いやそれは……」


「おまけに、は、ハメ……撮り……とか。ああ、なんてド変態であんぽんたんなおっぱい星人なんでしょう。1ナノグラムもない脳で必死に考えて、悔い改めてください」


 琴音ちゃん相変わらず辛辣。そして池谷がおっぱい星人だとやっと認めたようでよかった。


「……く、くそおっ!」


 床にへたり込んでいた池谷は、いきなり錯乱したかのように立ち上がり、琴音ちゃんへ飛びかかった。

 おそらくそれは追い込まれた末のおっぱい星人としての本能だろう。1ナノグラムしかない脳みそなら、本能しか残ってないわな。


 ──ハイ迎撃。


「させるかボケェ!」


 予想していた行動なので、俺は渾身の力で池谷にアックスボンバーを見舞う。


「ぐあっ!」


 鼻っ柱に当たって、池谷が一瞬ひるんだ。が、倒れない。

 そこで、いきなり飛びかかられそうになった琴音ちゃんが。


「きゃあっ!」


 ぶんっ! 


 反射的に、右手で握りしめていた、先ほどナポリたんから手渡されたゴールデンハンマーを振り上げて、池谷に追撃を食らわせた。


 ──グシャッ!


「gjふいvtきょ;ぃ;thふじかpkp@うぃふぉえwjf!!!」


 そのハンマーがなんと、池谷の股間へジャストミーーート! 福沢さんこっちです。

 音が鈍かったのがリアルすぎる。どうせなら『キーン!』とか効果音が響けばよかったのに。


「……お゛、な゛に゛……」


 バタッ。


 あ、白目むいてる。最後に『おまえ、なにしやがる』とでも言いたかったんか?

 因果応報過ぎて言葉は特にないが。敵ながら、前のめりに倒れたことだけは評価してやるわ、ヒロポンよ。

 そして愛情のなせるコンボ技は無敵、ふふん。


「これは男にしかわからない痛み。間違いなく致命傷」


「……おお、マジで口から泡吹いてるぞおもしれー。今度から池カニって呼んでやろうか」


「あ、あの、それはあまりにもカニに失礼では……?」


「ほんと辛辣だね琴音ちゃん。でもそんなとこが好き」


「す、すすすす、すすきってってってってれー!!!」


 照れでテンパった琴音ちゃんの横で、その痛みを理解しないナポリたんが、面白がって池カニ泡堕ちの瞬間を写真撮影している。響くシャッター音がむなしい。


「やったな白木、ゴールデンハンマーで池谷のゴールデンボールをゲットだ」


「いらないです」


 琴音ちゃん即答。笑うわこんなん。

 それにしても、池谷の一番大事なものを奪ったことは間違いない、恐るべしゴールデンハンマー。

 ま、潰れてたほうが世界中の女性のためではある。こんな黄金玉、猫もまたいで通るにきまってるもんね。


 …………


 ちょっとお気楽極楽すぎる必殺仕事現場だったけど。

 池カニがあわ吹いてるうちに、動画消してそのまま放置だった池谷のPCでも探っておこうっと。

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