バスケ部、再開
佳世のことが、どうでもよくなったあれ以来。
表面は平穏な日々を過ごす、俺と琴音ちゃんであった。
まあ、多方面からツッコまれることも増えたが、かわすのも慣れてきたように思う。
順応って恐ろしい。闘牛士スキル特級までは到達できそうだ。
例えば。
琴音ちゃんちに行くと、
「琴音ったら、最近何かを思い出したかのように、しょっちゅうベッドの上でゴロゴロしながら足をバタバタさせてるんだけど。祐介くん、心当たりないかしら?」
「……さあ。なんでしょうね」
初音さんに問い詰められては、しらばっくれて。
クラスの奴らには、
「白木殿、最近また
「……なんで小太郎が泣くんだ。マーグでも死んだのか?」
わけのわからない追及をされつつも、うまくはぐらかし。
あまつさえナポリたんも加わって、三人一緒にいるときなど。
「あー、そういや聞いたか? 池谷が再度佳世につきまとい始めたらしいぞ」
「はいはいわろすわろ……なんだって!?」
あっぶねえ、流しそうになったじゃねえか。サラリと爆弾ぶん投げるなよ、ナポリたん。
いやね、確かにおかしくはないんだけどさ、追い詰められた精子脳なら、種の保存のため躍起にもなるだろ。三つ子の魂三億まで。節操ねえな。
対外試合はまだ自粛中だが、バスケ部の活動停止期間も過ぎたし、日常が少しずつもとへと戻り始めてる最中の情報にびっくりはした。
が、そのこと自体にもやもやするような思いはなかった、正直なところ。
「……まあ、それが一番お手軽だよな」
「そ、そうですね。お互いに承知の上でつきあうのであれば……」
「うーん……どうだろな。佳世は乗り気じゃないというか、拒絶してるんだが。でも……意思にかかわらず、お約束な展開になるかも知れない」
ナポリたんが、奥歯にものが挟まったような言い方をするのも珍しい。
お約束、ねえ。
いや確かに、浮気がバレて元鞘が無理で、結局浮気相手が本命になるのもよくあることだけどさ。ベースギターの練習で、なぜか『ヒゲダンスのテーマ』を弾いてしまうくらいには。
「お互いに、妥協するんでしょうか……?」
琴音ちゃんは、相変わらずナチュラルボーン毒舌プリンセスぶりを発揮している。
思い返せば。
池谷は、佳世のことを『遊びだ』とか、『すぐその気になるような相手に本気になれない』とか言ってたわけだし。
佳世は佳世で、浮気したことへの謝罪をあれだけ必死にやってたというのに。
「……かもね。まあ、こっちに火の粉が飛んでこないならいいんじゃない?」
結局、肉体的な快楽を忘れられないのか、と。少しだけ軽蔑の意味を込めて、俺はそう答えた。
低レベルな妥協。そうとしか受け取れない俺も、まだ歪んだままなのかな。
まあ、心も身体も、あいつらのものだ。てめえの判断でどうしようと、それは俺の知るところじゃない。
──あ、でも。
「ナポリたん、あいつらがまた部室で
「ああ、まあそれは大丈夫だろ。バババーバ・バーババもなぜかやる気満々だし、生まれ変わったような熱血ぶりを披露してくれてるぞ」
「マジか。女の力、いや熟女の力、パネェな……」
池谷がまた不祥事を起こして事件にならないよう、目を光らせてるのか。
ま、女の力というか、恋人の力がとてつもないことは同意だ。俺ですら、バラバラだった心が薔薇薔薇へと変化するくらいだもん。
きっと池谷の母親も、馬場色の日々……じゃなかった。バラ色の日々を送っているに違いない。性癖の一致は幸せ以外の何物でもないだろ。
…………
あ、ナポリたんは百合百合一歩手前だった。ま、いっか。
「はは、そう言うな祐介。理由はともかく今はありがたいことだ。それに、佳世は……」
「……佳世がどうかしたの?」
「ん、いや……まあ、まだどうなるかわからないから、わかったら言うことにする。それに部活が始まったら、ボクにもいろいろ出来ることがあるから」
「……そだね。ハヤト兄ぃが帰ってくるまで、バスケ部を守らないと」
「……おう、まかせろ」
歯を見せて笑いながら、力こぶを作るようなポーズを取るナポリたん。
もう一度ハヤト兄ぃとバスケができる、ってことが楽しみで楽しみでしかたないようで、少しだけほほえましい。
だけど、気のせいか。
ナポリたんの笑顔に少しだけ陰りが見えるのは。
「ジェ、ジェームスさんなら余裕ですよね! 伝説の仕事人ですから」
「まだその設定憶えてたの……」
三人で、今日も表面上はいつものなごやかムード。
かつては修羅場に身を投じた自分が、今こうやって笑えてることの幸せさに溺れたくなってて。
なんとなく、平和な日々が続くといいな、そう思ってたんだけど。
──ある一人の女子学生の退学を機に、また一波乱が起きるなどと、この時の俺は思いもしなかった。
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