白木さんが月なら俺はスッポン
「おまえらがもしつきあうとすれば、ひょっとすると最大の復讐になるかもしれないぞ」
ナポリたんがやれやれのポーズで、そんなことをのたまう。
「……どゆこと?」
「今までの話をまとめれば馬鹿でもわかるだろ。いいか? 佳世と池谷は浮気をしていた。池谷においては、おまけに槍田パイセンとも交尾フレンドとなるレベルだ。おそらく交尾欲に関してはほぼ満たされている」
「……まあ確かに」
「だがな、問題はそこじゃない。池谷はいつか別れると佳世に言っていたらしいが、最近の池谷の態度は、むしろ白木を必死で繋ぎ止めているようにも思えるだろ? 佳世や槍田パイセンでは満たせない何かを持っている白木に対し、無意識かもしれないが執着しているわけだ」
それに関しても同意だ。白木さんは突然付きまとうようになった池谷に辟易してたようだし、俺も白木さんに付きまとう池谷を何度も見ているし。はたから見るとAVのスカウトマンが美女を口説いてるようにしか見えなかったが。
確かにいずれ別れるつもりなら、浮気バレしても池谷にとっては痛くもかゆくもないわな。自称・友達が少ない白木さんなら、自身の悪評を広められることも恐れるほどではないし、自分から別れ話を持ち出す手間も省けるし。
それでも池谷が別れ話を切り出すどころか、白木さんに再度まとわりつくようになった理由など、ただ一つ。
白木さんのおっぱいという、おそらくこの市内でも唯一無二と言ってもいい
「だから、池谷はおそらく自分から白木と別れないと思う。そして、佳世もだ」
ナポリたんが俺をビシッと指さしてこういった。凛々しい、じゃなくてロリロリしい。
「ボクは前に言った。おまえらが別れれば、池谷と佳世は無事くっついてハッピーエンドだと。だが、池谷は今の推測通りだろうし、佳世なんかはむしろ池谷より祐介に執着する始末だ。状況はまるで変わった」
「……ああ」
「だろ? ということはだ。あいつらがお互い手放す気がない相手が勝手に自分の手を離れて、あまつさえくっついたとなってみろ。あいつらの後悔と屈辱は計り知れないぞ」
「……なんとなく納得いかないけど、その通りかもしれない」
納得いかない理由など、ひとつだけ。
「でもさナポリたん。言い換えれば、佳世たちがやってたことをやり返すだけのようにも……」
「それは違うだろ。倫理に反するかそうでないかは、人間として生きる上で大事なことだ。おまえらがちゃんと別れた後でくっつくぶんには、何の問題もなかろう?」
「……確かに」
「まあ、もしも別れてすぐにつきあうとかに抵抗があるならば、二人ともはっきり別れた後での、なんちゃってカップルでもいいじゃないか。つきあってるふりしてあいつらの前で見せつければ、それだけであいつらは精神的ダメージを負うからな」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
俺とナポリたんの会話に白木さんが割り込んでくる。ああそうだね、白木さんの意志を無視しちゃいけないよね。ナポリたんに言いくるめられるとこだった。
「あ、あの。わたしは別に嘘でも、つきあうふりをすることに問題はないです。でも……」
「でも?」
「わ、わたしはいいんですが、緑川くんがわたしとつきあってるとか噂されたら、迷惑なのでは……」
「どこまで自己評価低いんだよこのエンジェルはよ!!!!!」
自分の魅力を認識していないことは罪だな。白木さんはそのうち悪い大人に騙されて、着エロとか素人企画もののDVDとかに出演するんじゃないか、などと心配になってくる。そうなる前に俺が止めねば。
「えっ、だ、だって、こんなわたしが、緑川くんみたいに会話が上手で思いやりのある紳士とつきあってるなんて噂、畏れ多くて」
「……」
「祐介は紳士でも変態紳士だよな」
「ほっとけ」
変態紳士の自覚はあるわい。イーンダヨグリーンダヨ、池谷みたいな真性変態のおっぱい星人よりは数倍マシだ。
…………
いや、自分の最近の行動を振り返ると、俺も読者の皆様からはおっぱい星人としか思われてないかもしれない。ガン見と単語連呼はちょっと自粛しよう。
でも、中身はともかくとして、イケメソ高身長のスポーツマンという、外面だけは高スペックの池谷とつきあってる事実のほうは畏れ多くないのか。
というより、俺と池谷、二人並んで『どっちとつきあいたい?』ってアンケートをとったら、校内二周くらいしても俺には一票も入らない気がする。かなしい。
泣いていいですか? 白木さんの胸の中で。
…………
自粛って難しいよね。本能に訴えかけることは特に。
「お、おまけにですね」
「まだ何かあるの白木さん? 自虐ネタはノーサンキューよ」
自分を棚に上げる俺。カコワルイ。だが白木さんはやはり聖母だった。
「あの、わたしが浮気されてる時に感じた、怒りとか悲しみとか、死にたくなるような感情。それを吉岡さんに感じさせるのは、少しかわいそうかな……な、なんて」
「……」
「だ、だって、別れたとしても、吉岡さんは緑川くんにとっては大事な幼なじみに変わりないわけで……」
──ったく。
どこまで優しいんだ、白木さんは。思わず苦笑いしちゃうじゃねえか。
でもさ、こんなに優しい白木さんだからこそ、俺だって何かしてやりたくなるんだよな。
「そっか。でも、もし池谷が白木さんの幼なじみだったとしても、俺は池谷に復讐したいよ」
「……えっ?」
「だって俺は、そんな池谷に裏切られて、これ以上ないくらいに悔しくて悲しい涙を流した白木さんを、一番近くで見ちゃってるからね」
白木さんの優しさは否定しない。
だけど、そんな優しい白木さんをただただ泣かせるだけの池谷は許せない。
それだけだ。
「…………」
白木さんが俺の言葉を受けてから、真剣な、とても真剣な表情で何かを思案している。
「白木さん? やっぱ、だめ?」
「……そう、ですね。じゃ、じゃあ、わたしでよければ……緑川くんに、協力、したいかな、なんて……」
「白木さん……」
これが感極まる、というやつか。大相撲で優勝した力士の気持ちがよくわかるわ。
「あああ迷惑でしたか迷惑ですよねすみませんわたしみたいなミジンコごときが調子に乗っちゃってごめんなさいごめんなさい」
ペコペコを繰り返す白木さん。自分にそんなに自信がないのも本当に考えモノだ。仕方なしに、俺は白木さんの手をガシッと握る。
「……ふぇっ?」
「ありがとう。とりあえずはつきあってるふりでいい。よろしくお願いしたい」
「あ、ああああ、ああああのあのあの」
手を掴まれて振りほどけない白木さんは、なぜか耳まで赤木さんに変化して。
「……フ、フツツカモノデスガ、コンゴトモナニトゾヨロシクオネガイイタシマス……」
棒読みでうつむきながらOKしてくれた。一昔前の人工音声みたいだぞ。
脇ではナポリたんがニヤニヤしている。
「まーったく、初々しいねえこのバカップルは」
「いや、正式につきあうわけじゃないからな?」
「それはボクにはどうでもいいよ。じゃあ祐介たちの話がまとまったところで、ボクは後始末その
俺の否定など右から左へ流し、突然ナポリたんはおもむろにスマホで通話をし始め、俺たちから離れていく。
どこへ行くのだろうなどと思ってナポリたんを見ていたら、シャツの裾を引っ張られた。引っ張ってきた相手はもちろん赤くなった白木さん、略して赤木さんである。
「あ、あのですね、緑川くん……今日の夕方から、時間ありますか?」
「……ん?」
「も、もしよければ、監視が終わってから、少しでいいんです。わたしの家で、今後の打ち合わせ、など……いかがでしょうか……」
「え゛」
いきなりイベントがやってきました。俺、もちろんお約束のフリーズ。
今までの人生振り返ってみると。
俺さあ、佳世とナポリたん以外の同年代の女子の家って、行ったことないんですけど。
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