残念美少女と呼ばれる白木さん

「あ、あの、もちろんですね、そんな意味とかなくて、あああそんな意味とか特に意味はないんですけどあのあの」


 白木さんがさらに赤みを増したままなぜか言い訳を繰り返す。あたふたする様もカワイイ。


「ただ、あの、緑川くんの気持ちを確認して、今後の作戦を立てたかっただけなんです、こんなところで話すのもなんですし……」


「……俺の気持ち?」


「は、はい。こんなわたしが、たとえフリだとしても、吉岡さんというステキな彼女の代わりを、本当にしていいものなんでしょうか、って確認と」


「……え?」


「だ、だって、よく考えたらわたしなんて、吉岡さんに比べてとりえないですし……」


「……」


「そ、それに緑川くんは、最終的には吉岡さんとよりを戻したいんじゃないかとも思いましたし、やりすぎるのもよくないかなって、あの」


 あ。

 そういえば、白木さんには昨日俺と佳世がやりあった内容を伝えてなかった。

 テンパっている白木さんがかわいくてまだ眺めていたい気もするが、はっきり伝えないとならないな。


「ああ、その件なら昨日カタついたよ」


「えっ?」


「佳世はやっぱり池谷と中学時代にも関係があって、高校で再会してそれが復活したってだけ。違うのは俺が形式だけでも彼氏に進化していたってことだけど、それでも浮気相手と避妊なしでエッチするような女はいくら幼なじみでも到底無理」


「……はい? えっ? ええっ?」


 ぶっ飛んだ事実に白木さんが一瞬呆けた。昨日の俺もこんな顔してたんだろか。


「昨日佳世を問い詰めて吐かせた。詳しくはあとで話すけど、とにかくそういうこと」


「……本当ですか?」


「うん」


「本当に、いいんですか……?」


「イーンダヨグリーンダヨー」


「ここはおちゃらけるところじゃありません」


「サーセン」


「……まあ緑川くんですから、仕方ないですね」


 クスクス笑われた。まあいい。俺のせいで重くなるのはいやなんだよ。


「でも。例えば、吉岡さんのことを忘れたくて違う人とつきあい始めても、無意識に吉岡さんと比べちゃったりしたら……」


「へっ?」


「結局お互い幸せになれないし、それなら吉岡さんとよりを戻したほうが、はるかにいいと思うんですけど」


 白木さんが言ってることの意味は分からんでもない。

 要は、俺が本当に佳世のことを忘れ去ることができるか、ってことだよな。


「た、たとえばわたしと本当につきあうとしても、吉岡さんにわたしが勝てるわけないですし……」


 少し弱気な口調。この流れでなぜそんな結論に達するのかわけがわからないよ。今ならキュ〇べぇの気持ちがわかる。

 本当に、なんでこんなに自己評価が低いんだろ、白木さん。謙虚ともいえるけど、度を過ぎるとイライラする。


 だから、思わず言ってしまった。


「今の白木さんは、佳世よりはるかに魅力的だよ。少なくとも俺はそう思う」


 俺の言葉が届いて、瞬時に、ボン、と白木さんが沸騰した。


「あ、ああの、その、あの、えと」


「あのさ、池谷という彼氏に浮気されたから、白木さんは自分のことを魅力ないってつい思っちゃうのかもしれないけど」


「……実際、魅力なんてこれだけですし……」


 いやもうおっぱいに手を当てる必要ないから。


「だからそうじゃないって。さっきも言ったけど、白木さんって本当に魅力的だと思うよ。公園で見せてくれた笑顔を見た時は、本当に『池谷ってバカだなー、こんな魅力的ステキな女の子をほっとくなんて』って本気で思ったから」


「あ、ああの、あの、えっと、あ、あううぅぅぅぅ……」


 結論。やっぱり白木さんは押しに弱い。本当にホテル連れ込みくらいできそう。ま、やらんけど。


 真っ赤なまま小さくなって消えそうな、今の白木さんの可愛さの値は、120カワイイくらいあるだろう。

 ちなみにカワイイとは、かわいさの度合いを表す国際単位だ。通常のJKで平均が50カワイイくらいなので、白木さんの値は破格と言える。笑顔専用ガイガーカウンターがないと正確には測定できないけど。


「白いぱんつも魅力的でした」


「それはどうでもいいです……」


「じょーだん。だから、白木さんには自信を持ってほしい。そのために俺も頑張るから」


 これだけは本心。白木さんが自信さえ持てば、きっと世の中は変わると思う。


「じゃ、じゃあ、あの。お願いがあります」


「……なに? できることなら」


「もう一度、さっきの言葉を、言ってもらえないでしょうか……?」


 さっきの言葉ってなんじゃらほい。

 一瞬考えたが、改めて要求されると真顔では言えるわけない。


「白いぱんつが魅力的?」


「そっちじゃありません」


「じょーだんじょーだん。……白木さんは、佳世よりはるかに魅力的だよ。少なくとも俺はそう思う」


 照れながら言う。こんなくさいセリフ、冗談を挟めなきゃ真顔で言えない。


「……少しだけ、自信がついた気がします。ありがとうございます」


「どういたしまして。そりゃよかった」


 さっき凍りついたのが不思議なくらい、温かな空気が広がってるのはなぜだろう。


「……わたし、たとえニセモノの彼女でも、精いっぱい頑張りますから」


 そして、白木さんはこれ以上なくご機嫌。そのご機嫌さが、言葉のチョイスにも表れているみたいだ。


「うん、たとえあいつらへの復讐にならなくても、お願いしたい」


「ふふっ、そうですね。だから、緑川くんは──」


 白木さんが俺から少し離れてから,後ろで手を組んで、くるりと振り向く。

 その時にまとっていた笑顔は、確かにさっきよりもはるかに魅力的で。


「──わたしが確かな自信を持てるよう、協力してくださいね」


 胸を射抜かれた俺は、思わず頷いてしまった。


「わたしの魅力は、わたしをちゃんと見てくれる緑川くんに、育ててほしいんです、よ……」


 これ以上魅力的になったらどうなるんだろうな。

 そんな心配だけが、俺の中に残るような笑顔。


 ──うん、昨日が忘れられるくらい、今日はいい日だ。


 ただし。

 背景が非常階段じゃなければ、もっと良かったんだがな。



 ―・―・―・―・―・―・―



「……おまえら、ボクを差し置いて、なに三文芝居してんだよ。見ろ、マンションの住人みんなドン引きしてんぞ」


「あ、ごめん。自分に酔ってた」

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