混乱した状況を支離滅裂に説明します

 童貞を殺すシチュエーションに予期せぬタイミングで遭遇した俺は、少しだけ事実確認をすることにした。


 佳世の下着は、上下ともに派手な白のレースで飾られている。おっぱいはさすが推定D。

 だが、高校生が身に着けるにはいささか派手すぎる。勝負下着なのか。勝負なのか。最初からその気だったのか。それとも対池谷用なのか。


 ──白。白い下着。


 なぜか俺は、以前ラッキースケベで目の当たりにした、白木さんのシンプルな白いぱんつを思い出した。

 素直に言うけど、あれをオカズにして無駄撃ち行為をしようと、何度思ったことか。

 池谷の彼女だから思いとどまれたに過ぎない。


 ──そして現実に戻ると。


 幼なじみで。

 一応まだ形式的には俺の彼女で。

 なかなか手が出せずにいた佳世が、下着姿で俺に抱きついたままだ。


「お願い……祐介、しよ?」


 そのまま押し倒された。おう、ベッドにダウン。あれれ、何故後ろにベッドが。

 俺ってたしか椅子に座ってインターネットを満喫していたんじゃなかったっけ。

 あ、そっか。椅子のすぐ隣にベッドがあったんだ。


 状況説明完了。


 もぞもぞしている佳世が上に乗り、自分の背中に手を回した。どうやら全裸になる準備をするためか。

 おいおい、俺はまだ靴下すら脱いでないんだぜ。はやりすぎだろ。


 …………


 なんで俺はこんなに冷静なんだろ。

 普通に考えれば、バッキンバッキンな状態に陥っててもおかしくないのに。


 おおっと、ここで脳内に天使と悪魔が現れたぞ。

 なぜか登場テーマがパワーホールだ。長〇力じゃあるまいし。


 そして、アナウンスで紹介された天使と悪魔がガウンを脱ぎ捨て、同じリングでバトルを開始する。


 天使『おいおい、こんな流れでヤったって状況がこじれるだけだぞ。やめとけ』


 悪魔『バッカだなー、こんな流れだからこそ言い訳できるだろ。いいからとっととサクランボ捨ててこい』


 天使『だめよだめだめ大人のエチケットのゴム製品も準備NGでしょうが』


 悪魔『そんなん佳世だって気にしてないだろ。いざとなれば池谷に責任押し付ければいいじゃん』


 天使『そんな無責任でいいのか? 白木さんとナポリたんに顔向けできるのか?』


 悪魔『バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ。佳世だって、バレなきゃいいと思って池谷と浮気してたんだろ』


 ……


 ……


 そうだった。

 佳世は池谷と既に……


 その時世界が動いた。当たり前のように天使と悪魔が消滅。南無。


 ……ばっきゃろー! 池谷と穴兄弟なんて御免だ! しかも彼氏の俺がなんで弟なんだよ!!!


「ふざける、なあぁぁぁ!!!」


「きゃっ!!!」


 ドカッ。


 俺は上に乗っている佳世を突き飛ばした。そのまま佳世は後ろへと倒れ込む。

 攻守交替。今度は俺が佳世の上に乗っかって、佳世が身動き取れないようにした。


「なんなんだよ、佳世、おまえは! 池谷に死ぬほどやらせたから、一回くらい俺にもやらせてあげようってか?」


「ち、ちが……」


「池谷に身も心も捧げたんなら、それを貫けやぁぁぁ! もう別れる!」


 さて、せっかく浮気テンプレ用意してもらったので、再度誘導して活用しようか。

 つまりこういうことだってばよ。


「違うの! 違うの! 本当に好きなのは祐介なの!」


「だから好きでもない男に股開くなんてどういうことだよ! 嘘もたいがいにしとけ!」


「信じて! もう二度としないから!」


「これからのことじゃなくて、これまでのことが問題なんだっちゅーの!」


「いやだ、いやだ、祐介と別れたくない!」


「俺はこのまま続けるのだけはイヤだ!」


「お願い、ひとりにしないで……ひとりにしないでぇぇぇ……」


「池谷がいるだろうが! なに寝言抜かしてんだ!」


「どうかしてた、どうかしてたの、わたしぃぃぃ……」


「佳世に告白した俺がどうかしてたよ! 何もかも都合のいいようにばっかり言いやがって! なんで浮気したのかちゃんと説明すら……」


 ガチャ。


「うるさいよお兄ちゃん、もう夜……」


 デイリーガチャは妹の佑美でした。これもハズレ

 怒鳴りあいをしたせいか、部屋の外にいた佑美が、喧嘩でもしていると思ったのだろう。無遠慮に兄の部屋に入ってきた。

 こいつの目からは、下着姿の佳世に覆いかぶさってる俺、というふうにしか見えないかもしれない。


 俺と佳世はいきなり開いたドアの方向を見たまま固まる。


「……お、おっはー」


 夜でした。まだ朝チュンはしてない、断じて。

 言葉のチョイスを間違えた俺、混乱コンフュ状態なう。だが、佑美もこんらんしている!


「……お、おじゃましました……で、でもね、あの、お兄ちゃん、無理やりは……よくないと思う」


 パタン。


 扉が閉められ、地獄マイルームに滞在したまま、俺は天国ろうかへは届かないであろう叫び声をあげずにいられなかった。


「ま、待て、佑美! 誤解、誤解だ! 頼む、話を聞いてくれ!」


 あっれー、おかしいぞ? なんで俺がテンプレ的な言い訳しなきゃならないんだ?

 まったく、いつの世も誤解を受けて被害を被るのは男性側だ。冤罪を主張するぞ!


 というわけで、俺は無実証明のために佑美を追いかけ、ちょっとだけ必死に言い訳をした。

 信じてもらえたかはわからん。だって佑美がずっとジト目だったもん。


 あと、佳世。おまえはいい加減服を着ろ、このビッチが。



 ―・―・―・―・―・―・―



 それから。


 佳世はいちおう服を着て、俺の部屋の床にしょんぼりしたまま体育座りしてる。

 むりやり追い出してもよかったのだが、さっき佳世を罵倒してちょっとだけスッキリした俺は、霧が晴れた頭であることを思いついた。


 そう。佳世から、なぜ浮気したかを聞きださなければならない、と。


 素直に吐くかは謎だが、理由がわからなければ、このまま別れてもすっきりしないもんな。

 理由に納得しても別れるのは確定だろうけども。


 そう考えて、不意にスマホを見ると。

 いつのまにか、放課後に送ったメッセージの返信が届いていた。気づかなかった、不覚。


『明日は差し入れ忘れないでくださいね、お母さん』


 思わずクスリ笑い。白木さんらしいな。


 ──よし、落ち着いた。じゃあ、佳世への尋問を始めよう。

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