予測不可能、回避不可能
自分の部屋に無事帰還してから、スマホの電源を切ったままにしていることに気づいた。
電源を入れてみると、閉口するくらいの佳世からの連絡の山。
なんじゃこりゃ。池谷と浮気していることがバレたと思って、慌ててるのか。
着信とか来られると困るので、一言だけメッセージで返しとこう。
『具合悪いから、連絡は控えてくれ』
以上。
変な時間にラザニアを食べたせいで、晩飯が食えなくなりそうだ。
──このまま、寝るか。
―・―・―・―・―・―・―
次の日。やたらと早く目が覚めた。
まあそりゃそうか。どうやら俺はあのまま眠ってしまったらしい。
最近よく眠れてなかったにしても、少し寝すぎた。おかげで体中がきしんでいる。
スマホを見ると、佳世からのメッセージが一件だけあった。
『具合悪い時にメッセージ送ってゴメンね。お大事にしてください』
反吐が出る。
そしてナポリたんからも一件。
『Fw:【悲報】自主練後の女子バスケ部部室内から、未使用のゴム製品が大量に発見される』
こっちもこっちで反吐が出る内容だった。連絡網で回ってきたんか。
いや佳世と池谷が関係してないとしても大問題なはずなんだが。もうバスケ部は男女ともに廃部にしたほうがいいんじゃねえのか。
…………
まさか、佳世と池谷、部室でエッチらおっちらやってたんじゃあるまいな。
…………
「クソッタレ!!!」
俺は爽やかさからほど遠い感情のまま、自室内で思わず叫んでしまった。いかんいかん、もう基本方針は決まったんだ。ダメージ受けてどうする。
今更ながら、昨日のナポリたんの指摘が、重いわ。
悶々していても仕方ないので、かなり早いがもう学校へ向かうことにしよう。
軽く朝食を済ませ、制服に着替える。
そして家族誰にも挨拶せず出発し、自宅の門を過ぎたとこで。
早めに家を出たことを、俺はさっそく後悔した。
「……おはよう。体の具合、もうよくなった? 心配してたんだよ」
隣の家から同時に出てきたのは、今も彼女であるはずの、幼なじみに似た誰かだった。なにこれ。挨拶もせずに家を出た俺に対する神様のお仕置きか?
心配しているようなふりをして、その生き物は俺に笑顔を向けてきた。
だが俺にはその笑顔が不快でしかない。
──きったねえ笑顔だなあ。後ろめたいことがあるやつの笑顔なんて、しょせんこんなものだ。
朝から不快感マックスなのを隠す気にもならんわ。
俺は気遣いフェイクの戯言を意にも介さずに、ひとりで学校へ向けて歩き始める。
「ちょ、ちょっと、待って。ねぇ、祐介ってば」
「……」
「ねえ待って。久しぶりに一緒に登校しようよ」
態度があからさまな俺の機嫌を取るかのような佳世に、嫌悪感が一層大きくなる。
「うっせえな。俺にかまわずとっとと学校行けよ。朝練大変なんだろ?」
部活の朝練か、性活の朝練かは知らんけどな。
「ほ,本当にごめん。もっと上手になりたくて、必死で……」
おお、そうだな。股ヌキのスキルは間違いなく上手くなっただろうよ。
「つまり、俺よりバスケのほうが大事なんだということだよな」
バスケが大事なのか、それともスケベが大事なのかは俺の知るところじゃないけどな。
「祐介の誘いを断ってばっかりだったのは反省してる。部活がハードで疲れてて……」
部活で疲れてたんじゃなくて、池谷に突かれてたんだろ。
「そうだな。本気でやってたもんな」
本気で浮気をして、ヤッてたわけだからな。
「で、でもね、本当に反省したんだ。祐介を、大事な彼氏をほっといてしまっていたって」
バレたくないから必死でフォローしようとしてるだけだろ。どの口で『大事な彼氏』なんていってやがるんだ……ああ、池谷とベロチューした口か。
このネタ二度目だな、反省。
「じゃあもういいから、このままずっとほっといてくれよ」
やばす、闇の感情がどんどん強くなってきた。このまま朝から爆発させるのはよくない。少し抑えないと……
……ん?
「う、うぇぇぇ……」
気が付けば、横に佳世はいなかった。後ろをチラ見すると、立ち止まって泣いている。
「……なんで、なんでそんなこと言うのぉ? もうわたしのこと、嫌いになったの?」
あきれてものも言えない。泣きたいのはこっちだ、べらぼーめが!
ほんと、女の涙は卑怯だ。なんで俺が、朝っぱらから罪悪感で鬱にならなきゃいけないのよ。
ああ、そう思ってるくせにこの場を取り繕ってしまう自分が情けない。付き合いが長いせいで、本気の涙か否かがわかってしまうから仕方ないにしてもだ。
しっかし、わけわからん。
なんで今更、佳世は俺に付きまとってくるんだろうか。
──もう俺は、必要ないんだろ?
かろうじてそう言うのだけは、この時こらえることができた。
問題は増えたように思えて仕方ないがな……
アッタマ、イタイ。
ついでに、ココロモイタイ。
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