2 ガラスの不協和音

兄が割ったガラス障子の板ガラスは分厚くて、普通のガラスよりは拾い上げやすいように見えた。グミ子は兄に自分が何をしているかわからないように、そっと、破片を片付けようと思った。時刻は17時。あと一時間もすれば、母の帰ってきたクルマの音がするだろう。破片の散らかり具合に比例して、母が痛手を受けるのだと思い込んでいた。板ガラスを割ってしまったから、兄のいる部屋は半分、垣間見える。死んだおじいさんが兄を引き寄せて、一緒に使っていた部屋だ。家中で一番贅沢な造りをした洋室で、大きなダブルベッドが半分以上を占めている。祖母に負けず劣らず、見栄張りで金に糸目をつけない祖父だったのだ。

カチリ、カチリ、大型ベッドの中に隠れていた兄には、グミ子のしていることが聞こえていた。天国、いや、あの世まで響けばいいのに破片が奏でる不協和音は、生きてる者だけを地獄の業火で焼く。

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