第2話
俺がこんな風に不安を抱くのも、何も全てが感覚とか直感によるものというわけではない。実は昨日おかしな夢を見たのだ。
俺は暗闇にぽつんと立っていて、よく目をこらすとずっと向こうの方に人が見えた。俺はその人がいる方へと歩いていった。しばらくして近づいていくと、若干小汚いおしさんが座っていた。全体的にだらしがなく、スウェットなのか作業着なのかよく分からない、濁った青色の服を着ていた。不思議だったのは、暗闇なのにそのおじさんの姿ははっきりと見えていたことだった。
俺が近づいていくと、気配を察したのか、そのおじさんはのっそりと立ち上がってこちらに振り向いた。無精ヒゲがいかにもといった感じでおじさんの小汚さをより印象づけていた。知らない人だ、と俺は思った。なんて声をかけたらいいかも分からず、俺が立ち尽くしていると、おじさんはズボンのポケットからメガネを取り出して俺のことをもう一度まじまじと見た。そしてため息をついて、
「ずいぶんお久しぶりですね。」
と言った。俺はその時点ですでにだいぶ混乱していた。うろたえる俺を見ておじさんは言った。
「ああ、すみません。初めましてでしたね。」
「あなたは・・・俺を知ってるんですか?」
「ええ、まあ。」
おじさんは見た目に反して丁寧な話し方をするが、見た目ほど親切ではなかった。それにしても、俺にはこの目の前のおじさんが一体誰なのか全く思い浮かばなかった。
「あ、あの、申し訳ないんですけど、俺、あなたのことよくおぼえていなくって・・・」
「ええ、そうでしょうね。あなたがここに来るのは初めてですし。」
「え?・・・じゃあ、あなたはどうして・・・」
「あなたは神に愛され特別な力を得ました。なのでここにお呼びしました。」
突然、淡々と、そのおじさんは言った。俺にはそのセリフの何もかもが理解できなかった。
「すみません、ちょっと・・・言っている意味が分からないんですけど・・・。」
「神は全てを定めるお方です。あなたはそのお方に見初められました。よって、普通の人間とは違う特別な力を手に入れられたのです。」
「神?特別な力?・・・何それ・・・何のこと・・・・・・ですか。」
動悸がする。嫌な感じだ。これは夢か?早く元の場所に戻りたい。真に受けなきゃいいんだ、こんなわけのわからない人のいうことなんて・・・。
「あなたが得たのは、掌と掌が触れ合うと別人格と入れ替わる力です。」
暗闇の世界に静寂の時間が流れた。俺の思考も一瞬止まった。
「は?・・・さっきから、あなたは何をわけのわからないことを・・・。」
「私が述べているのは事実だけです。受け入れるも拒むもあなたの自由です。」
おじさんの表情はピクリともせず、空虚な底のない暗闇を覗くような瞳も変わらないままだった。
怖い。帰りたい。聞くな、この人の話は。相手にするな。早く、早く・・・。
「あなたは・・・何なんですか・・・・・・もし、その・・・通りだとして・・・・・・俺にどうしろと・・・?」
おじさんは少し黙った。そしてまた話しだした。
「私は何者でもありません。名前もありません。あなたのその力をどのように使うかは、全てあなた次第です。」
突然おじさんの輪郭がぼやけだした。俺は目を凝らしたが、だんだん何も見えなくなっていく。
「え?ちょっと・・・」
そこで俺の感覚はなくなった。
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