(二)帰国へ②
ガラルドシアを離れたあと、途中の村で一泊すると、翌日の夕方には予定通り国境に到着することができた。
国境の帝国側検問所に人影はまばらで、検閲に当たっている兵士達もそれほど忙しそうではない。行商人と思われる一団と、旅人らしい数人だけが順番を待っている程度だった。
「シルネラの冒険者です。ヴァストール経由で帰国予定です」
検閲の順番が回ってくると、シルネラの身分証を提示する。身分証自体は本物であり、入国の際にも問題は無かったので、特に意識もしない。
兵士は全員の身分証明書を軽く確認した程度で、すんなりと道を空けてくれた。
「よし、通っていいぞ。また来いよ」
怪しまれるどころか、兵士達に笑顔で送り出される。この日の仕事も終わりが近く、検閲対象者も少ないため、気持ちに余裕があるのだろう。
笑顔に応えるように手を振って去る。
「特に持ち出し荷物の検査とかしないんだね」
ディナレスが呟いた。
「そういうのは、特に怪しい奴以外は抜き打ちなんだと思うぞ。全員にやってたら、きりがないからな」
モルアールの言葉にガイザが無言で頷く。
その言葉に納得したのか、ディナレスも軽く頷くと、笑顔を見せる。
「きっと可愛い女の子達のお陰だよ、有り難く思いなさい」
「へいへい……」
モルアールは肩をすくめ、呆れたように返事をした。
帝国の門を通ってから、しばらく歩くとヴァストールの門が見えてくる。そこを通過すればようやく自国だと思うと、足取りも軽い。だが、日も落ちかけ、閉門の時間が近付く。
前を行く旅人達も、走って門へと向かう。
「私達が最後だね」
シェラは後ろを振り返ったが、誰も居ない。
「丁度いいんじゃない? 他の人に事情を知られるのも良くない訳だし」
「そうだね」
機嫌が良さそうに、にこやかに答えた。
仲良く隣り合って歩く二人の金髪が、夕焼けで紅く染まる。
「お疲れ様です!」
ラーソルバールは兵士に声をかける。
その声に気付いたのか、騎士がひとり近寄ってきた。
「身分証を提示してもらおうか」
厳格そうな壮年の騎士は、腹に響くような低い声で言った。ぶっきらぼうな物言いだが、悪意が有るものではない。
帝国の動きが怪しいということもあり、やや緊張感が漂っている。
「ルシェ・ノルアール?」
身分証を見た騎士は、はて、と首を傾げる。犯罪者の名では無いが、聞き覚えが有るな、と。
「はい」
にこにこと笑顔で返すラーソルバールに、騎士は思わず顔を赤くする。見れば全員同じような年頃の少年少女ばかり。
身分証には問題が無いので、待たせるのは悪いが、引っ掛かるものがあって素直に通して良いものかと悩む。
困った様子の騎士に、何か問題でもあるのかと問いかけようとした時だった。
「ラーソルバールじゃないか!」
嬉しそうな女の声が響いた。
ラーソルバールが声のする方を見やると、そこに立っていたのは、真っ赤な鎧に身を包む女騎士だった。
「ジャハネート様!」
ラーソルバールは面識のある憧れの団長の姿を見て、飛び上がるようにして喜んだ。
「通してやんな。私が保証するよ、ってか、命令書来てたろ。この子達が来たら通すようにってさ」
「え……、あ……ああ! 思い出しました」
「ボケッとしてると、軍務大臣からお叱りを受けるよ」
ラーソルバール達はすぐに通して貰うと、ジャハネートに頭を下げる。
「ありがとうございました、またお会い出来て光栄です」
「無事に帰ってきて何よりだよ。アンタにゃ、うちの団に来てもらう予定だからね。居なくなって貰っちゃ困るんだよ」
ジャハネートは、ラーソルバールの髪がぐしゃぐしゃになる程に、強く頭を撫で回す。
「王都にいらっしゃるはずのジャハネート様が、何故国境に?」
「ん、この辺りで兵士崩れの賊がかなりの数で動いてるって情報があってね。そいつらを叩き潰したついでに、帝国の動きも怪しいんで、国境の様子も見に来たってとこさ」
騎士団を動かしてみて、触発されて相手も動くか、引っ込めるのか。出方を伺っているのだろう。
「アタシらは砦の近くの宿泊施設に泊まるんだが、アンタらが泊まる分くらいは空きがあるはずだ。話も聞きたいし、一緒に来るかい?」
仲間の顔を見渡すが、異論が有りそうには見えない。
ラーソルバールは嬉しそうに、元気良く「はい!」と、短く答えた。
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