(二)偽りの名③

「さて、最初は俺からいきますか」

 剣を手に取ると、ガイザは大きく腕を回した。

「お前が一番強いのか?」

 冒険者の一人が睨む。

「いやぁ。恥ずかしながら、この三人じゃ俺が三番だ」

 苦笑しながら頭を掻く。

「なんだと?」

「それじゃあ、エドウィールさん達は下がっててくれ。俺がやる」

 一人の大柄な冒険者が進み出る。短髪のボサボサ頭をかき上げながら、斧を振り回す。

「斧かよ……。彼女より強いかなぁ」

 ミリエルを思い出しながら、ため息をついた。

「あん? 何か言ったか?」

「いえいえ、何も。俺はグラデア。よろしく、先輩」

 わざと挑発するように答える。挑発に乗せられ、冷静さを失ってくれればやりやすい。

「ゴランドラだ。ちっとばかし名が売れてると思うが、お前さんは知らないみたいだな……。痛い目見たくなかったらやめときな」

 挑発に乗った様子も無く、ギロリとガイザを睨みつける。


「あの体格差は面倒だな」

「んー、そうだね。でもガイザなら、一撃も貰わない気がするよ」

 楽観的に見る二人の言葉を聞き、冒険者たちが鼻で笑う。ゴランドラが負けるとは思ってもいないのだろう。

「さあ、準備はいいか?」

 ホグアードが楽しそうに二人を見つめる。

「いつでもどうぞ」

 ガイザが応じると、ゴランドラも頷いた。

「始めてくれ」

 開始の合図と同時に、ゴランドラが襲い掛かる。斧を巧みに操り、上から振り下ろすと見せてから、横薙ぎに切り替えた。

 ガイザは半歩退がって斧を避け、間髪入れずに牽制の突きを繰り出す。

「ぬっ!」

 ゴランドラは斧の柄でそれを弾き上げると、そのまま斧を振り上げる。剣を戻しつつ、ガイザは体を傾けて斧を避ける。

「防御だけなら、ガイザは一流に近いと思うんだよね。教か……師匠も、そこは認めてたし」

「そうだな。相手の隙を突いた攻撃が身に付けば、もっと強くなるのだろうな」

 二人の想定通り、そのまま一進一退の攻防が繰り広げられ、どちらも決定打が出せないで居た。


「そこまで!」

 ホグアードが長引きそうになった戦闘を中断させる。ゴランドラに疲労が見えてきたからかもしれない。

 同様にガイザの息もやや荒い。

 お互いに武器を下ろし、息を整えながら手を差し出す。

「やるじゃねえか、坊主……いや、グラデアだっけか」

「お褒め頂き、光栄です。先輩」

 二人は握手をすると、武器を置き近くにあった椅子に並んで座る。

「おい、グラデア……。あの嬢ちゃん達は、お前さんより強ぇのか?」

「ええ。一人は恐ろしく強い……。もう一人は別格です」

 ゴランドラがガイザに気を許したように、問いかけたので、ガイザもそれに応じる。二人とも、まだ息が荒い。

「なんでぇそりゃ。性質の悪い冗談か?」

「そんな笑い話だといいんですがね……」

 ガイザが爽やかに笑うので、ゴランドラは顔を引きつらせて苦笑した。


「では、順番的に言うと、私か?」

 珍しく鼻歌を歌いながら、エラゼルが武器棚へと足を運ぶ。使う剣を選びながらも、鼻歌は続けている。

「何だかご機嫌だな。あのお嬢様」

 モルアールが不思議そうに呟く。

「道中、馬車の休憩時間にしか稽古ができなかったから、久々で嬉しいんだと思う。多分、本気でやる……」

 フォルテシアが微笑みを浮かべながらそう答えた。村での賊討伐の際には、腕の立つ相手が居なかったので、命が掛かっていたとは言え、恐らく本気は出していない。

 道中の僅かな稽古相手を、主にフォルテシアが勤めていたので、その辺りは何となく分かるのだろう。

「本気?」

 公爵令嬢の本気の剣とはどんなものか。モルアールは興味をそそられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る