(三)旅支度①
(三)
常闇の森へ共に向かう者達の事を校長に伝えると、ラーソルバール達は慌てて旅支度に取り掛かった。報告すると同時に、明日出発するようにと告げられたからだ。
「何で遠出するのに、こんなに急いで支度しなきゃいけないんだろう」
文句のひとつも言いたくなる。
渡された支度金を鞄にしまい、手元にあった褒賞金も持った。何かの為にとっておけと父に言われ、受け取って貰えなかった宰相暗殺阻止の褒美だ。こんなにすぐに使うことになるとは思ってもいなかった。
急いで共に出かける仲間に声をかけると、街に出て店を回る。
雑貨を購入しようと店までやって来たが、必要そうな物はいくつもある。ランタン、油、ロープ、水袋、重すぎる荷物では動けなくなるため、適量で済ませるよう厳選する。
「どれだけ入れても重くならない鞄とかあればいいのにねえ」
「魔法の品とて、そんな都合の良い物があるものか」
シェラが珍しく愚痴を言ったのを聞いて、エラゼルは苦笑する。
現に買い込んだ荷物は、既にそこそこ重い。そこに鎧や剣、盾などを持ち、携行食糧などを足せばどれくらいになるだろうか。ラーソルバールは既に気が重くなり、シェラの言葉に同意したくなった。
まだ少し肌寒い季節だけに上着も手放せないし、眠るときには寝袋などの寝具も必要だ。いっその事、荷車でも有った方が良いのではないかとさえ思えてくる。
「そうだ、あとで馬を買おう!」
荷物を運んでくれる馬を購入すれば良いではないか。馬車で移動する間は何とかなるので、今すぐではなくシルネラ共和国に入ってからでも良い。個人の負担を軽くするにはそれしかない。
ガイザも悩んでいたのか、ラーソルバールの独り言にほっとしたように大きく息を吐いた。
「そうだな、馬がいるな……」
一行は、それぞれ雑貨の入った大きな荷物をぶら下げて、武具店へやって来た。「鉄鉱石」という、飾り気が無い名の店だ。
以前に入ったことのある大型店舗ではない。そちらは以前に入店した三人が揃って却下した。あの時はエミーナも一緒だったな、とラーソルバールは振り返る。
残念ながら剣の腕がいまひとつの彼女を、今回の旅に連れて行く訳にはいかず、少し申し訳なさもあり、寂しい気持ちになった。
初めて入店した武具店だったが、店は大きいものではなく、品揃えも決して良いとは言えない。だが、良質なものばかりを取り揃えていた。
さすがにエラゼルが所持しているような逸品は無かったが、それぞれ良いと思うものを見つけられたようで、次々と購入を決めていく。
そんな中、ラーソルバールだけは悩んでいた。
鎧や盾は決めたものの、良い剣が無い。今の剣が手に馴染んでいるせいもあるのかもしれないが、購入に踏み切るほどの物が見つからなかった。
諦めてため息をついていると、口髭を蓄えた高齢な男性店員が声をかけてきた。
「色々とお買い上げ有難うございます、と言いたいところですが、何やらお悩みのご様子。良いものがございませんでしたか?」
「そうですね……。使い勝手が良く、私の手に馴染みそうな物が無くて……。こう言っては何ですが、ただの剣では駄目なんです」
言外に、普通の剣では通用しない相手と戦わなければならない、と滲ませた。すると、それを感じ取ったのか、老店員の表情が変わった。
一瞬、ラーソルバールを品定めするような視線を向けた後、真剣に目を見つめた。
「お美しい外見に惑わされ、本質を見失いそうですが、剣の腕も相当なものとお見受けします。貴女のような方がお求めになる剣が、もしかしたら当店の工房にあるかもしれません。見て行かれますか?」
ラーソルバールは無言で頷いた。
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