第十六章 動乱

(一)巣立ちの声①

(一)


 年が明けてから、二ヶ月が過ぎた。

 世の中も年明け早々の騒動以降は平穏で、街の復興も進んでいた。

 騎士学校はといえば、今まで通りの座学と、今まで以上の訓練がラーソルバール達を待っていた。

 昨年末までとの違いといえば、特筆すべき事はない。強いて挙げるなら、休み時間にラーソルバールのクラスに時折エラゼルが訪れるようになった事だろうか。

 もうひとつ。二年生とは時間帯がずれるのか、ラーソルバールはアルディスらとは年始以降はほとんど会えていない。


「三日後には二年生は卒業だねえ」

 食堂でシェラがそう話を切り出した。

 周囲を見回したが、二年生の姿は無い。

「さっき見たときはまだ訓練やってたみたいだし、最後だから忙しいんだろうね。これで卒業したら半年間は見習い騎士か」

 そう言いつつ、ラーソルバールは後ろ髪をリボンで結わえた。

 入学当時は肩までしかなかった髪も、切り揃えながら伸ばし、背中の辺りまでの長さとなっていた。

 シェラは黙ってその様子を見詰める。

「ん?」

 シェラの視線に気付いたラーソルバールは、首を傾げた。

「ああ、ごめんね。何か、少しずつ騎士らしい顔つきになってきたなぁって思って」

「そんなこと分かるの?」

 ラーソルバールは苦笑した。

「何となくだよ」

 違いが分かるほど変わったのか、シェラが自分のことを観察していたから分かったのか。

 どちらにせよ、自身には分からない事だ。

「いただきますか」

 二人は手を合わせると、食事を始めた。

「明日と明後日は私達は卒業式の準備だけど、二年生は最終試験らしいよ」

「そういえばそんなのあるんだっけ」

 最終試験に合格できないと、卒業はできない。

 もう一年間、二年生をやり直しとなる。

 命を守るためには、生半可な状態で卒業させて騎士にする訳にいかないからだ。

 勿論、一年生にも試験があり、駄目ならもう一回一年生だ。

 一年生のやり直しは多くないが、二年生は多いと聞いている。騎士学校には最大四年間在籍できるが、卒業できなければ騎士にもなれず、学校を辞めて冒険者や傭兵などになって食い扶持を稼ぐことになる。

「まあ、アル兄達は大丈夫かな。優秀だし」

「卒業したら学校で会うことも無くなるから、しばらく会えなくなるね」

「うん、ちょっと寂しいな…」

 言ったままの表情で、ラーソルバールはパンをつまんで食べる。

 そこへ、代表会に行っていて遅くなったフォルテシアがやってきた。

「早かったね、お疲れ様!」

 シェラが労う。

「多分、もう一人来る」

 食事の乗ったトレーをテーブルに置いて、フォルテシアはゆっくりと腰掛ける。

「連れて来たの?」

「違う、彼女がついてきた」

 フォルテシアの言う「もう一人」はエラゼルだろう。

 何故か、フォルテシアともうまくやっているらしい。

 不器用な感じがお互い丁度いいのだろうか。ラーソルバールは不思議に思っていた。

「フォルテシアについてくれば、ラーソルと一緒になるしね」

 シェラはそれが当たり前の事のように言う。

 すると間もなく、その「もう一人が」何やら暗い顔をしてやって来た。

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