(一)芽吹き③

 僅かな時間の後、城内の時を告げる鐘が鳴り、会場に響き渡った。

「国王陛下がお出座しになられます!」

 大きな声で会場に告げられると、一瞬で会場の賑やかさは消え、静寂に包まれる。

 すぐに階段状に作られた高所の奥の扉が開き、国王ゼラフィム・ヴァストールが現れた。

「皆、良く来てくれた。今日は新年の幕開けを祝おうではないか。食べて飲んで笑う、皆の和こそがこの国の礎である」

 国王の言葉に皆が恭しく頭を下げる。

 国王を頂点とし、その下に貴族が存在する。当たり前のように思えるが、そのバランスは見た目の構造ほど単純ではない。

 貴族は領地を持ち、独自に徴税を行う事が可能であり、一種の独立行政機関として存在している。そのため、貴族にしてみれば国や国王が変わろうと、自らの領地が保障されれば何の問題も無い。国王に恭順の意を示しているように見せるのは、国王が領地を保障しているからに過ぎない。

 無論、そういった思考の持ち主ばかりではなく、国の一員であり、国を支える立場にあると考える者も少なくない。ミルエルシ家の領地など僅かだが、村の発展させ、国に貢献する事を目的としている。吹けば飛ぶような小さな領地でも、できる事があると考えている。


 国王の挨拶が終わると、新宰相と共に新大臣の面々が次々と現れ、国王に対し臣下の礼を取る。それが終わると全員が並び、全員の名が紹介された後、順に一言ずつ挨拶を行っていく。

 ナスターク軍務大臣、フェスバルハ商工大臣など、ラーソルバールに馴染みのある名前もある。

「今回の人事にもアルディスさんの……フォンドラーク家の本家は入ってないんだね」

 シェラが小さな声でラーソルバールに耳打ちする。

 そういえば挙げられた名前には無かったなと思い、シェラの顔を見て頷く。

「今回の人事は、新宰相であるメッサーハイト公爵の意見が多く容れられている」

「わっ」

 驚きのあまり思わず大きな声を上げるところだった。

 いつの間にか、ラーソルバールの背後にはエラゼルが立っていた。

「元の場所に戻ったら、居なくなっていたので探したのだぞ」

「いや、あの直後に酷い目に逢ったから、逃げてきたんだよ……」

 ラーソルバールは苦笑いで返す。

「酷い目……?」

 エラゼルは小首を傾げた。

「あ、それはいいから。エラゼル、その宰相の意見が多く容れられてるってどういうこと?」

「メッサーハイト公爵はかなり厳格な方でな、不正や怠慢がお嫌いなのだ。だから、今回の人事においてもそういった話がある人物は外されている。先だっての暴動の件を機に、私腹を肥やし不正を働く輩を一掃しようという陛下のお考えと、合致したという事だろう」

 エラゼルの言葉にラーソルバールは納得した。

「言い方は悪いけど、エイドワーズ様のご退任が丁度いい機会になったということね」

「そういう事になるな……」

 二人でこそこそと小さな声で会話をしていたら、ラーソルバールは父に睨まれた。

 全員の挨拶が終わると拍手が起きた。

 この人事を快く思わない者達も少なからず居るはずで、この拍手にはどれだけの歓迎の意思が込められているのだろうか。

 ラーソルバールは拍手をしつつ、ふと気になった。

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