第十章 エラゼルとラーソルバール(中編)

(一)武技大会①

(一)


 もうすぐ年が終わりを迎える頃、騎士学校が騒がしくなってきた。

 恒例の武技大会が開催されるからだ。

 会場の設営や出店の手配など、学校職員が慌ただしく動き回っている。

 生徒たちも交代で会場設営に駆り出されるため、その分授業も少ない。

 やる気を見せる者も居れば、自信が無いのか憂鬱そうにしている者も居る。

 ラーソルバールはというと、武技大会について思うところをシェラに聞かれた際には、「行事だからね」と、つまらなそうに答えただけだった。

 研鑽した結果を、自身も周囲も確認するというのが大会の目的と言われているが、それでも「よしやるぞ」という気になれないでいた。

「年に一度のお祭りだと思って参加すれば良いよ」

 見かねたシェラが、ラーソルバールの頭をコツコツと叩いて諭したおかげで、ようやく考えを改め、少しだけやる気を見せた。


 武技大会はトーナメント形式で、学年別に実施される事になっている。

 大会日程は五日間となっており、トーナメント戦を勝ち残ればご褒美が有るらしい。

 教官から『ご褒美』以外にも、結果次第で成績に多少の加点が有るという話を聞き、成績が怪しい者たちは手を叩きつつ歓迎したのだが、そう上手い話ばかりではない。逆に内容の思わしくない生徒には落第の可能性も出てくると付け加えられると、生徒達は騒然となった。

 

 大会は予め申告した武器での参加となっており、対戦相手の武器にも一喜一憂することになる。

 大会前日、フォルテシアが持ち帰ってきたトーナメント表に、クラスの皆が群がった。

 誰もが自分の名前を探し、対戦者の名前を確認する。

 表自体は対戦者への先入観を持たせないという配慮からか、クラスと名前と武器のみが記載された簡素な物となっていた。

 ちなみに休学となっていたジェスター・バセットも数日前に復学しており、トーナメント表にもしっかりと載っていた。


「連絡事項ひとつ目。同一クラスの生徒は二回勝つまでは対戦することはない」

 フォルテシアが代表会から持ち帰った情報を伝える。その言葉に周囲から安堵の声が漏れた。

 ラーソルバールやフォルテシアと対戦したくない、という事だろう。

 他のクラスはともかく、このクラスでは誰もが教練での違いを目の当たりにしている。早期での対戦は死活問題でもある。

「ふたつ目、魔法の使用も可能。但し攻撃魔法の使用は禁止となっています」

 この言葉でどよめいた。

 魔法の使用により、実力が逆転するケースもある。一瞬だが、ラーソルバールの顔を見る者が数名居た。

 魔法を行使すれば、あわよくばラーソルバールに勝てるかもしれないと思ったのだろう。

(ここに至ってもまだ、魔法を使った程度でラーソルバールに勝てると思っているのか……)

 口には出さなかったが、自身の経験もあってかフォルテシアは呆れたようにため息をついた。


 そんな生徒達の期待と不安が混ざりあいながら、武技大会は当日を迎えた。

「これより本年の武技大会を開催する。皆が大きな怪我無く、日頃の鍛練の成果を披露してくれる事を願う」

 いつもと変わらぬ校長の要点だけの短い言葉が終わると、会場が沸き立った。

 他の注意事項が別の教師から告げられている間に、速やかに初戦の準備が整えられ、説明が終了するや否や即時に試合は開始された。

 大会は学年毎に平行で四試合が行われる。一回戦が二日間で行われる予定になっており、シェラとフォルテシアは初日。ラーソルバールは二日目となっていた。

「ガイザさんは二日目だって言ってたね」

 自分の出番が近付いてきたせいか、シェラがそわそわし始める。誰かと話すことで気を紛らわせたいのだろう。

「大丈夫? そんなに緊張してたら勝てるものも勝てないよ」

 ラーソルバールは落ち着かない様子のシェラの額を平手で軽く叩いた。

「相手が誰でもラーソルバールとやるよりはマシ……」

 冗談とも本気ともつかぬ言葉を、フォルテシアは真顔で言った。

「そうだねえ……。そう思えば気が楽だわ」

 あっさりと納得したように笑うと、シェラは手を振って試合場で向かっていった。

「自分と比較する対象が悪い。彼女だって十分に強い……」

 フォルテシアらしい抑揚の無い呟きは、歓声にかき消された。

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