(三)招かれざる客②
襲撃を止めようとラーソルバールが伸ばした剣は、僅かに届かなかった。
「アアアアァー!」
絶叫し、青年は転倒する。
「ちっ……」
姿を現した四人目の侵入者は、長身の男だった。
怪我人を出してしまった。それもかなりの大怪我だ。出血も多く、毒もある。
もし、この戦闘が長引けば恐らく青年は死ぬ。
その切っ掛けを作ったのは、自分だ。
ラーソルバールは自責の念に駆られながらも、剣を握り戦う事を選んだ。
体勢を崩さず、そのまま繰り出した切っ先が男に届きそうになった瞬間、背後に強烈な殺気を感じて、慌てて飛び退いた。
暗闇を切り裂く刃が一瞬だけ見えたが、今までの四人とは、危機感が圧倒的に違った。
恐らくは、能力、熟練度、その両方が比べ物にならない相手だ。
正面からの戦いではない暗殺者との戦いなど、経験した事も教えられた事も無い。
逃げ回る事もできないバルコニーの上では、圧倒的に不利な状況と言っていい。
最後の一人は場に殺気だけを残し、存在は視界から再び消えた。
どんな技を使えば、瞬時に闇に紛れ、消え去ることが可能になるのか。暗殺者の技術などラーソルバールは知る由も無い。
どこから現れるかも知れず、圧迫感に息が切れ、冷や汗が止まらない。
その様子を見透かしたように、背後から長身の男が襲いかかる。
「しまっ……!」
消えた相手にばかり意識を集中させていたため、今まで目の前に居た男への警戒を怠っていた。
不意に近い状態でラーソルバールには避ける余裕が無く、相手の剣を自らの剣で受け止めた。
力では遥かに劣るラーソルバールは、相手の力に圧し負けて不利な形へ持ち込まれそうになる。
(背後から来る!)
直感した。相手が自分を確実に殺そうとするならこの機会だ。
ラーソルバールは剣の力を一瞬抜いて相手の体勢を崩すと、体を捻って横に抜け、相手の足を払った。
それとほぼ同時に、ラーソルバールが元居た場所へと暗殺者の剣が振り下ろされていた。
「ぬ!」
ラーソルバールを捉えるはずだった剣は、止めきれずに長身の男の首に深く突き立てられた。
「ぎゃああああああ!」
声を上げ、長身の男はそのまま倒れ込んだ。
思いも寄らぬ状況に驚いたのは、暗殺者の方だった。
姿を晒したまま、一瞬の隙ができた。
(今だ!)
そう思って飛び出そうとした瞬間、ラーソルバールを狙った短剣が飛んできていた。
手負いの男から放たれた直後に気が付いたのだが、払い落とす事ができるような体勢ではない。
(避けきれない!)
半ば諦めた瞬間だった。短剣は一本の剣によって叩き落された。
「詰めが甘いぞ、ラーソルバール・ミルエルシ!」
純白のドレスに黄金の髪を揺らす、まるでおとぎ話のお姫様のような姿に、一本の剣を携えてエラゼルが現れた。
「エラゼル!」
安堵と共に、ラーソルバールは勝利を確信した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます