第46話 消失
乾いた風が吹く通りの中央に、人だかりができていた。
炭鉱の町の住人たちは、それを遠巻きに見つめている。
だがその場に到着した途端、俺は小さく落胆した。
「どうやら……《獣狩り》とは関係がないようだな」
そこにいたのは、軽鎧と刀剣類で武装した男たちだった。
といっても、ほとんど山賊や盗賊に近い。
まともな戦闘訓練も受けていないような荒くれ者たちだ。
「獣人風情が……! 人間様の町をうろついて許されると思ってんのか……!?」
「世界を救った《七人の勇者》様に楯突く気かぁ!? あぁ!?」
恫喝する賊たちの足元に、年老いた獣人がうずくまっている。おそらく行商に立ち寄ったのだろう。偶然こういった輩に遭遇したのは、運が悪かったといえる。
「なんという不届き者ども……許せぬっ!」
即座に突撃しようとしたスレイヤを、俺は制した。
「お前が行けば、余計に奴らを刺激するだけだ」
「しっ、しかし……!」
「――おい、あれ見ろ! あそこにも獣人がいやがるぞ!」
案の定、早速見つかってしまったようだ。
男たちがぞろぞろと近寄ってくる。
「おいてめぇ、獣人なんか連れてどういうつもりだ!?」
「けっ、田舎モンが……。勇者様の『種族浄化宣言』を知らねぇのか? 人間以外の種族はなぁ、駆除しなきゃいけねぇ害獣どもなんだよ!」
男たちは、どこかで聞いたような言葉をまくし立てる。
こいつらは決して、勇者たちを本心から崇拝しているわけではないだろう。
単に自分たちの強盗や暴行を、勇者の名のもとに正当化したいだけの屑どもだ。
すると、ふと男たちの目が俺に止まった。
「んん……? てめぇ、神官……か?」
「ああ、そうだ」
「はっ、このご時世に呑気に獣人を連れてるとは、さすが世間知らずの神官サマだぜ」
「おい貴様……!」
途端、スレイヤが裂帛の気合いを放った。
「レイズ殿にこれ以上無礼な口を聞いてみろ。二度と口が聞けぬよう、その舌を斬り捨ててやるぞ……!!」
「なっ……」
圧を浴びせられただけで、男たちが一斉に怯む。
それでも集まった野次馬たちの視線の手前引けないのか、武器に手をかけた。
「っていうかさ、キミたち、勝手にボクらの名前使わないでくれますぅ?」
無防備に近寄ったフェイが、自分よりも遥かに背丈の高い男たちを、呆れきったという態度で見上げた。
「なんだぁ、このガキは。……………………ん?」
フェイの姿をまじまじと見つめた途端、男たちが唖然として目と口を開ける。
「あああなたは!? 《七人の勇者》のひとり――フェイ・リーレイ様!?」
「なーんだ。ボクを知ってるんじゃないですかぁ」
フェイは自称世界一可愛い微笑を前に、男たちが狼狽する。
「ななっ、なぜフェイ様が、汚らわしい獣どもの味方を!?」
「そ、そうです! オレたちはこうしてフェイ様たちのお言葉に従って……」
「はいはい、言い訳はそこまでね。ボクの旦那さまに失礼なことを言った落とし前、ちゃ~んとつけていってくださいね♪」
フェイの無垢な笑顔に、男たちは身も心も凍りつく。
その数秒後、男たちがどうなったかは語るまでもなかった。
△▼
「《獣狩り》の手がかりは得られず……か。残念であった」
獣人族の老人を助け、俺たちはシルファたちの待つ場所へ戻っていた。
「無駄足だったな」
「いや、そんなことはない。ああして暴漢どもの手から、我が同胞を救うことができた。レイズ殿、フェイ殿。協力に感謝する」
スレイヤが律儀に頭を下げると、フェイは面食らったようにたじろぐ。
「べ、べっつにぃ。ボクはただレイズさまを侮辱した輩をボコボコしただけですしぃ」
「ははっ、たしかにボコボコであったな」
人間であるフェイと獣人のスレイヤは、和やかに笑い合っている。
確かに、あながち無駄ではなかったのかもしれない。
立場的にいがみ合うことを懸念したが、どうやら心配はなさそうだった。
俺たちはシルファたちと別れた町の入口付近に戻ってきた。
スレイヤとフェイが周囲を見渡し、ふたりの姿を探す。
だがその前に、俺は今起きている異常事態を理解した。
「レイズ殿。あのふたりはどちらに?」
それに答える者は、いない。
シルファとアージュの姿が、どこにもなかった。
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