第34話 第二の勇者


 絢爛豪華な城内。


 地上のどこからも見えない難攻不落の要塞で、勇者ディーン・ストライアは、大陸地図の上に置かれた駒を動かした。


「これで魔族域はほぼ陥落。次は亜人の大陸か」


 種族浄化は滞りなく進んでいる。所詮は魔王征伐後の残党狩りでしかない。

 だがディーンは物憂げに目を細めた。


「掃討戦にイオナの不在は口惜しいな。もっとも、あいつの拷問趣味に付き合わされることがなくなったのは健全だが」


《七人の勇者》の一角が落とされたのは想定外だった。

 そして――あの神官の存在も。


 だがそれとて、対処可能なイレギュラーに過ぎない。


「さて……次は誰に任せたものか。相変わらず筋肉を鍛えているだけのギンカか、謎の大釜をかき混ぜているアリシャにでも働いてもらうか……」


「えぇ~? ディーンってば、世界一可愛いボクのこと忘れてないですか?」 


 突然出現した気配に、ディーンはわずかに眉をひそめた。

 この少女もまたイオナとは違った意味で、扱いづらい駒のひとつだった。


「まったく……遊びじゃないぞ。フェイ」

「大丈夫ですっ。ボクの魅力にかかれば、みーんな虜になっちゃいますからね♪」


 群青色の髪を持つ小柄な少女は、可憐に微笑んでみせた。

 軽く握りこんだ自分の拳を、まるで宝石のようにうっとりと見つめる。



「だからあの神官さんも、きっと幸せに逝けますよ」


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