JD-314.「命の違い、立場の違い」



 空から照らす月、たまに吹く風で草木が揺れる音。もたれかかっている木の感触に……そして、みんなのぬくもり。それが今の全てだった。


 ジュエルビーストを倒してから、周辺の魔物の数は目に見えて減っていった。これが、一時的な後退なのか本当に減ったのか、それはわからない。けれどヨーダ将軍は今のタイミングで後方との補給線をしっかりと構築することを選んだ。


(自由にしていい、か。察しはついてるのかな?)


 最初、陣地に残って色々と手伝っていた俺たちだったけど、そのうちに他の冒険者と共に、一度依頼の終了を告げられた。俺達は別に依頼を受けていたわけではないけれど、似たような物だ。後方の安定に手を貸すもよし、このまま居候するもよし、といったところ。話の後、俺たちには将軍直々に、自分たちの思うことをしてくれて構わない、と告げられたのだ。


「そうして1週間、今のところは皆と大自然の旅……か。視線を気にしなくていいというのはいいかな?」


「とーる、寝れないの?」


 小さくつぶやいたつもりだったけれど、やはりすぐそばにいるとなると聞こえてしまうようだ。大きな木の枝の付け根に6人で乗っかってくっついてるのだから聞こえて当然という気がしないでもないけども。月を見上げてのつぶやきに、フローラが答えたのだ。


「ちょっとね。終わりなのか……何かいるのか……」


「そうだよねー。ボクもなんだかすっきりしないよ。ほんとはさ、早くみんなであちこち楽しく旅をしたいんだよねー」


 その意見には全面的に同意だ。俺も、もっと皆といろんな場所でデートしたいし色んな楽しみを味わいたい。こうして一緒にいるのだから、みんな幸せにしてあげたいのだ。


 同じようなことをこの前言ったら、みんなしてこうしてるならもう幸せだと思う、なんてことを言われてしまったので次はどうしようかと考えているところだ。


「風の吹くまま、とは少し違うけどきっとさ、なんとかなるよ」


「フローラの言う通りかな。うん、朝まで時間がある。もうちょっと寝よう」


 そうしてすぐに目を閉じて静かになるフローラを見ながら、俺はまた月を見ていた。1つ……いや、2つかな? どうしても気になることがあったからだった。


 みんなは、終わったら人間になりたいのか。そうでなくても、男女の関係として……未来に残したいか。俺も人間ではなくなってきてから、それを事ある度に感じている。今のままでは、俺たちは俺たちだけ、未来に子供という物を残せないんだなと。


(もし、みんなが望んだとき……俺は……)


 いつしか月はまぶたで隠れ、俺も眠ってしまっていた。




 自由に動いていいと言われて広大な森を探索している俺たちだったが、途中何度か遺跡らしきものを見つけた。それはこれまで見つけたように、ほとんどが意味のない物だった。謎の壁画が見つかったような大きな物も見つからず、魔物に襲われることもないというある種なんとも言えない時間が過ぎていく。


「何もないのです。魔物はどこかに行っちゃったです?」


「どうでしょう……さすがに全部どこかに行ったとは考えにくいですわね」


 今日もまた、森と草原、山と川といった組み合わせそのものは変わり映えしない光景が続く。獣は結構いるし、住むには問題なさそうな感じだ。だというのに、いたであろう魔物がいない。


 ふと、草原の間に伸びる獣道よりは太い物を見つけ、降りて確かめることにした。そこは土がある程度むき出しになっており、よく確認すると足跡のようなものが多く見つかった。


「動物にしてはバラバラね」


「あっちにずっと移動してる?」


 方向を確かめ、改めて空を飛んでそちらに向かうと……湖が見えて来た。草原に空が降りてきたような、鏡のような湖だった。近くまで飛んでいって降りてみると、ごく普通の湖に見える。今のところ、嫌な気配は全くしない。


「今日はこのあたりで野営しましょ。と言ってもニーナに頑張ってもらった方がいいけど」


「お任せなのです!」


 周囲に大木は無く、隠れる場所も無いとなればさすがにそのまま野宿というのは少し怖い。どうこうされるような獣はそうそういないと思うけどね。あっという間に何度もやってきたように、湖のほとりに小さな家が出来上がる。入り口は上の方に作ったから何かが入ってくる心配もあまりないかな。


「お魚さん!」


「偵察ついでに、少し獲ってきますわね」


 今のところ大丈夫そうといっても、何かが隠れていないとも限らない。木が濃くなる場所までは数百メートルはある。こんな絶好の場所に、獣の1匹も見ないというのは少しおかしかった。湖に向かうラピスにも、十分気を付けるように言っておくことにした。ジルちゃんとフローラもついて行ったから大丈夫だろう。


「拍子抜けもいいところだわ」


「戦いたいわけではないけど、確かにね。こう……勝負だと来てくれた方が気楽ではあるね」


 念のために周囲の草も刈りながらの会話だけどやはり、小動物はいるようだけどそれ以外は見当たらない。ニーナも鼻歌交じりに外に竈らしきものを作っている。後はルビーがそこに火を放り込めば出来上がりだ。


「少し前に、アンタ……よくわからない物を斬ったはずよね?」


「うん。結局正体がわからずじまい……ん? でも、そう言われてみればジュエルビーストの中で出会った相手とどこか……似てた気がする」


 女神様の邪魔をする謎の相手、その正体は未だに不明のままだ。もしかしたら女神様はそれを知っているかもしれないけど、教えてくれていないということは知らない方がいいと考えているのかもしれない。


 例えばそう、相手にも事情がある……そんな相手だと遠慮するんじゃないかってね。


「これは、私のカンだけど……トール、例え相手の在り方が私たちそっくりでも……間違っちゃだめよ」


「そっくりでも……」


 つぶやきに、真剣な顔で頷かれた。それだけ、ありうると考えているということだ。見た目は違ったとしても、ルビーたちのように……何かから人化した相手だったとして、戦えるのか?と問われているのだ。


 確かに今までの相手は明らかな異形や、顔もわからないような相手ばかりだった。けれど、そんな相手じゃないかもしれないという可能性は確かにあるのだ。


「動揺はするかもしれない。でも、間違わないように頑張るよ」


 実際、みんなのような相手が出てきたらどんな行動がとれるかはわからないというのが正直なところだ。だけどそこで間違えたらみんなが悲しむことになる。だから、間違わないように……頑張ろう。


「あ、でもさ」


「? 何よ、何か気になることがあるの?」


「説得して、一緒に旅する子が増えるのはあり?」


 実際にはそのつもりは全くと言っていいほど無いのだけど、一応聞くだけ聞いてみた俺。ただまあ、その返事は当然、馬鹿っという叫びと、平手打ちであった。







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