JD-312.「勝利の果てに」
「よかった……2人とも無事で……あまり心配させないでよね」
「ごめんなさい……やっつけたよ」
それしかなさそう、とはみんなわかっていても危ない物は危ない、そういうことだ。しばらくは6人で一塊となって、互いの生還を確かめ合った。ジュエルビーストがいたせいか、鳥すらいない森には風しか通らない。優しいそよ風が、俺たちに落ち着きを届ける。
「じゃ、探索とかしよっかー。ボクはちょっと飛んで周囲を確認してくるね。ジル、付き合ってよ」
「自分も何か埋まってしまってないか見るのです!」
戦いが終わればやることは別に出てくる。元々はここは人間の兵士達がいる陣地だった。見るも無残な、という状態と言ってもそのまんまというわけにはいかないだろう。ちょっと悲しいけれど、遺体を見つけたら弔ってあげるぐらいはしてあげないといけない。
空に飛びあがったフローラとジルちゃん、そして一人歩き始めたニーナにはルビーがついていった。結果、俺はラピスと一緒に陣地跡を探索することになる。と言ってもジュエルビーストが地面に埋まっていたこともあり、ぽっかりと穴が開いてしまっているのだが……。
「改めて考えると、とんでもない相手でしたわね」
「うん。中に入ったら胃液の海でしたってなってなくて本当によかったよ」
そう口にして、だいぶ危ない賭けだったなと今さらの実感が襲って来た。もっとこう、外からどうにかすることを試してからにすべきだったかもしれない。
一人反省をしながら、ラピスと一緒に陣地跡へ。森の中にぽっかりと開いたその場所は、そのまま何か大きな器で森をすくい取ったかのような光景を生み出していた。外周部分には確かに陣地があったんだろうなと思わせる木材の破片や、石なんかが残っている。
「ほとんど何も……あら、マスター、あれを」
「あれは……機械?」
大きな穴の底のあちこちに、何かの残骸のような物を見つけた。この世界では珍しい……機械のようなものだ。結界の装置や、これまでに見た物は全て発掘品か、昔の物をだましだまし使っているそうで新しく作る技術は残っていない。となると、これらも昔作られたものだ。
穴を降り、近づいていくとその大きさがわかる。大体……大人が両手を広げたぐらいの大きさだろうか? 元々はもっと違う形だったかもしれないが、ほとんどが壊れた感じで残っている物がそれだけという状況。
「一体何の……っと、何か入ってるな……ラピス、これ」
「? 間違いありませんわ。精霊の宿っていない、水の属性の方の宝石類、ですわね」
壊れた機械の一部、それの筒状の中にはこぶし大ほどの青い石たちが残っていた。頭に浮かぶのは、少し前に山で見つけたジルコニアが採れる場所。探った限りでは、地下深くにジルコニアを作り続ける何かがあるんじゃないかという話だった。
ここに陣地を作った兵士達がそれに気が付いていたかは今になってはわからないけれど、ジュエルビーストにとっては格好の餌場だったわけだ。もしも規模が大きければ、俺たちのいた場所が先に襲われていた可能性もある。
そうしてジュエルビーストは力を蓄えていた。恐らくは増える石たちを体に取り込んで……。
「攻めてきた相手を奇襲するブービートラップ……言ってるときりがないか」
「ええ、少なくともアレはあの1匹だけだと思っておきたいところですわね。そうもいかないのですけど……」
ラピスの言うように、将軍に報告するときにこれを言わないという訳にはいかないだろう。まさか、相手がそんなものを目印に襲い掛かってきたとは夢にも思わないだろうし、最悪の場合あの場所を放棄することだって考えなくてはいけないのだから。
ひとまずみんなと合流するべく、穴の底の機械を一通り回収した後に穴をラピスを抱えて飛んで乗り越えると、ちょうどみんなも戻ってきたところだった。
「えっとね、お空には何もなかったよ」
「そーそー。平和な感じ。な-んにもいないから心配になるぐらい。そのうち戻ってくるんじゃないかな?」
「ジュエルビーストが落ちてきた時に吹き飛んだらしい武具は見つかったのです。でも、人はいなかったのです……ゆっくり眠らせてあげることもできないのです」
「もしかしたらもっと遠くに飛んでいってしまったかもしれないけれど、厳しいわね」
4人の報告も、ここで出来ることはもうほとんどないということを補強する物ばかりだった。俺は穴の底にあった機械の話をして、一応回収してあることも伝える。最初は不思議そうに聞いていたみんなも、ジルコニアのとれた山の話をすると納得したようだった。ジルちゃんは相変わらず……ちょっと寂しそうだったけど。
生存者無し、遺品も……少し。そんなひどく悲しい結果ではあるけれど俺たちにけが人は無し。将軍はきっとそこを褒めてくれるだろう。そういう人だ……だからこそ、別の結果を持ち帰りたくはあったけど……しょうがないか。
(魔物も、本気ってことだよな)
ジュエルビースト以上の相手が出て来るかは今もまったくわからない。どんな相手ならあり得るのかも予想がつかない以上、出てきた相手と戦うしかないのだが……俺はなんとなく、相手の焦りのような物を感じた気がした。
人間がいなくなり、魔物だらけの世界になったとしたら……それはそれでバランスが悪くなっていくことを知っているのかいないのか、まだわからないことも多いけど、最後まで戦うだけだ。
「戻ろう」
短い一言を合図に、俺たちは再び空に舞い上がってヨーダ将軍の元へと戻るのだった。
行きと同じくあっさりとした旅は問題なく終わり、こちらを待ち構えていたヨーダ将軍へと俺は陣地で起きたことを告げた。状況、そして出て来た相手との戦い。結果としてほとんどが残っていなかったことも。
予想通り、将軍は俺たちを責めるようなことはなく、事実をしっかりと評価する言葉を口にした。俺から見ても悔しそうではあるが、軍人とはこういう物だと、暗に言われたような気がした。
報告が終わった後の、将軍や兵士達の無念そうな表情が……頭から離れなかった。
「ご主人様、元気ない?」
「ん、ちょっと疲れたかもね」
俺たちに用意された建物の中。俺の視界いっぱいにジルちゃんの顔がアップになり、心配する瞳が俺を射抜く。表には出していないつもりだったけど、バレバレだったかな?
「アンタがわかりやすいだけよ。ここで落ち込んだって仕方がないじゃない。私達はやれるだけのことはやったのよ。それ以上を望むのは、神さまにだって無理な話よ」
「ええ、そうですわ。ですからマスターも、それにフローラ、ニーナも。いつも通り、過ごしましょう」
静かだなと思っていたら、ニーナもフローラもやはり後からじわじわと陣地のことが響いてきたのか少し浮かない顔だった。けれど、ラピスに言われ互いに頷きあうとなぜか元気な顔で俺に抱き付いてきた。
「じゃあとーるに慰めてもらおうかなー」
「それはいい考えなのです! みんな一緒に癒し合うのです!」
癒し合うって言葉としてはどうなんだ?と思いつつも引きはがすわけにもいかない。そしてそのまま、特に何をするでもなくみんなで寄り添い、しばらくは互いのぬくもりで静かな時間を過ごすのだった。
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