JD-296.「ドラゴンスレイヤー」
結論から言うと、彼らはリブスではあってもオルトたちとは別のグループであることがわかった。元々今回竜に占拠されてるような湖や大きな川沿いに住む種族らしい。紹介されて驚いたのだけど、数がかなりの人数?だった。
「我々をもてあそんでいるのだろうな。この廃墟ごと潰そうとはしないのだ」
「そういうことか……竜の数とか大きさはわかる?」
常にというわけでもないようだけど結構な頻度で竜はこちら側に飛んでくるらしく、外に出て狩りをするのも二重に命がけらしい。かといって森に隠れ住むというのは竜以外の相手を考えるとなかなか難しい。結果として廃墟に隠れ住むもこもこの海洋生物、なんてものが誕生したわけだ。
「見えた限りでは10……はいたと思う」
「結構な数ね。そんなにどこにいたのかしら?」
ルビーの言うように、元々それだけの数がどこかにいたことになるわけだけど今は考えても仕方が無いかな。俺たちは元々はどっちの味方という訳でもないわけだけど、話が通じるならそっちを優先するのが普通だよね。
比較的大きな建物の中で、子供のリブスたちと遊んでいるみんなを見れば、それは議論するまでもない。竜はマナを多く吸収し、貴石術のような扱いでブレスだって放てる。そんな相手が過剰なマナの影響を受けたら……自爆で済めばいいけどそうでなければ周囲が危ない。
「みんなを、笑顔にする」
「ジルの言う通りだねー。次はボクと……ニーナもいけるんじゃない?」
「はいなのです! 光ってるですよ」
一通り話が終わったのか、そんな風に言い切る2人の手にはそれぞれ緑と金色に近い光が灯る指輪。竜たちの強さははっきりとしていないけれど、負けるつもりもなければ負けないだろうという自信もあった。
最悪でも遠ざけるぐらいはしておくと、とリブスたちに宣言し……俺たちは森の中を進む。空を飛んでいるといちいち竜が襲って来たそうな気がしたからだ。個別に撃破していってもいいけれど、どうせなら見せつけて他にいるかもしれない竜への牽制にもなればいいかなと思っている。
「あちこちで獣が怯えてるわね。長引かせるのも良くないわ」
「マスター、見えてきたところで2人を……」
ラピスに頷いて、隣を走るフローラ、そしてニーナの手をそれぞれ握る。それぞれの手の中に、小さくなった聖剣が産まれる。いつもと違い、小さくなってもちゃんと聖剣の姿をしているあたり、聖剣もだいぶ普通の剣じゃ無くなってきたよね。
「とーる、ボクはどこまでだって飛んでみせるよ。自由な風としてみんなと一緒に、どこまでも」
「なら自分は万難から守って見せるのです。大地はどこまでも広がっているのです」
「うん。よろしく」
それぞれの手から伝わる強い力、そして想い。森の木々が減り、視界の先に湖らしきものが見えてきた時……3人の気持ちは1つになった。
「「「いくつもの約束を果たし、今ここに……結べ、マリアージュ!」」」
戦闘開始の合図はいらない。2色の光が湖面を染め上げ、その光の中から俺達は飛び出した。後詰めに備えてジルちゃんたちは小さいまま。それでも彼女たちはそこらの貴石術士が束になったって敵わない。
炎と氷、それぞれの力が矢のように撃ちだされ左右の竜へと降り注ぐ。中央を貫くのはジルちゃんの生み出す透明な刃たちだ。竜にとっては命を奪いかねない力の中を俺とフローラ、そしてニーナは駆けていく。
「ニーナ!」
「はいなのです! えええいっ!!」
予想に反し、おへそやら色々なところが丸見えのイブニングドレスもどきの格好をしているニーナが力を注ぐと、砂浜から一気に茶色い道が空へと伸びた。まるで橋が出来上がるかのように空に伸びるそれを3人で走る。一歩一歩、走る度に足元には風。気が付けばほとんどの竜を眼下に収めるような高さまで駆け上がっていた。
それに気が付き、何匹もの竜がこちらへと向き、その口を開く。その中に集まる明らかなマナの気配。だけど……それが撃ち出されることは無い。
「その翼と目を貰っちゃうよ!」
ヒラヒラと、踊りを踊ったら綺麗にはためくだろうなというお祭りに着るような衣服のフローラが叫ぶと暴風が俺たちのすぐそばを通り過ぎ……さっきまで駆け上がっていた土の橋が崩れると同時にそれは砂嵐となる。竜とて何も見ずにいられるわけもなく、見事に目つぶしとなる。そして暴風ともいえる強風は空を飛ぶ竜からその力を奪い、そのまま落下させていく。
「これでっ!」
「終わりなのですっ!」
落下に加え、さらに風を生み出して落ちる竜に追いつくような形で近づき、聖剣が、風と岩の刃が竜たちを切り裂いていった。湖に近づいたときには、1匹を除いてすべての竜は倒されていた。もちろん、空を飛んでいなかった奴らはジルちゃんたちの手によってではある。
ホバリングでもするように、湖面に浮いている俺達。ジルちゃんたちに振り返ろうとしてその気配に気が付いた。湖の奥から、確かな力が噴き出してきたのだ。視線を向けると、そこにいたのは竜たちの中で、一際大きな個体。その首元に光を携えていた。
「あぶなっ」
放たれるのは黒いブレス。空と、木々の上のほうを巻き込んで破壊をまき散らした。相変わらず正面から当たりたくない物だ。首元の光は黒い光という特徴のある物。その源は……黒真珠。まさかの出会いであるが運が向いていると思う方がいいだろうね。
竜の視線が俺を捉える。どうやら相手も俺がそういう相手だと認識したようだった。マリアージュによって強くなった2人より、重要だと。ならばそれに応えるしかないかなと思った。
「2人共、力を借りるよ」
「どーんといっちゃえー!」
「お任せするのです!」
頷くが早いか、湖面が2つに割れる勢いで加速して飛んでいく。連続して撃ちだされるブレスは当たれば危ない威力を感じる。もちろん当たれば、だ。勢いは緩めず、それらを回避し竜へと接近した俺は聖剣をまるでバットでフルスイングでもするかのように構えた。集めるのは、土の力。
「いっけええ!」
叫びと共に、聖剣はその長さを何倍にもし、大きな刃と化した。元々は指1本落とせたらといった長さだった物が、ついには竜をそのまま両断する長さとなり……相手の咆哮ごと切り裂いた。
背後の木々も巻き込みながら振り抜かれた力。現場には、木々が倒れていく音だけが響いた。増援や、近くに隠れている様子もないと判断した俺の元へ、みんなが駆け寄ってくる。俺はニーナを引き連れてそのまま竜のいた場所に向かい……黒真珠を確保した。
これで後マリーアージュをしていないのはジルちゃん1人であった。ジルちゃんとの絆が足りない? いや、きっと別の理由がある、そう感じた。それでもそう遠くない日にその時はやってくるだろう直感を俺は信じることにした。
竜の爪や牙等を素材として確保し、念のために周囲を見回っていく。恐らく大丈夫だろうと判断したのはそれから1時間ほど後のことだった。
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