JD-283.「森の中で出会う物」


 アーモの街でナルちゃんら子供達と再会した俺達。彼女の言う噂……森に見たことの無い奴らが出ているという話を確かめに俺たちはさっそく森へと入っていた。一見するとごく普通、これまで通りの森に感じるのだけど……。


「数は多いかな?」


「前は街道にいた魔物たちが森に逃げ込んでる気がするのです」


 敢えてナルちゃんたちが入らないようなところから森に入ってみたのだけど、木々を縫うように走ってくるのは野犬ばかり。たまにゴブリンってところかな? どちらも食べる場所は無いし、素材にするにも高くないので今は用件を優先することにした。


 念のために一塊になって後ろも警戒をしていくのだけど……予想より少ない? もう少し襲ってくると思ったんだけど……こっちの気配を感じ取ってるんだろうか? 前はゴブリンはそれでも襲い掛かって来たことを考えると、まとめているリーダー的な奴がどこかにいるんだろうという思いが強くなってくる。


「とりあえず、行けるところまでどんどん行ってみましょ? そうしたらさすがに相手も出て来るんじゃないかしら」


「見敵必殺、ずどーんと行くのです!」


 情報がまだ足りない、そう判断した俺たちは急ぎ過ぎない程度に奥へと進んだ。すると、徐々に襲ってくる敵も中身が変わってきたのを感じる。というかこんなに森のどこにいたんだろう?って思うぐらいだ。この世界の魔物は、多分だけど普通に生殖で増えるタイプと、ゲームかと思うように増えてくるのと両方いると思う。地面から出てくるのを見たわけじゃないけれど……そうじゃないと食料の問題とかもっと出てくると思うんだよね。


 普通に行けば何日も必要であろう場所まで進み、少し木々の隙間が広くなったかな?と思った時、さらに奥の方から叫び声が聞こえた。悲鳴ではなく、咆哮というべきだろうか。視線の先に現れるのはゴブリンゴブリン。そして頭2つ分ぐらい大きいゴブリンだ。


『ギギッ!』


「させない」


「えいやっ!」


 てっきり部下のゴブリンに先に来させるのかと思ったら、そのゴブリンリーダーは一匹で前に飛び出し、飛びかかって来た。軽やかに舞うジルちゃんがそれを迎撃し、後ろからのフローラの風の刃で一撃必殺である。別に決闘ってわけじゃないから……いいよな?


 それを合図にしたのか、わらわらとゴブリンたちが集まって来た。後方にはさっき倒したような大きなゴブリンもちらほらと。いよいよ何を食べて生きてるのか心配になる数だ。既に魔物側の反撃、反発による大増殖は始まってるんじゃないのか? そんな嫌な考えが頭をよぎる。


「マスター、そもそも今はその状況から押し込もうとして前線は戦ってるわけですから……このあたりがたまたま相手が来てなかっただけではないでしょうか?」


「案外、人間以外と戦っているのかもしれないわね」


 思い付きを口にすると、そんな答えが返って来た。確かに、それはありうる。いずれにせよ、こいつらを放っておくのも危ない。ざっと見ただけでも6対100みたいなどこに貴石術を放っても当たるし、聖剣を振るえば何かが斬れる、そんな場所になってしまっているのは問題だ。


「フローラ! 場所を広げよう!」


「とーる、じゃあ大きくして? じゃないとたぶん足りないよっ!」


 頷いて聖剣の準備をし、さらに飛び込んでくるフローラの抜けた穴をみんなが埋めてくれる。ルビーが炎をともせばそれだけでも相手はびびるし、ラピスの放つ水流はゴブリンたちを押し流し、地面をぬかるみにさせている。ジルちゃんやニーナの攻撃は確実にゴブリンたちを血の海に沈めている状態だ。それでも間違いなく数が多すぎる。


 戦いの最中、しかもジルちゃん達だけじゃなくゴブリンたちの視線も感じるという特殊過ぎる状況にもなんだか慣れてきてしまったような気がする。慣れたくはないのだけど……まあ、しょうがないね。


「ボクももうすぐ行けると思うよー」


「その時を楽しみにしてるよ」


 フローラの指にはまる指輪はうっすらと色づいていた。まだマリアージュが可能かと言われると怪しい色だけど、色がついてきたならゴールも近いと思う。そんな彼女の手を握りしめ、右手は彼女のお腹へ。


「んっ、えへへ。やっぱり恥ずかしかったかな」


「また今度、戦いの無い時にもみんな開放しようか」


 そんなことを呟きながらぎゅっとこちらの腕を握る感覚に俺のどこかが高ぶるのを感じた。そのまま聖剣をひねり……フローラを貴石解放する。緑の光が周囲を染めた後、ゴブリンたちはすぐに沈黙することになる。


 無数の風の刃が周囲を切り裂き、ここにログハウスでも建てるの?と言わんばかりにちょっとした広場が出来上がる。そこにいたゴブリンたちは皆倒されているわけだ。視界が広くなればこちらの物。飛び道具もなく、突っ込んでくるだけのゴブリンにこちらが負ける要素は1つもない。


「いい加減弾切れになってもいいと思うんだがなあ……」


「これが街に来たと思うとぞっとしませんわ。防ぐのが間に合うかどうか……」


 俺たちのそのボヤキが届いたわけではないだろうけど、ゴブリンたちの数が徐々に減って来た。一週間分ぐらいまとめて倒したような気分だな。続けて近づいてきた気配は……オークではなかった。


 リザードマン、そう呼べそうなトカゲのような肌だった。その手には粗末ながら統一された雰囲気の武器。体にも革鎧のような物を身に着けている。頑丈そうな肌をしてるのになとは思いつつ、その文化を感じる姿にみんなの気配も変わっていくのがわかる。


『モウスコシダッタモノヲ……バケモノメ』


「化け物同士の争いだ、ちょうどいいだろうさ。他に誰もいないこの場所はね」


 自分達、特に俺が人と違うなんて自覚、覚悟はとっくにできている。だからお前が言うな、なんて感情はほとんど沸かずに聖剣を構えることで答えにした。ジルちゃんたちも……俺と同じようにそれぞれに武器を構えている。


「ジルは、みんなとご主人様がいるなら大丈夫」


「人と違う、それは当たり前のことですもの」


「そうそう、私たちは……普通じゃないわ」


 人間の誰もが知らないような場所で、炎と水が舞い、その間を透明なナイフたちが飛んでいく。相手がひるんだところにさらに岩槍、風の刃が襲い掛かる。


「人知れず戦うのも自分たちの役目なのかもしれないのです」


「秘密のヒーローだねっ!」


「そのうち合体でもしないとなっ!」


 5人の援護を受けた状態で俺は聖剣を手にリザードマンの集団へと飛び込んだ。感じる力はなかなかの物。間違ってもナルちゃんたちと会わせるわけにはいかないような相手だ。だから……ここで仕留める!


 みんなの貴石術の威力は予想外の物だったのか、慌てるリザードマンたちの中、1人だけ冷静に構えている奴がいる。さっき喋っていた奴だ。自然と俺はそいつに向き直り……無言で剣を合わせた。思い出すのは獣人の2人が見せてくれた動き。


『コノダイチハ ワレワレノモノダ!』


「どっちの物でもないだろうさ!」


 もちろん、人間の物と言うつもりもない。女神様の言うように、バランスを考えるならね。だから、俺もお前の物ではない、とは言わなかった。体格だけなら大人に近いリザードマンと斬り合い、何度目かの攻防の果てにその腕を斬り飛ばした。


『グヌッ!』


「ふっ!」


 特にかける言葉はない。そのままとどめを刺すと……リザードマンはくるりと後ろを向いて……倒れた。まるでそちらに守るべきだった何かがあるかのように。それが気になった俺は相手が力尽きた後も、その方向を向いたままだった。


「どうしたの、ご主人様」


「俺たちに力を貸してくれる精霊がいるなら、魔物にも得になる精霊もいるのかなと思ってさ」


 ただの想像、妄想の類だけどないとは言い切れないなあと思う。魔物も世界には必要なわけだからね。リザードマンから石英を取り出して眺めると、そんな思いも強くなる。オークよりも一回りも二回りも大きなそれは生き物としてのリザードマンの強さを感じさせた。


「マスター……前に精霊を捉えた魔物がいましたわよね? もしかしてこっちでも同じことをしてるのでは?」


「大変だ―! 助けないと!」


 俺も含め、みんなの体調はまだ問題ない。フローラもマナの補充をしておけば小さくなっても普通に戦えると思う。なら……ここまで来たわけだし、もう少し探索をしようと決めた。


 今度は目的を変え、空から探すことにした。空を飛ぶ魔物がいたら危ないけれど……どうだろうな?

 念のために下を警戒しつつ一塊となって、俺たちは森の上空を飛び始めるのだった。

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