JD-261.「些細で決定的な違い」
「いいポーションづくりにはこのすりつぶしが大事なのにゃ」
「ごりごり……ごりごり」
今後の国同士の連携や方向性を決めるべく、ヴェリアの治める国へとライネスさんの付き添いのような形で向かった俺達。一通りの要件は終わり、ようやく俺たちがついて行った話をすることが出来た。遠征の戦いを支えるべく、癒しの貴石術に関する改善方法がないかということだ。昔の遺跡などが比較的多いという国なら、それらしいものが見つかるかも……という目論見は半分ほど的中した。相手の属性に合ったマナを打ち出すことで補給することが出来る機材が現存していたのだ。今はそれを多くの獣人が使えるように解析、開発中、といったところ。
「開発の間、ずっといろって言われなくてよかったわね」
「気を抜くと色々実験してくるからなあ、あのじいさん」
「ふふふ。色々あったんですね」
アルメニアへと戻った俺達は、出発前のようにミャアとシアちゃんの仕事の手伝いをしながら、情報を集めることにしていた。この地域にも強い力を持った貴石があるなら、ぜひ見ておきたいところだ。まだ回収できていない俺のコレクションも世界のどこかにあるはず……これまでのコレクションは偶然か運命というべきなのか、なんだかんだで集めることが出来たけど最近追加がない。人も魔物もいないような場所に落ちてました、ってことだと回収しようがないね。
俺はしゃべりながらもポーションの素をかき混ぜる機材にマナを供給し続ける。これが修理されるまでは人力でぐるぐるかき混ぜてたっていうから大変だ。普通の品質のを作るなら必要ないらしいんだけど……成分を均一に!なんてミャアに言われてはサボるわけにもいかない。ルビーはバーナー替わりにちょくちょく呼ばれている。ジルちゃんは調合が楽しいらしく、一緒になってすり鉢ですりつぶし中だ。会話に合わせて尻尾や耳が器用に揺れているのを見ると偽物の耳とは思えないね。
「戻りましたわ」
「たっだいまー」
「トール様、見てほしいものがあるのです」
他の依頼を受けて外に出ていた3人が戻ってくる。そんな中の1人、ニーナが猫尻尾なのに子犬が尻尾を振るかのようにして布袋ごと渡してきたのは……透明な石。大きさも形もバラバラだけど、ガラスという訳じゃないね。
「あ、ジルと一緒……」
「そうなのです! お店を見て回ってたら雑貨屋さんにまとめて売ってたのです」
たぶんそんなつもりはないんだろうけど、安売りされてた、みたいな感じ方をしたのかジルちゃんが若干どよーんとした顔になってしまう。ニーナもそれに気が付いて、慌てた顔になるけどここにはみんなもいるからフォローも出来ると思う。それはそれとして、わざわざ買って来たのはなんでだろう?
「その、私達の常識からだと非常識なんですけど……これ、掘れるらしいんですの」
「川辺を掘ると出てくるんだって。不思議だよねー」
「何かと思えばバニルにゃ? たっぷりじゃないけどマナを含むから、石英と同じぐらい使われてるにゃ。珍しくもなんともないにゃ」
そう、ニーナが買って来たのはジルコニアの結晶たちだ。俺が知る限り、天然のジルコニアは無いはず……ジルコンのほうは全く別物だしね。あっちは色もついてるのが多いはずだ。ただまあ、それは地球でのお話。この世界では研究途中に出来てくる副産物みたいに人間の土地でもそこそこ売っていたし、珍しいわけではない。だけど……ジルコニアが採れる?
「これが採れる川は……えーっと、これにゃ。そういえば他の川からは採れないにゃ。そこに鉱脈があったのかもしれないにゃ」
「大雨の後なんかだといっぱい光ってるのが見えるらしいですよ?」
姉妹の話を聞きながら、ふとみんなして考え込んでしまう。機械かそうでないかは別として、これまでジルコニアはこの世界でも
幸い、まだ遠征までは時間があるらしいから、明日にでもその川に行ってみようと考え、みんなの同意を取り付ける。ジルちゃんはなんだか寂しそうに、調合の手を止めて袋を握りしめてるしね。と思ったら、ポップコーンを食べるみたいに口元に持って行ったと思ったらそのまま飲み込んだ。
「事情は聞いてたけど、目の前に見ると不思議にゃ」
「お、おいしい?」
ほぼ同居のようになってる以上、あまり隠し事は出来ないなと考えた俺は、ここに戻ってきた夜に2人にある程度事情を話すことにしたのだ。最初は驚いていた2人だけど道理で獣人っぽくないはずにゃ、と妙に納得されてしまった。
人間だろうと獣人だろうと便利に手伝ってくれるなら歓迎にゃ、とのミャアの言葉がなんだか嬉しかった。シアちゃんも、皆さんは皆さんですから、なんて言ってくれてちょっときゅんときた。ラピスに笑顔のままお腹をつねられたのは内緒である。
「よくわからないけど、これはお口からでいいみたい」
「しっかりと貴石になってないからかしらね? それとも自分に合った奴ならいいのかしら?」
さすがにルビーたちも試しに飲み込むとは言わず、また別の日におやつにすると言ってジルちゃんから残りのジルコニアを受け取る俺がいた。おやつか……斬新すぎるよ、ジルちゃん。
その後も諸々の作業を終え、いつものように眠りにつく俺達。俺は少し寝付けず、窓から空を見ていた。無数の星がきらめいている夜空。俺の考えは、この土地に来てからあまり補充できていない石英に向いていた。貴石レベルも思うようにあげれてはいない。実際問題としては、ゲームのレベルのように上がりにくくなってるのは確かだけれど、貴石が2つのジルちゃんですらまだ上限に達していない。ジルちゃんの場合はそれだけダイヤの能力が高いということだと思うけど……そろそろ3つ目の適した貴石が見つかると良いんだけどな。
「考えても仕方ないか……案外、どの属性でも本当はいいのかもしれないもんね」
他の4人と比べ、ジルちゃんの力には明確な属性の偏りがない。言うなれば無属性だ。光っぽい時もあるけど、それも太陽の光というより純粋に光って感じなんだよな。蛍光灯とかそういうのが近いかな?
ジルコニアが掘れるとなれば、まとめて大量に摂取したらジルちゃんの力ももっと強くなるかもしれない、そんな思いをうつらうつらと浮かべながら気が付けば俺も寝入っていた。
「おさんぽおさんぽ。みんなでお散歩」
「ジルちゃん、走ると危ないよ」
6人全員で進むのは街道と呼ぶには少しでこぼことした道。普段はあまり人が通らないらしい昔の街道だそうである。少し遠回りだけど、なだらかで歩きやすい方にある街道が今の主要な道らしい。ただまあ、そんな場所でも俺たちにはあまり関係がないので早く着きそうな方を選んだわけだ。
「うふふ。マスターは心配性ですわね」
「ただ甘いだけなんじゃないの? 少しはこっちにも……何よ」
「あははっ、ルビーは素直じゃないなー」
俺がマナを注げないイコール手間が増えるということに耳もしおれていたミャアの姿が気にならないかと言えば嘘だけど、前はこれなしでやってたんだから頑張るの、とシアちゃんに諭されて最後にはちゃんと見送ってくれた。そんなに日にちはかからない予定だけど、お別れはお別れだもんな……いない間に遠征に行くことがないのを祈っておこう。
「トール様、川まではすぐなのですか?」
「そのはずだよ。あれが採れるのは砂地らしいけどね」
わいわいと騒ぎながら進む間にも危険な気配は近づいてこない。元々そういう奴らなのか、こちらの強さを感じ取っているのか、それはわからないけれど……普通の動物はあちこちにいるのに、不思議な感じだ。
しばらくそのまま進み、たどり着いた川。そこそこ幅のある川で流れはあんまり早くなさそうだ。
(さて、変な物が出てこないといいんだけど……)
小さな願いがちゃんと届くと良いなと思いながら、ひとまずみんなで周囲の探索を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます