JD-253.「白の……夢」
最近、
そして時には、ジルじゃなかったころの夢も見るの。
(やだな……寂しくなるから)
怖い夢を見た、そうご主人様に言うと優しく抱きしめてくれて、なでなでしてくれるの。だから、怖い夢も大っ嫌いというわけじゃないの……夢の間、寂しいのは嫌だけど。でも、今日の夢は、静かな夢だったの。
「きれい……」
気が付けばジルは白い光があふれる場所に来ていたの。真っ白なのに、建物だってわかる場所だったの。どこかに太陽みたいな光があって、それが影を作っているの。だけど全部白いからその影もなんだか本当に影なのか、じっと見てるとわからなくなる……そんな場所だったの。
「誰か住んでるのかな」
ジルたち宝石娘は本当は夢を見ない、前にラピスは困った顔をしてそんなことを言っていたの。だけどご主人様のための宝石娘だから、ご主人様が望むなら自然とそれに応えていくのも宝石娘だって言ってた。難しいことはよくわからないけれど、ご主人様がにこにこしてくれるのは好きだな。
ご主人様と一緒にテレビっていうので見た宮殿というのによく似た建物の中を歩くの。お部屋がいっぱい、家具もたくさん。だけど誰もいないの。ううん、今は誰もそこにいないの。あるのは1つのコップ、1つの椅子。出しっぱなしだからルビーに叱られちゃうね。
コトンと、音がしたの。それはお庭の方。ご主人様が言っていたの……何かあればためらっちゃいけないって。だからジルはひとまず、いつものように短剣を右手に作り出してこっそりこっそり、ゆっくりゆっくりそっちに歩いて行ったの。
(自分の影が先に行かないように光は常に気を付ける、なの)
よく見ると、建物の中には光はなくって、全部お庭からだったの。だからジルの影が外に伸びることは無かったの。これならばれない、たぶん。かくれんぼは得意だもんね。誰がいるかわからないけど、こっそり近づいて……。
「ばぁ」
「っっっっっっっっ!!」
突然、顔が逆さまに出てきたの。真っ白な肌で、透明な銀色という表現が一番似合う髪、少しだけ青い……綺麗なお目目。びっくりして、夢の中だって言うのにつけたままの猫耳さんと猫しっぽさんもピーンってなったのがわかるの。きっと、叫ばなかっただけ偉いって状況なの。
「誰かと思ったらジルだったのね。どうしたの、こんな心の底にまで」
「ダイヤの子……ひさしぶり」
そう、わざわざぶら下がってまでしてジルを脅かしたのは、ダイヤモンドの子だった。すっごく強いドラゴンさんと戦う時に、一緒に頑張っていつの間にかどこかにいなくなったと思ってた。よかった、消えてなかったんだ。
「久しぶりー、元気ー?」
自分と同じ顔、目の色だけ今は少し違うかな? ほぼ一緒な子が自分だとしないように陽気にしゃべってると……ちょっと変な感じなの。だけど、嫌な感じじゃなかったの。だって、ずっと一緒にいるんだもんね。だからジルは返事の代わりに同じ小さな手をきゅって握ったの。
「ふふっ、温かい……ジル、愛されてるのね」
「みんなと、あなたのおかげ。ずっとお礼を言いたかったの」
さっきまでなかったと思った白い何かで出来たベンチに座って、真っ白な光……不思議な太陽さんと、不思議な木を見上げたの。全部白いのに、なぜか枝があって葉っぱがあって……なんだろう。
「お礼なんて言わないで。私はジルに託したんだもの。無事なのが一番のお礼よ」
笑顔でそういうダイヤの子、真っ白な世界の中で自分と相手の肌の色と目の色はすごく目立った。真っ白なところに絵の具で少しだけ絵を描いたみたいな、そんな感じだったの。
でも、どうしてこんな場所があるんだろう?
「ずっと、一人なの?」
「え? そう……ね。一人と言えば一人……かな」
目を伏せて、呟くダイヤの子。ジルはすぐにその手をぎゅって握ったの。そして、驚いてこちらを見る顔をしっかりと見つめ返したの。こんな、こんな寂しいのはダメだって思ったの。
「ご主人様にお話ししよ? そうしたら……」
あなたも一緒に遊べる。そう言おうとして……お口に指が添えられたの。しーってダイヤの子は呟いた。どうして? みんな一緒が、寂しくないよ?
「ありがと。だけど、それは無理。ここにいる私はもう抜け殻……んー少し違うかな。出がらし、かしら。だって、後は全部ジルに上げちゃったんだもん」
「ジルが……」
そうだった。あの暗い暗い、寂しい場所から抜け出るためにダイヤの子はジルを助けてくれたんだ。宝石娘2人分の力、それがジルの強さの源だったんだ。そうだって知らずに、ジルは……ジルは!
「そんな顔しないの。本当ならすぐに全部ジルの中に消えていくところだったけど、今のところは何とかなってるのよ? ここは何もないように見えるけど、みんな見えてるの。すごいのね、いろんな場所で色んな相手と大騒ぎじゃない」
「でも……それは」
うまく言葉にできない自分が嫌だった。伝えたいのに、感謝の気持ちと、ごめんなさいって気持ちを。悔しくて顔がくしゃってなった時、ダイヤの子がジルの手を自分の胸に、そしてジルの胸に手を当ててきたの。どきどきって、伝わってくる。ああ……おんなじだ。
「ジル、ずーっといっぱい食べてくれてるよね。だから私はまだいるの。ジルの中で、いざという時に備えることが出来るぐらいには……ふふふ。大食いだなって怒られてない?」
「ちょっと食べ過ぎって言われてる。そっか、そうなんだ」
前よりお腹が空いたなって思ってたのは変じゃなかったみたい。ジルが食べるほど、ダイヤの子にもちゃんと伝わってたんだ。だから……今もお話しできる。
「あ、そうだ。これ」
「これは……いいの?」
差し出したのは、黒い奴をジルの色に染め上げた小さな石。精霊さんが言ってたの。自分色に染めたら良い物になるって。貴石とは少し違うけど、きっと役に立つ、そう思ったの。
「うん。お友達の、証」
「そう……ありがとう」
きらりと光るそれをぎゅっと握って、目をつむっているダイヤの子。あ……もっと大事なことがあった。
「名前は?」
「名前? 私の?」
こくりと、頷いた。そういえば、名前を知らないんだ。ジルはジル……ダイヤの子は……? ご主人様はなんて呼んでたっけ? 思い出せない……全部には名前を付けてなかったような気もする。
うんうんと思い出そうとしている私の横でダイヤの子は面白い物を見つけたと言いそうな顔で笑っていた。
「ジルが決めてよ」
「ジルが……わかった」
うーんうーんって悩み始めたの。何て名前がいいのかな。悩みながらも見るダイヤの子は、すごくキラキラしてた。一人で寂しいはずなのに、とびきりの笑顔。すごいな、カッコいいな。たくさん考えて、1つ決めたの。
「カタリナ」
「? どんな意味?」
そう言われて、首を傾げたの。特に意味はないけど……ポンって浮かんだの。その通りに伝えると、また笑われたの。だけど嫌そうじゃなかった……いいのかな?
「あはは。じゃあ、私は今日からカタリナね。よろしく、ジル」
「うん。絶対、一緒に遊ぼうね」
そう口にして、ジルはもうこの夢が終わりだって感じていたことに気が付いたの。ああ……真っ白な世界が本当に白くなっていく。まだお話したいのに……。
「ジル、貴女なら出来る。宝石娘は……ご主人様の切り札なのよ」
もう姿も見えなくなってきた真っ白な光の中、聞こえて来たその声に……しっかりと頷いたの。
「……」
むくりと、いつものように起きた私。お外はもう明るい……今日も朝が始まったの。夢……だったのかな、そう思った自分はふと、あの石が無くなってるのに気が付いたの。大切にポケットに入れたままのソレ。ということは……。
「カタリナ、ジル……頑張る」
まずは今日もカタリナの分もご飯。そう思って朝ごはんの準備を始めたの。
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