JD-220.「暗闇で出会う」



 クライドと一緒にこなす依頼を探してギルドに来た俺達。そこで関係者からおすすめされたのは第三者の立ち合いが好ましいという採掘場にある亀裂の確認と調査への同行だった。特別採掘をするといったわけじゃないけれど、ただいればいいという訳でもなさそうだった。


 残念ながら、クライドは一緒ではまずいということだったので今日はクライドにはお休みを取ってもらう。いい機会だからとあの子と遊んで来たらどうだ?と言ってみると恥ずかしそうな顔をしながらも頷いて外に駆けだした。きっと何かを手土産に買いに行ったんだろう……青春だな、というには俺もまだまだ若いつもりだ。


「それで、私たちはいいの? 自分で言うのもなんだけど、見た目がこんなんだけど?」


「皆さんが貴石術の使い手なのは解決済みの依頼でわかってますからね。後、依頼者は貴方達のことを知っているようですよ」


 そんな受付の話に俺達は首を傾げた。そこまで付き合いのある相手は……ああ、1つ心当たりがあった。ついこの間落石から守った人たちだ。目の前で貴石術で防いで見せたし、冒険者として街に来ていることは話したからなあ……。


 依頼人はそのうちここに立ち寄る予定とのことで、俺たちも思い思いに椅子に座りながらその時を待つ。喧騒に満ちた室内の音が入れ代わり立ち代わりと変わっていく中、入り口に見覚えのある相手が数名やってきた。

 今回の依頼主であろうこの前であったばかりの相手だ。


 受付の人と何事かを話した後、こちらにやってくる。うん、やっぱり何か研究肌というか、こういう調べものが得意そうな顔をしている気がする。ものすごい偏見だけどね。

 代表ということで俺は相手と向かい合い、どちらでもなく軽く頭を下げた。


「先日振りだね」


「こんな形で出会うとは思ってませんでしたけどね。依頼というのが調査への同行と聞きましたけど」


 詳しくは見てもらった方が早いということで、さっそく現場に向かうことになった。準備がいるんじゃないかと思ったけど、相手は誰もいなくても自分達だけで最悪の場合には確認するつもりだったらしくすぐに出発できる状態だった。俺たちも収納袋に大体の物を突っ込んであるし、問題なかった。







「亀裂が見つかったのはつい先月でね。この時季、皆が掘る場所とは違うんだが……次に集中して掘る区画のすぐそばなんだ。何事もなく戻ればいいんだが、何かあってそのままとなると話が違ってくる」


「ある程度掘るとそのうち元に戻るとお聞きましたけれど……戻らないということがあるんですの?」


 俺の疑問をラピスが代弁してくれた。そう、この鉱床はマナの通り道でもあるのか一定期間が経つと掘った場所が戻るという世にも不思議な性質を持っている。この性質を持つ鉱山は他にもある。最初から戻らない普通の鉱山は枯れるわけだけど、この場合には一時的には枯れてもまたもとに戻るのだ。

 戻らない鉱山がすたれたという話は聞くけど、戻らなくなった・・・・・・・、というのは聞いたことが無い気がする。


「めったにない。が、歴史上ないわけじゃあない。聞いたことないかな? 南の国では国庫を支えていた貴石鉱山が急に岩石しか掘れなくなって転落したそうだよ」


「ほとんど北の方にいたので……それは大変そうですね」


 知らないのが問題になるのかもしれない話題が飛んできたけれどなんとかごまかしながらしのぐ。確かに、仮にここも何も掘れなくなったら街の維持が難しくなる。精々が大穴を観光に使うぐらいだけどそれも限界があるだろうね。


「そうなってはいけないからね……お、見えて来たぞ。いけないな、前より広がっている」


 歩き始めて1時間と少し。思ったよりも近い場所にその亀裂はあった。調査員として同行することになった男性5人と一緒に俺達は亀裂の幅、長さなんかを実際に確かめていく。ふと、俺は適当なところで亀裂を覗き込んでみた。暗くて何も見えないけれど……だいぶ深い気がする。それに地下に何かあるような? 見渡すと亀裂の幅は狭い場所だと手のひらぐらい、広い場所だと……なんと俺がまたぐことが出来なそうなぐらいある。


「ご主人様、このへんびゅーってするよ」


「ほんとだねー。たぶんどこかに通じてるよ。とーる、どうする?」


 そんな一番広い場所の前に立った2人から言われ、俺もその亀裂の前に立ってみると……確かに冷たい風が地下から吹き上がってくる。気のせいか、若干湿っぽい。なんだか修学旅行で行った鍾乳洞の入り口を思い出すぞ。


 ひとまず勝手に降りるわけにもいかないので依頼人に声をかけ、こちらに来てもらう。すぐにその異常性に気が付いたらしい依頼人は降りる準備を始めるように指示して来た。もちろん、安全第一ということで。

 幸いにも亀裂からすぐ下が大穴ということはなく、段差のないスロープのように斜めになっているので十分注意しながらであれば問題なく降りられそうだった。


「最悪の場合、俺と彼女が飛べますのでそれで脱出しましょう」


「それを聞いて安心したよ。何事も無いのがいいんだがね……よし、降りよう」


 マナか石英を燃料に光る道具を俺たちも渡され、みんなで亀裂から地下へと降りていく。皆には崩落が起きないか、あるいはモンスターが襲い掛かってこないか気を付けてもらうことにして俺は依頼人たちを守れるように警戒していた。別に仕事としてそれを言われてるわけじゃないけどね、なんとなくだ。


 ビルの上の方から階段で降りていくかのような長い時間。どれだけ降りているのかなんだかわからなくなってきたころ、ようやく穴の底に降り立った。渓谷の底のような見た目で、灯りが照らせている部分もごく一部というところだった。


「うわー……」


「たぶん一番底なのです。大穴の一番底だと思うですよ」


 驚きの声を上げるジルちゃん。冷静に周囲を観察しているニーナ。俺はそんな2人の声を聞きながら……聖剣に手をかけていた。無事にここまで降りてこれたけど、偶然にしては出来過ぎてないか?


「依頼に、私達の護衛や敵対者の撃退を加えてもいいかな?」


「ええ、俺もそう思ってました。あまりにも整いすぎている……みんな、気を付けて」


 途中までなんとか降りられた、ならまだわかる。だけど一番底まで安全に降りられる坂道が出来上がってるなんて偶然がそうそうあるはずが……っ!


「はっ!」


『ギッ!?』


 洞窟のようになっている空間の一角に、不自然な闇を見つけた俺は叫びながら聖剣を一閃。マナの刃をそこにいる何かに向けて飛ばした。まさか攻撃されるとは思っていなかったのか、悲鳴のような声をあげて闇から出てきたのは……妙な飾りや服を身にまとった異形だった。ゴブリンにしては少し違う。

 その悲鳴を合図にしたように、奥の方から気配が生じてくる。どうやらこちらが降りてくるのを感じて隠れていたらしい。ニーナの貴石術による闇に慣れていなければ気が付かなかったかもしれないな。


「ニーナ、守りをお願い。ルビー! 灯りを!」


「はいなのです!」


「ついでに焼いちゃっても構わないわよね!」


 手早く依頼人たちを俺たちが囲む形で陣を組み、数も種類も不明だがモンスターの迎撃にかかることにした。下手に威力のある貴石術を使うと危ないと思ったがみんなは当然それを感じているようだった。いつもよりは控えめな攻撃が暗闇に走り、物陰から出て来た相手を打ち抜いていく。


「相手に心当たりは!?」


「残念ながら、ある。ずっとこのあたりで鉱床を狙ってる魔物達だ! 別の場所に穴があったのか、この亀裂を好機と考えたのか……すまない、討伐は任せる!」


 前からなじみのある相手だというのなら容赦はしなくてもいいわけだ。そう決めた俺は皆と一緒にひとまず目の前の相手を沈黙させにかかった。

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