JD-214.「頑張る少年」
夜のお店の女の子に恋する少年の応援をすることにした俺。流れでなんとなく特にラピスやルビーは察してるだろうけど面と向かっては言ってこない。食事を終え、少年のところへ行く時にも呼び止められることも無かったからね。
まあ、なんとなーく色々と探られてる気がしないでもないけどさ。別にそれが嫌ってことはないし、ジルちゃん達だって気になるだろうからね。こっそり聞かれてたとしても正面にいて聞かれるのとは違うだろうから俺が黙っていよう。それはともかくとして、だ。
「どう稼ぐか、だね」
「うん。すっげー強い魔物の素材を狙ったり貴重な貴石を掘るのを目指す?」
少年、クライドの口から出てきたのは子供らしいわかりやすい一攫千金の話だった。一応適当に言ったわけじゃないらしく、実際にこの周辺や鉱床にはそういう話があるらしい。実際に倒した、見つけたという話が無いらしいから噂でしかないだろうけども……。
「それはやめておいた方がいいかな。実際に倒した、見つかったとして後が続かないよ。一気に大儲けじゃなく、積み重ねが大事なのはお父さんたちが証明してくれてるだろう?」
「そっか……そうだよな」
例えるなら毎日確率90パーセントで1万円手に入るのと、1パーセントで100万円手に入る仕事でどっちをやるか……みたいなもんじゃないかなと俺は思っている。冒険者は冒険してこそ!という意見も間違いないと思うけど、低い確率に賭けるのは冒険ではなくまさにギャンブルだと思うのだ。それが必要な時もあると言えばあるけどさ。
「まずはクライドぐらいの歳の子がどんな仕事や冒険者の依頼を受けてるか調べよう」
「そうする! 兄ちゃん、付き合ってくれるか!?」
彼はそう言うが、そう簡単には頷けない。もちろん、味方するつもりなので何かしら手助けはするつもりなのだが、俺達みたいにチート的な力が無い限り、冒険者というものは命を賭けて日々を生き抜く職業だ。生き方と言ってもいい。そこに彼のような若い子が飛び込むのをもろ手を挙げて賛成、とは言いにくい部分がある。年は12歳ぐらいだから子ども扱いも反発を受ける気がする年頃だね。
「まずはご両親に話してからだな」
「ええー!? そんなの絶対反対するよ……」
落ち込むクライド。まあ、そうだろうなとは思う。もう少し歳を重ねて成長した後ならともかく、まだまだ早いと思うのはどの親も一緒だ。ただ……いつかは送り出す。そう感じて決断を下すのもまた、親だと思う。俺の場合は、大学に行くとなったら放り出されるようにして一人暮らしになったけど、それでも時折の電話や、大きな段ボールで送られてくるお菓子やら味噌だとかに親の愛を感じていた。
「上手くいったらその子の人生を背負うんだぞ? 人の人生を背負いたいというのに、自分自身の人生ぐらいつかみ取らなくてどうするんだ?」
「兄ちゃん……うんっ!」
実際のところ、この歳で愛だの一緒に暮らしたいだの言っても両親が納得するとは思えない。だけど彼の気持ちは見る限りは本物だ。そうなると攻め込むべきは……自立したいという点になるだろうね。
そのことをクライドに告げて、反対されることはわかってるが、経験を積みたいという形で押すことになった。
クライドの吉報を待ち望みながらジルちゃんたちの待つ部屋に戻る俺。次に見るクライドの顔が元気に満ちてるといいなと思いながら。
そして、次の日。俺はクライド、そしてジルちゃんたちと一緒に街の外にいた。表向きは薬草の採取と、宿での食事にも出せそうな食材の確保だ。あれから部屋に来たクライドの顔は、少なくとも落胆ではなかった。結果として、第一歩として宿の手伝いの幅を広げることになったのだ。そのためには冒険者に形だけでもなる必要がある、そんな仕事。
「あぶないとおもったら、ジルたちの方に逃げてね」
「でもみんなだってちっちゃいのに……」
その答えを半ば予想していた俺は無言でクライドの頭をわしわしと撫でまわす。ジルちゃん達より頭1つ大きく、撫でまわすのにちょうどいいから思わずといったところ。
さすがに嫌だったのかこちらを向いたクライドに笑いかけ、聖剣の代わりに腰に下げた鉄剣を鞘ごと差し出してみる。
「お、重っ。でも持てるぜ!」
「おお、毎日水運びをあれだけやってるおかげだね。だけど、それを振り回すって考えるとどうだい?」
俺に言われ、神妙な顔つきで鉄剣を手にしてあれこれ動かすクライド。だけど予想通り、すぐに鉄剣を降ろして片手を見つめている。既に、震えるその手を。
意外と武器は重いのだ。ただ運ぶだけじゃなく、その武器に命を賭ける、それが冒険者だ。
「ちょっと戦ってすぐ帰らないと何もできない……」
「ええ、そうね。最初はみんなそんなもんなのよ。私たちは見た目より……そう、鍛えてるわけ」
横合いから鉄剣を奪うようにして手にしたルビーが目の前でそれを振り回し、余裕でいるところをみてクライドは驚き、そして少しうつむいた。無理をしてはいけない、それがわかればと思ったが十分なようだ。
「さっそく今日の獲物を探すのです! この辺にお肉の美味しいのはいないです?」
「結構いるはずだよ。猟師がよくこっちに来てるから……」
思い出すようにつぶやくクライド。酒場やギルドで聞いた話をしっかりと自分の物にしようと頑張ってるみたいだ。そのことに心の中で笑みを浮かべながら事前にこの街で子供がどんな仕事をしているかというのを調べた結果を俺も思い出す。結果は……ある意味極端だった。
やはり鉱床のほうに出かけ、安全な場所で大人に混じって掘るタイプがほとんどだった。子供の力じゃたかが知れてるけれど、安定してるらしい。大人としても細かいのを拾える子供の手伝いがいるとそれなりに意味があるんだろうと感じた。そしてわずかな例外の中にあるのが外に出るという物だ。
と言っても街の子供を預かって冒険しようなんていう冒険者は貴重というか、まずいない。いても子供を囮にしてやろう、みたいな考えのゲスばかりだ。力及ばず、なんていえば親たちは何も言えないわけだからね。
その点では俺はみんなの小ささが有利に働いた。こんな小さな子達が一緒に旅が出来るなら大丈夫じゃないか、ってね。
「よし、今日の目標はクライドに戦いの経験を積んでもらうことと、危険とはどういうものかを知ってもらう!」
「が、頑張る」
既に緊張しているらしいクライド。その緊張は大事だけど緊張しすぎるのも問題だ。そこで俺はこの辺なら俺たちに敵はいないと宣言してみせた。それを証明するように、たまたま視界に入った立木を聖剣で一閃、切り裂いて見せる。
「すげえ!?」
「いざとなったら一度退避すればいい。よし、やろう」
困ったときには頼れる相手がいる。そのことはクライドから緊張をある程度持って行ったようで動きには自然な部分が戻ってくる。
「実際には結構ハードなんだけどねー、ほら、そっちいったよー!」
「うわあああ!?」
「目を閉じないで突き出すのです!」
街から離れて森に入るなり、俺達はいくつもの魔物未満の動物たちに出会う。半分ぐらいはこちらを見ると襲い掛かってくる始末だ。見た目は鶏、だけど大きさは土佐犬ほどなんていう奴もごろごろいる。わざと手負いにして、貴石術で縛り上げてるから暴れる割に危険はないのだけど目の前で生きてる相手が暴れるのを見ると驚くし、怖いだろうなあと思う。
クライドの手にはニーナの手製の鋭い槍。使い捨て同然らしいけど、軽めで鋭さは抜群だ。試しに立木に向かって突きを入れてもらったらちゃんと刺さった。クライドの力でこれなら十分じゃないだろうか?
(お、よし、刺したな!)
「ご主人様、結構すぱるた?」
「これで女の子ならもっと甘いわよね」
「あら、それはわかりませんわよ」
ようやくクライドが暴れる大鶏に一撃を入れたのを見て喜ぶ俺の耳に届くのは3人の何やら気になる評価だった。そんなに男女で違うかな? 確かに女の子は怪我が残ったらいけないから別メニューにするだろうけど……普通だよな?
そんなことを思いながら、薬草採取の合間合間に俺達はクライドに元気のいい動物たちを仕留めさせる訓練を施すのだった。
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