JD-212.「まずはプレゼントから」


「そっか、知り合いの子なのか……」


「うん。と言ってもさ、ちょっと話をするぐらいなんだけど……」


 案内された先は子供部屋らしく、小さな家具が並んでいる部屋だった。その中で立っているのもなんなので2人して床に座り、話をする。話の内容自体は甘酸っぱいというか、ある意味ありふれたものだった。

 相手の子に一目ぼれをしたけど先に進むきっかけがない、とまあこんなところだ。


「兄ちゃんから見てどうだった? 恋人とかいそうだった?」


「さすがに俺もそこまではわからないな……というかどの子? 何人か花籠売りの子はいたけど……」


 根本的なところを聞くと、相手の子の特徴を口にする少年。聞いた限りではちょうどこの前見た子の中にいるけれど……特に何かわかることでもないね。さすがに直接聞きに行くのも問題があるし、後は俺が1人でその店を利用するぐらいだけど……うーん。


「あまり役に立てそうにないね。ごめん」


「ううん、いいんだよ。無理を言ったのはこっちだしさ」


 少年もジルちゃんたちを見ているので、さすがにお客として行ってくれないかとは来なかった。どういう関係かまではわからないだろうけど、少なくともジルちゃんたちがいるのにそういうお店に行くのは問題があることはわかってくれたようだった。


「俺にはよくわからないけど、普通に正面から行ってみたらどうだろう? 昼間は中の掃除とかもしてるかもしれないけど、そのあたりも話して見ないとわからないんじゃないか?」


「そっかー、そうだよなー。でも手ぶらはまずいよね?」


(まあ、そりゃそうかもしれないけどいきなり花束とかは相手がどう思うかだよな……花籠売ってるわけだし)


 残念ながら俺にも普通の恋愛をして普通のおつきあいをした経験が無い。その意味ではジルちゃんたちが初なのだから……言っててちょっと悲しくなってきたな。そうだ、彼が大丈夫だというのならみんなに聞いてみるという手もあるな。


「ウチの女性陣に聞いてみる?」


「みんな同い年ぐらいだから恥ずかしいよ……っていうか兄ちゃん全員どうやって捕まえたんだよ……」


 確かに彼の言う通りであった。ラピスでもデビューにはまだ早いぐらいだし……見た目はみんな少女というか幼女に近いもんね。捕まえたとか人聞きの悪い。呼び出した……なんだかそれも微妙だな。さて……この街ならでは、という物があったりしないだろうか?


「じゃああれだ。この街は鉱石や宝石類が多いよね? 何か、高くないけど貰ったらうれしいみたいな奴ってないかな? こう、お守りになるみたいな」


「! あるよ! たまーに出てくる岩の花。ロックフラワーって言うんだけど、部屋に飾っておくと幸運を呼ぶっていうジンクスがあるんだ。理由はわからないけど、真っ白な岩の中にいろんな色の岩で出来た花が入ってるんだって。週に1個あるかどうかぐらいだけど……」


 確率的には相当なレアものだ……が、ゼロではないのならやりようはある。資源としては使い道が無いので、彼が言ったように飾るぐらいしか用の無い物なのでそこまで高くないらしい。俺たちにとっては都合がいいね。


「よし、任せてくれ。こういうのが得意な子がいるんだ。2つ以上取れたら1個君にあげるよ」


「ほんとか!? あ、いや。本当!? なんてお礼を言ったらいいのか……今日さ、背中流させてよ」


 実際には何かしてもらうほどでもないし、第一見つけるのはたぶん俺じゃなくて……ニーナなんだけど彼女は彼女でそういうお礼なんていらないのです、っていうだろうからな。俺の方からねぎらうことにしよう。


 さっそく明日から探してみると約束し、お腹をすかせているであろうジルちゃんたちの元へと向かう。

 いつかの鉱山のように、ちょっと掘ってみようかと伝えるとみんなして頷いてくれた。どんなのが掘れるか、楽しみなんだろうね。


 ちなみに岩食い鳥は全身砂肝みたいな歯ごたえだった。旨みが強いけどちょっと顎が疲れるね。地面の小石ごと餌を食べるから岩食い鳥って言われてるそうである。こういうネーミングはどこの世界でもあまり変わらないみたいだった。明日も朝早く出かけるだろうということで早めに就寝となる。




 翌日、まずは自分たちが掘るための権利などを確認するためにギルドに来ていた。そういう冒険者も数が多いようで、記名と一定料金を払い場所を決める仕組みだった。全部が自由という訳じゃないようだけど、こうやって掘っていい場所はたぶん、あんまりいいものは出ないんじゃないだろうかという予感があった。

 この後のことを考えて、出来るだけ人のいない場所を選んだ俺。ギルドの人が魔物が出やすいから気を付けるようにと助言をしてくれる。だから不人気なのか……好都合だけども。


「ご主人様、たのしみだね」


「土地ならではのものが出るといいですわね」


「そんなのあるのかしらね? ま、儲けになればいいでしょ」


 わいわいと歩く俺達はその分目立っているようだけど注目を集める以上のことは起きなかった。自己責任ってことになってるからかな? あるいは、他の人がいる場所で掘ると思われてるんだと思う。

 街から鉱床のある部分へと降り、他の人と同じようにどんどんと歩いていく。ほとんどの人が途中で掘り始めるのに対して、俺達は地図を片手に奥の方へ。遠い割に儲けが良いわけじゃないそうで不人気らしい場所が目的地だ。


「ふふふ……自分の出番なのです!」


「ニーナが掘ると色々出るからねー! たーのしみー!」


 そう、ニーナの持つ祝福はこういう時に大きな力を発揮する。掘りやすさもそうだけど、出てくるものがこう、なかなか面白いことになるのだ。ジルちゃんの持つ祝福も、通常の素材が得にくくなる代わりに石英とかは取りやすくなるという物だけどそれと系統は同じなんだと思う。

 今のところ、ニーナの祝福のデメリットはわからないんだけど……なんだろうね?


「あら、多分すぐにわかるわよ。きっと……」


 たまたま隣に立っていたルビーに聞いてみると、そんな答えが返って来た。すぐにわかる?という疑問を抱えた俺だったけど確かに答えはすぐにわかった。それは……エンカウント率の上昇だった。


「ニーナとラピス、ジルちゃんはそのまま掘ってて! ルビー、フローラ、行くよ!」


 ミミズの魔物であるラズだけでなく、小さなゴーレムのような相手、どこに隠れていたのか茶色いゴブリンと大群ではないけれど気が付くと近くに相手がいた。その都度手を止めるのも問題なので、迎撃と採掘に別れることにした。前はそんなにモンスターが出るような場所じゃなかったからデメリットは効果を発揮しにくかったみたいだ。


 まるで拠点防衛のゲームでもしているかのようにモンスターを迎撃し続ける俺達。その間も順調に掘っているようで時々報告の声があがる。と、その時だ。


「なんだか変なのがあったよ。お花?」


「あ、確かそれ欲しいっていう依頼があったはず」


 白々しいかなとは思いつつもそう誤魔化してジルちゃんの持ってきた板のような岩の塊、真っ白な岩の中にロックフラワーが咲いていた。幸運を呼ぶらしいからもう1個見つけようと言ってみると目をキラキラさせて掘りにジルちゃんは戻っていった。


「ちゃんと後で説明しなさいよ?」


「ははっ、そうするよ」


 ルビーにはなんとなく依頼主になる相手がわかったらしく、そんなことを言われた。苦笑を返しながら、新たに出現したモンスターの気配に構えなおし、迎撃に移る。ゴブリンの数が50を超えたころ、いい時間になったので今日の採掘は終えることにした。都合、ロックフラワーは3つ手に入れた。さすがのニーナであった。忙しかったけどね……。



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