JD-211.「穴掘りのススメ」


「多くの冒険者が採掘と護衛、日々の魔物退治……か」


「想定通りと言えば想定通りですけれど……なんというか、すさまじいですわね」


「いっぱい……いる」


 ラピスと夜のドキドキデート(?)をこなした翌日、俺達はみんなして露天掘りをしている部分の見学に来ていた。正確には一応ギルドに顔を出したわけだけど……冒険者向けのギルドと、鉱夫向けの物は同じ建物にあった。ほとんどの依頼がこの鉱山に集中しているわけだから仕方ないのかもね。


 内陸部の国、トスネスの街の1つランドリア。大地のへそと思うほどに深い深い穴の斜面が鉱床となっているようでそこを掘る人が集まり、自然と街となった場所だ。風車によるくみ上げで水を確保しているようだけど……掘る横に水源があるってすごい怖いと思うんだよな……。


「そのあたりはこちら側では掘らないということで回避してるみたいなのです」


「本当ね。みんなあっちのほうに行くわ……」


 懸念を口にしてみたところ、そう指摘される。確かに街から降りてすぐを掘るのではなく、左右にそれぞれ進んだ先が主な採掘場所らしい。相変わらず、本当に相変わらずこの世界の鉱床、鉱山は謎が深い。何がというと、掘れる物があり得ないからだ。俺が知っている限りでも、普通は決まった種類、例えば鉄鉱石だとかが決まった物だけが主に掘れるはず。だというのに……。


「鉱石類に宝石まで掘れるなんて、すごいよねー」


「一番の問題は復活してくることだよね」


 実際、回復する資源、なんていうものは経済をぶち壊してしまいそうに思えるけどそうはなっていないらしい。詳しいことはわからないが、この世界の鉄製品とかは最終的に消える・・・

 急に消えるという訳じゃないみたいだけど、建物なんかも最終的にはぼろぼろになるので建て替える必要があるそうだ。

 例外はあるにはあるが、なかなか現実的じゃないらしい。かつての人間、つまりは土偶やセバスたちのいた街や塔なんかはその例外だ。要はマナを供給し続ける必要があるそうだった。


 装飾品とした宝石類もその例外に含まれるらしいけど……保管し続けたお宝が崩れていた、という話も聞いたからきっとそっちも身に着けてマナを通していく必要があるんだと思う。


「だからこそ毎日掘られ、毎日あちこちに運ばれているわけですのね。景気が良いわけですわ」


「まったくだわ。需要も供給も尽きることがないなんて……歪にも思えるわね」


 俺たちがそんな中、ギルドで受けた依頼は届け物。決まった場所に掘るための道具を届けるという物だった。予備の道具らしいけど、持っていくのを忘れたんだそうだ。


「黄色い帽子……とうちゃく?」


「うんうん。あの人たちみたいだね」


 目的の相手を見つけた俺達はそのまま問題なく道具を手渡し、依頼は完了となる。その後、特に用も無く掘っている状況を観察することにした。斜面に対して、人が歩けるような場所を掘って作り、そこを足場としてさらに斜面に向けて掘り進め……最後には壁にのようにしてさらに掘り進む。そういったサイクルのようだ。


 掘っている人の中には子供もいる。昔聞いたような、奴隷のような扱いではなく、真剣な表情だし周囲の大人とも悪い関係ではなさそうに見えた。環境は特殊だけど、平和な鉱山……に表向きは見える。


「マスター、感じますわ」


「自分もなのです。何か所か……深いところになのです」


 ラピスとニーナ、2人はこの場所に貴石の反応を感じているようだった。俺のコレクション……と考えるには難しい。こちらの世界の物かな?

 こうなってくると、どんな石が眠っていても不思議ではないと思う。運び出されていく岩石たち、その中にそのまま売れそうな結晶と化している石英を見て取った俺はそう思うのだった。


「あら? こうして比べると街中の……あの建物にも似たものが……」


「水を作ってる建物に? そういう仕組みなのかな?」


「ラズが出たぞー!」


 話を遮る唐突な叫び声。思わずそちらを向いた俺の目に飛び込んできたのは、大きなミミズ。ただし、地上に飛び出している。ぱっと見で人の胴体ほどはありそうな太さで長さもトラック程はある。状況からして、地面を掘り進んでくるようなモンスターだと思うわけだが……退避した人たちがさっきまでいた場所に落ちるようにしていったミミズ、ラズの頭が徐にこちらを向いた。


「? こっちを見た? っとお!?」


 見た目はミミズだが動きは蛇に近かった。地上を素早く動く蛇のように体を揺らし、一気に目の前にまで迫って来た相手を抜き放った聖剣で思わず切り払った。中には鉱石が詰まっているのか、妙な手ごたえと共になんとか両断できたが、頭には中身だったであろう鉱石類がぶつかることになる。


「イテテテ……」


「だいじょうぶ? いたいのいたいのとんでけー」


 怪我はないが、思わず頭を抱えて膝をつく俺を撫でるジルちゃん。なんというかそれだけで癒されるよね。

 しばらく暴れていらラズも力尽き、その胴体からは消化途中であろう岩石が見えている。もしかして、これはそのまま持ち帰るやつなんだろうか?


「よう、兄ちゃん。やるじゃねえか。見ねえ顔だが……初めてか?」


「ええ、届け物ついでに見学だけしてたんですよ。これ、儲けになるもんです?」


 人のよさそうなおじさんが話しかけてきたのでついでに聞いてみた。嘘を言ってくるようならそれはそれで、ちゃんと教えてくれるのならありがたい。

 おじさんはすぐには答えずに、ラズの体からはみ出た岩石たちを覗き込み、何かを確認している。


「んー、全く無駄ってわけじゃなさそうだがそんなにいいもんはないな。なんなら俺や掘ってる連中にそのままここで売りつけたほうが手間が無いかもしれん。どうする?」


「相場もよくわからないんで、じゃあお願いしますよ」


 モンスターとその産物は水物に近いのか、こういったことは結構頻繁にあるらしい。誰が倒したというのでももめる元だろうしね。今泊まっている宿に数泊出来そうな金額を提示され、頷いておく。

 実際の価値はわからないけれど、他の人も見てたからね、そうぼったくられたことはないと思いたい。


 おじさんと別れた俺達は街へ戻るべく歩き出す。途中、行きの時にはなかった屋台のような物が並んでるのを見つけた。

 街まで戻らずとも食事や休息をとれるようにという考えだろうか? 商売の種はどこにでも転がってるわけだ……人間はたくましいね。


「ラピスやトール様がお水を出していけば大儲けです?」


「どうでしょう……いろいろ言われそうですわね」


 そんなことを話しながらの帰り道。ミミズのモンスターであるラズには4度ほど遭遇した。どれも冒険者兼鉱夫のような人たちによって仕留められていたから日常の一部なんだと思う。





「おかえりっ」


「ただいま。今日も偉いね」


 宿に戻った俺たちを迎えたのは、ちょうど木桶で水を運んで来たらしい少年だった。聞いた話によると、井戸の水と比べて供給される水は味気ないんだとか。よくわからないけれど、多分……本当に水、なんだろうね。余分な物が入ってないんだ。


「今日の飯は岩食い鳥だぜ! 歯ごたえがあって美味いんだ!」


「お、楽しみにしてるよ」


 聞いたことの無い鳥だけど、わざわざ言ってくるということは名物のようなものに違いない。

 一見すると水気の無い土地だけど、畑も街の外に広がっているし家畜も色々と目にした。下手をしなくても日本の田舎町よりは発達している……そんな場所だった。


「あー、兄ちゃん。あのさ」


「ん?」


 部屋に戻ろうとした俺を呼び止めた少年の顔には赤さがある。ピンと来た俺はジルちゃんたちには先に部屋に行ってもらった。なんとなく、みんながいると話しにくいのかなと思ったのだ。


「ありがと……えっとさ、兄ちゃん花街に行くだろ?」


「花街? ああ、あの夜の騒がしいところか? 一応行くというか行けるというか……」


 まさかまだ幼さの残る姿なのにそういうお店に行きたいということだろうか? だとするとさすがに止めるべきだが……どうも違う気がする。


「花籠を売ってる子がいるだろ? そのさ……話せないかなって」


 異世界恋愛事情は、ここでも若干ややこしそうであった。

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