JD-190.「愛があれば歳の差だって」


「よく知らないんだけど、リブスの子達はどのぐらいで結婚……えーっと、番になるのかな?」


『特に決まりは無いの。そろそろかなってときに大体男の子が襲われるの』


(襲われっ!? あ……あー、そういうことか!?)


 衝撃の発言に固まる俺だけど、言われてみれば納得だ。オルト本人も言っていたように、リブスの種族内において男女比率は正直、異常なぐらいだ。均等に行っても男1人あたりに女4人、という計算になる。そうなれば……その女性側の中での争いというのはなかなか厳しい物になるんじゃあないだろうか?


「リュミちゃんはいちばんが、いいんだ?」


「ま、普通はそうかしらね。ウチはちょっと違うけど……ねえ、トール」


 そこで俺に振られても返事に困るけれど、下手にそれを口にするわけにもいかない。曖昧に頷くのみだ。

 ただ、リュミちゃんの願いはすごく簡単に叶いそうな気がしないでもない。ただ、ここでオルトの気持ちを彼女に伝えるのは恐らく間違いだ。それに、リュミちゃんとしても雰囲気のある形で気持ちを知りたいところはたぶんあると思う。


「んー、デートとかはしないの? ボクたちは色々出かけてるけど」


「2人きりでお出かけ……素敵なのです」


 ある種常識的な提案をする2人に、リュミちゃんは首を器用に横に振った。オルトもそうだけど、みんな器用に動くな……慣れとは違う、それが当たり前だからかな?

 ともあれ、否定をしてくるということは何か問題があるようだった。


『おじちゃん、優しいから……いつもみんな一緒か、1人なの。確かにおじちゃんとは親子ぐらい歳が離れてるけど……』


「なるほど。リュミちゃんだけ贔屓してはいけないと……素敵ではありますが、もどかしくはありますわね」


 オルトの考えが俺には手に取るようにわかる。気になる子だからこそ、他の子とあまり区別して差をつけてはいけない、そう考えてるんだ。たった1人の大人として仲間とはぐれて自分自身だって心細いだろうに、年長者が自分しかいないからと必死に頑張る……なんてこった、応援しない理由がない。


「何かの拍子に他の大人が合流してこないとも限らないものね。今の内に決めておくのが……よさそうね」


「うん。他の子を連れ出すのは俺たちでも出来なくはない……なんとか2人きりの状況を作り出そう」


『ありがとうございます!』


 輝くような笑顔になって、両ヒレを万歳とばかりに伸ばすリュミちゃんを見てるとこちらまで笑顔になる。そうして2人をくっつけよう作戦が始まる。




 ……のだが、問題はいくつかあった。一番の問題は、本人がとにかくみんなのためには真面目オブ真面目ということだった。1人1人、体調を確認したり、悩みが無いかと雑談をしに行ったりととにかくあちこちに動いている。あの日、街の片隅で出会ったのは本当に偶然だったらしい。獲物を捕りに下っていたところで俺達の気配を感じ、自分たちに害をなすような相手じゃないかを確認するために来たらしいのだ。


(そのくせ逃げる時に気絶するようじゃ危なくて仕方がないな)


 どうやら戦闘系の貴石術は苦手らしく、もっぱら補助や生活に使う物ばかりだそうだ。ただ、その技術はすごい物で、俺からすると戦いに使ってないだけで十分行けるような気がした。まあ、強く戦いを勧めてもろくなことにはならないので、あくまでもいざという時はためらうなよ、なんて助言に留まる。


 そうなると目的を達成するためにはどうするか……色々と考えたが、最終的には一人でリュミちゃんが出かけてしまったことに後から気が付いた、俺たちがここにいるから探しに行くんだ、なんていう三文芝居をすることになってしまう。


『なんですって!? そんな、彼女がどうして……』


「そんなに遠くには行ってないと思うけど、俺たちじゃ土地勘がないからさ……」


 だましているわけなので心が痛いけど、これも2人のため……そう言い聞かせて真剣に心配するオルトを送り出し、俺達は残ったリブスの子達と帰りを待つことになる。どうやって説明した物か、と考え込む俺の前にやってきたのは、落ち着いた様子のリブスの子達だった。


『ねえねえ、オルトおじちゃん告白できるかな』


「え?」


 既に何事も起きていないかのように落ち着いた様子で過ごし始めているリブスの子達。声をかけてきた1人も、興味で一杯、といった顔をしている。あれ……これって。


「もしかしてアンタたち……」


「2人のこと、わかってる感じです?」


 その言葉に練習したかのように一斉に頷くリブスの子供達。なんてこった……空回りしすぎだ、オルトよ。話を聞いていくと、2人の視線や態度からはバレバレだけどこっちからはなかなか言い出しにくかったとのこと。オルトは真面目にみんなを1人にさせないようにするし、差をつけちゃいけないとみんなを平等に面倒見ようとするからね。それが嬉しいということもあったみたいだった。


『だけどー、ちょっとかわいそうになって来たんだよね』


『そーそー、オルトおじさんカッコいいし? だけど一番はリュミが相応しいって言うか?』


 だんだんと会話に参加する子が増えて来た。なんだか喋りがギャルっぽいというか、なんというか……。その横で既にグループというか番になることが決まってるのか、見覚えのある男の子たちとその周囲には数人のリブスの女の子。なるほど……はっきりしてほしい状態になったわけだ。


「でしたらこれで解決ですわね」


「2人きりのあいの語らい……女の子のあこがれ。ご主人様、ジルたちも……」


 ほっとした様子のラピス、そして何やらもじもじとしだしたジルちゃん。だけど俺、そしてフローラは真剣な顔をしてリュミちゃんとオルトが出ていった方角を睨んでいた。少し遅れてみんなもそれに気が付いたようで振り向く。わずかに、悲鳴が聞こえた気がした。


「ここは俺とフローラで行くね。みんなはここを守って」


「わかりました。ご武運を」


 急に変わった雰囲気に驚くリブスの子達の視線を感じながら、俺はフローラと一緒に先ほどの悲鳴らしき声が聞こえた方向へと駆けだした。何があったにせよ、機動力のあるフローラと一緒なら逃げやすいという判断だった。


 車に乗っているかのような速度で駆け抜け、近づいてきた2人の気配。そのそばには……少し前に見かけた棒のような足。だいぶ小さいけれど間違いない、コタイルだ!

 恐らく、オルトがリュミちゃんをかばったんだろう。足元に絡みついてくる触手めいた物から必死に逃げようとするオルトだが相手の力も相当な物、なかなか抜け出せないらしい。


『君だけでも逃げるんだ!』


『駄目、おじちゃん!……オルト!』


 なんとなく、計算したわけでもないのにちょうどその時、俺たちは現場に間に合った。リュミちゃんはフローラに任せ、俺はオルトの元へと駆け寄ってジルちゃん譲りの刃でコタイルであろう腕を断ち切った。


『え?』


「話は後、下がるぞ!」


 大きなオルトの体をなんとか抱え、コタイルの腕が届かない距離まで一息に飛んで下がる。相手は自ら出てくるつもりがないのか、やがて水面に出ていた腕も沈んでいった。


(ちょっと危なかったな……あれも退治しないと……)


『兄さん、どうして……』


「まずは謝らないと……ごめんな、オルト。まさかこんなことになるとは思わなかったけれど、リュミちゃんが集落を出たのは俺たちのせいでもあるんだ……」


 危険な目にあってしまった以上、隠し事は良くない、そう思って俺はオルトに話をすることにした。これがどう転がるか、不安に思いながら。

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