JD-184.「似ているけれど違う何か」


「な、なるほど……皆若いのに随分と腕のいい術士なんだな」


「そうなんですよ。しばらくしたら出ていきますけど、まずかったですか?」


 恒例行事として、叫んだ兵士の前で貴石術を実演して見せると納得の表情になった兵士はようやく落ち着いたようだった。質問にも問題ない、と頷きを返してくる。思ったより正直というか、やっぱり侵略という感じじゃあないのかな?


「それよりもだ。その腕、復興に活かさないか?」


(あー、やっぱりこう来るか……まあそうだよね)


「でも、これ長くは持たないんですよ。ほら」


 俺が近くの壁、ニーナが生み出した部分に手をやるとスポンジをへこませるようにぼこっとへこんだ。ニーナがタイミングよくその部分の岩の強度を弱めたのだ。兵士の後ろでニーナが微笑む。


「そうなのか……それでは一時しのぎにはなっても復興には使えんか……まあ、安心していい。もうすぐ解決する手段がやってくるはずだからな」


 妙に自信満々の兵士。強い増援かな? それとも……。


「ああ、そうだ。街を出るなら、赤いドラゴンには気を付けろよ」


「まさか。ドラゴンがいるの!?」


 唐突な爆弾発言に俺たちが驚き、ルビーが思わず叫ぶ。みんなの中でまだメインとなる貴石が1つで、貴石ステージが頭打ちになってしまっているルビーにとってその上限を解除するもう1つの貴石の確保は必須と言っていい。そりゃ必死にもなるよね。


「でもそんなドラゴンが襲ってきてるようには見えませんけど……」


「うむ。何かを探してるように森を飛んでいるのをみかけた兵士がいるぐらいだ。何年も前にな……ただ……それがいつこちらに来るとも限らないからな。警戒は怠っていない」


 聞きながら、俺も含めてみんなが思っていることがある。仮にドラゴンを発見し、街に来ることがわかってもどうしようもないんじゃないだろうか?ということだった。確かにこの街跡にいる兵士達はそこそこ人数がいるし、戦える兵士だとは思うけど俺たちが出会ったようなドラゴンと同等以上ということであれば街ごと吹き飛ばされてもおかしくない。


「がおーってすごいよ? 勝てる?」


「はっはっは。正直なお嬢ちゃんだな。ドラゴンを見たことがあるのか? まあいい……その時は残念ながら……逃げるさ」


 兵士がそれでいいのか?と思わないでもないけど、不要の被害を出さないというのも大事なんだろうなと思う。生きてさえいれば、また取り戻せるからなと言って兵士は立ち去って行った。

 後に残された俺達は何とも言えない雰囲気となっていた。


「赤いドラゴン……か。当たりか外れかはわからないけど、見つける価値はあるかな?」


「そうね……でも出来ることなら不意を突いて誰かのエンゲージから一撃で仕留めるべきよ。緑のに逃げられたときもそうだったじゃない。あいつらは思ったよりしぶといところがあるわ」


「ボク、気になるんだけど……ドラゴンって子供とか産むのかな? 大きいのしか見たことないよ?」


 対ドラゴン戦について話し始めたところに放り込まれたフローラの疑問。言われてみれば確かに……肉体があるからにはたぶんオスメスがあると思うんだけど……確かめたことはないね。生態系を維持できるだけの数でドラゴンが世界にいるなら、もっとあちこちで目撃されるか、ドラゴンの住む地域、みたいなのが有名な気がする。たまたま俺たちが知らないだけでどこかにドラゴンがまとまってるのかな?


「案外、貴石の力が高まると産まれるのかもしれませんわね。石英の代わりにその貴石がコアになってるという可能性もありますわ」


「どんな相手でも防ぎきって見せるのです!」


「がんばる……よ!」


 みんながそれぞれに気合を入れ、ポーズをとる姿に俺もなんだか嬉しくなってしまう。6人で頑張ればほとんどの事態は乗り越えられるだろう、そう確信した。

 石英を集めに、外に出ようとみんなでぞろぞろと通りに出た時のことだ。気配とも違う、何かを感じた気がした。


「なんだろう……」


「あれ……このあたりのマナが動いてるのです……南側なのです」


 地面を確かめていたニーナのつぶやきにはっとなり、俺は土偶ゴーレムにもらった計測器を取り出す。すると……見事に南側に大きなマナの動きが感じられた。まるでそっちにマナを吸い込む穴が開いているかのようだった。


「何か起きているか、何かがいるみたいだ。行こう」


 気が付けば街中もどこか騒がしくなっている。兵士達も異変に気が付いたようだった。それぞれに武器を手にし、俺達は通りを駆け抜け……南側の門があったであろう場所にたどり着く。

 そこで出会ったのは、いつか見た……空に浮かぶ魔法陣。だいぶ遠くに見えるけど間違いない。


「こんな場所で!? トール!」


「わかってる! みんな、行くよ!」


 手早く聖剣を短い2本にしてたまたま隣にいたフローラとニーナを見ると、2人とも真剣な表情で自らの服をたくし上げ、綺麗なお腹と魔法陣をさらけ出していた。パンツも丸見えだけどドキドキしてる余裕はちょっとなかった。


「はふ……もう、ゆっくりやりたいのになー」


「平和な時にたっぷりしてもらうのです!」


 体は大きくなっても口調は小さいままなのでギャップが激しいんだよね……そこがいいって言えばいいんだけど。ちょっとだけそんなことを重いながら他の3人も同じように貴石解放を行う。ルビーも2つ目の貴石を取り込めたら時にはみんな大きいままで過ごしてもいいかもしれないね。


 兵士達に見つからないよう、迂回して現場に向かうと……すでに戦いは始まっていた。

 前に見たものとはどこか違うけれど、体のどこかが透明な水晶の結晶で出来た獣たち。

 周囲には狼を大きくしたようなモンスターであろう存在もいる。


「トール様! あれを見てくださいなのです!」


「あれは……まさか!?」


 かなりの人数の兵士が集まっている場所に、コンテナのような大きさの何かが乗った馬車があった。周囲にいるのはトスネス本国からの増援の兵士なんだろうか? 街のほうから走っていく兵士達とは別の集団がその馬車の周囲で戦いを繰り広げている。相手の数がまだ多くないためか、今のところは戦況は問題ないように見えた。あの箱の中にあるのは……恐らくは街を覆うための結界装置。


「そりゃあ、街を復興させるなら用意するわよねえ……それにしても随分人数が多いわね。あっちの国の人間はこの事を知ってるんじゃないの?」


「あるいは、スーテッジでも一部には知られてるのかもしれませんわね」


 2人の言うように、ただ運んできたにしては兵士の数が随分と多いように感じた。まるで……そう、まるでこうなることが最初からわかってたみたいだった。

 ともあれ、今は現状をなんとかしないという選択肢は俺たちにはない。


「ひとまず外側から支援しよう。今のところ、貴石を持ってるやつはいないみたいだしね」


「りょーかいだよ! 東から回りこもー」


 フローラの意見に頷き、モンスターたちの側面から俺達は襲い掛かることにした。力を籠め、貴石術による矢を打ち出すと面白いように突き刺さり、相手もこちらに気が付いたようで別のモンスターが襲い掛かってくる。

 地球で言う狐のような姿をしている相手の大きさは牛ほどもある。まるでアニメや漫画のような相手だけど、実際に殺気を向けられたんじゃ躊躇してる暇もない。


「ここは通させないのです!」


 ニーナの足元から伸びる茶色と闇色の光。茶色はそのまま岩壁となり、闇色は狐の目元や足元に絡みつくようにして伸び、その動きを邪魔してるようだった。

 周囲に木々がなく、動きやすい場所に陣取った俺達はそのままやってくる相手を迎撃し続ける。その間、聖剣で石英のありそうな場所を貫くと石英を吸収する手ごたえが残った。見た目は違うけど、前に戦った相手とよく似ている……けど強さはあそこまでじゃないみたいだ。むしろ、弱い。


「マスター、魔法陣が消えていきますわ」


「ほんとだ……終わりなのかな?」


 しばらく戦っていると、いつしか周囲には水晶獣がいた痕跡はその暴れた跡だけとなり、周囲に静寂が戻ったのだった。

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