JD-173.「騒動は行く先にある」
予定通りと言えば予定通り、それでもタイミングは妙に早かった。何がと言えば、王様からの呼び出し、表向きは招待だけど実質呼び出しだよね、うん。王様なんて関係ないねって生活をしていくならなかったことにしてもいいのだけど、今の俺たちは自分だけじゃなく、ナルちゃんら子供達とも関係している。ここで俺達がスルーしたりしたらあっという間に彼女たちに何かしらの手が伸びるに違いない。
「俺、一張羅とかないですけど……」
「ああ、うん。それも言われてるよ。汚れたままとかは困るけど、自分たちの衣服でいいそうだよ。後、いるならばパートナーを一人連れてきてもいいと言われてる」
パートナー……か。あれだな、ダンスとかあるかもしれない。それ以外にも色々と予想されるけど、多分1人で行くと見知らぬ女性を薦められるね。そういう時は花は花でも毒の花だったりするわけだ。
みんなの中でこういうのに気が利きそうなのは……ラピスかルビーかな?
それに貴石解放で大きくなってもらえば完璧だ。さて、どちらかにお願いしよう。
「ちょっと待ってくださいね。事情を話してくるので」
「問題ないよ。女性の身支度に時間がかかるぐらいは王様もわかってるさ」
アレンさんには外で待ってもらい、俺はその足でみんなのいる場所へと向かう。まだ騒いでる声がするし、みんないると思う……ほら、いた。ちょうどよくルビーと目があったので手招きし、廊下側に来てもらう。
ちょっと不満そうだったルビーだけど、俺が真面目な顔をしていることに気が付いたんだろう、振り返るとラピスに一声かけていた。
「ラピスには何を?」
「別に大したことじゃないわ。私が行く、そう言っておいたのよ。どうせ何かの呼び出しがあったんでしょう?」
さすがの2人である。もしかしなくてもこういった状況をラピスとルビーは予想していたんだろう。
手早く事情を話すと、ため息交じりに下を向いて息を吐くルビー。予想はしていても本当にそうなるとまた気持ちは別みたいだね。
「そういうことね。おっけー、アンタが言いくるめられないように横で見張ってればいいんでしょ?」
「うっ、そ、そうなるのかな……後、そのままだとさすがにアレだから大きくなってから行こうかなと思う。戦闘が無ければ10時間ぐらいは余裕でしょ?」
みんなと比べ、まだ貴石が1つのルビーは貴石ステージが頭打ちだ。それでも戦闘無しで過ごすには十分な制限時間のはずであった。ルビーもそれに頷き、きょろきょろと周囲を見ながら俺をとある部屋に引っ張り込んだ。
「前に外に出た時に、私たちが変身……貴石解放をそういったんだけど、ともあれ大きくなれるって聞いてから事ある度に変身して変身してっていうから……隠れてしたいのよ」
「そっか。じゃあちゃちゃっとやろうか」
ガラスなんてはまっていない窓から差し込む月明かり。現代人だった俺にとってはまだまだ夜になったばかりだけど、蛍光灯とかの無いこの世界じゃ夜の宴も既に始まるところだろうね。
出来るだけ早い方が印象は良いと思う……たぶん。
部屋に積み上げられた木箱にルビーを座らせて、俺は自分の目の前にある彼女のお腹に目をやる。
低いベッドとかで見るのもどきどきするけど、こうして立ったままというのもまた不思議な感覚だ。
ましてや相手が恥ずかしそうに自分の服をたくしあげるとなればそれに拍車がかかっている。
「今日もきれいだよ」
「馬鹿っ、今言うことじゃないでしょっ」
やる度に何かで褒めてほしいと言ったのはルビー自身なのだけど、さすがに今は例外らしい。そのままだと叩かれそうな気がしたので、左手でそっとルビーのお腹に手をやり、魔法陣を浮き上がらせる。
赤い光を帯びたそれが薄闇の中に光り、呼吸に合わせてか脈動しているかのように瞬く。
「行くよ」
「さっさとしな……んんっ」
2人きりの空間に、甘い声が響く。同時に短くした聖剣の先にわずかな手ごたえ。硬くなりかけた水あめに割り箸をつっこんでいくような感覚が伝わってくる中、俺は近づいた顔にかかるルビーの吐息を感じていた。
冷たくなった手を暖めるかのような吐息、その声に意識を持って行かれそうになりながらも本来の目的を果たすべく聖剣を押し込み、いつもの手ごたえと共にひねる。
「はぅっ! はー……なんていうか、慣れたいけど慣れたら終わりな気がするわ」
「同感だよ」
わずかな光を全身にまとい、ルビーは大きく成長していた。お尻を越えて伸びる赤い髪。胸元は普通より低いぐらい。その変わりにか、腰は抱きしめたら折れてしまいそうなほどに細く、くびれがある。お尻は小振りながらもきゅっと引き締まった感じ。女の子が人形遊びに使う奴を人間らしい肉付きに近づけた感じと言えば近いだろうか。
服装も今日はどこで見たのか、ドレスに近い余所行きといった様相。マナを使っていくらでも着替えが出来る宝石娘ならではといったところかな。俺はエスコートするように手を差し出して、彼女を立ち上がらせる。
胸元まで来たルビーの頭からは何かいい香りがした。香水……とはちょっと違うかな。
「じゃ、いきま……しょ」
「ん? おおう」
言葉の途切れたルビーの向いている方向を見ると、いつの間にか扉の隙間から覗く目、目、目。
一瞬ホラーかと思ったけど、よく見るとナルちゃんら少女たちだった。男の子はいないな……。
「あんたたち、見てたの?」
「ルビーお姉さん、大人です……すごい」
呆れた様子のルビーの声。そんなことを言う姿もナルちゃんやみんなにとっては大人の女性、なんて仕草にしか見えないらしい。
実際、すごく様になってるからね。彼女たちの後ろではラピスが申し訳なさそうな顔をしている。たぶん止めきれなかったんだろうね。
「ルビー、後で見せて見せて言われるよりはよかったんじゃない?」
「そう……しておこうかしら。ちょっと行ってくるわね。良い子で留守番してるのよ?」
子供たちは元気よく返事をし、俺たちはそれに満足そうにうなずいてアレンさんの待つ玄関へと向かう。
予行演習でもするかのようにルビーの腕が俺の腕に絡む。こんな姿で歩いたことが無いので早くも緊張するけど歩きにくいということはない。
「平和に見えるからって何もないとは限らないわ。案外、大都会のど真ん中に貴石獣が潜んでるかもしれない。
出来るだけ聖剣はそばに置いておいた方が良いと思うの」
「さすがに謁見の時には預けるんじゃないかな……」
そんなことを言いながらたどり着いた玄関。外で待っていたアレンさんはルビーを見て驚いた様子だけど、すぐに気を取り直すあたり良い性格というか、深く考えないのが正解だとわかってるみたいだった。
「ははは。なんと美しいお嬢さんだ。でもその瞳、見覚えがある。終わったら紹介してくれるかい?」
「ええ、もちろん。じゃあ行きましょうか」
そうして俺達は、剣を使わず、ペンも使わない戦いになるかもしれない場所に乗り込む。
だと思ったのだが。
「これは一体どうしてだろう?」
「さあ? アンタが危機感が足りないとか煽ったからじゃないの?」
つぶやきに返ってくるのは呆れかえったルビーの声。貴石解放の制限時間が短くなるから、彼女に戦ってもらう訳にもいかない。元より俺が何かあればそうする予定だったしね。
だけど……ある意味では予想外だった。わざわざ、そうわざわざ……。
「私達だけでは前線は勝てない、そう言い切った実力を見せてもらう!」
王様公認で、例の部隊長との模擬戦が宴の最中、始まってしまったのだった。
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