JD-161.「内憂外患」
俺が初めてこの世界で訪れた街、トスタ。スーテッジ国の領土内にあるその街は多少数が多いものの、ゴブリンや野犬といった比較的弱いモンスターや獣ばかりがいる場所だった。
久しぶりにやってきたそこは謎の大増殖によるゴブリンやオークに悩まされており、ついには軍までやってくる状況へ。
大きな犠牲を払いながらも討伐が終わったという森へ様子を見に来た俺達は、そこに軍が倒したのとは別の原因であろう巨大ガエルと遭遇、周囲に現れた他の魔物達と一緒に巨大ガエルを討つのだった。
「これだけの数、どうやって暮らしてるんだ?」
「さあねえ……共食いでもしてるのかしら?」
若干ルビーの返事が投げやりなのも仕方ない事かなと思う。巨大ガエルとの戦いの後、順々に大人なモードからマナ切れで戻ってくるジルちゃんたちに俺はすぐにマナを補給。小さい少女のままではあるがゴブリンたちとの戦いを続行したのだ。
最初に撤退した時よりも数は少なく、なんとかなりそうだったからなんだけどね。
「自分、一年分……んー、何年か分まとめて倒したような気がするのです」
「確かに、普通はこんなに集中して倒しませんものね」
石英を取り出したりする暇もあまりなく、倒したままとなっているゴブリン、そして後半混ざって来たオーク。
慣れたものとはいえ、死体があちこちに転がっているというのは気持ちのいいものではない。
それは皆も同じようで、どうしたものか、と困り顔だ。
溶けるのを待たずに燃やすか埋めるか……そう思った時だ。
「? ご主人様、変なのがいる」
「とーる、溶けてるのがいるよ」
2人に言われ、そちらを向くと……そのまま死体が残っているゴブリンたちの中に、まるで塩の塊のような色になって崩れて溶けていくゴブリンがいくらかいた。
全体の……3分の1ぐらいかな? それぐらいのゴブリンが今までに見たことがない消え方をしている。
まるで変装を解いたときのような不思議な感覚だ。
「私の見間違いかなと思いまして放っておいたんですが……今回、直接地面から湧いたのがいませんでしたか?」
「あ! いたいた! 巨大ガエルから何か地面に落ちたなーって思ったらそこからにょきって出てきたよ!」
言われてみれば、巨大ガエルから体液のような物が飛び散った時とか、そういった時にいつの間にかいたよな……モンスターを生み出す力? まさか……いや、でもそう考えると背中に背負っていた大量の何かやその気配も説明がつく……のかな?
「ひとまず遺品がないか探そうか。ルビー、ゴブリンやオークは燃やしてくれないか」
「ええ、放っておくのもね。ニーナ、穴をお願い」
「はいなのです」
本来この森にいたゴブリンやオークは逃げ出したか、一時的に倒しきったのか。周囲は静けさを取り戻している。
森の中にぽっかりと開いてしまった広間のような場所で、しばらくはお肉が食べられないと嘆くジルちゃんの言葉通り、日が傾くまで炎が揺れ、森の再生に役立ちそうな諸々が地面に埋められることとなった。
「結局槍が3本、兜らしきものが2つ……か。名前がわかんないなあ」
「ひとまずギルドに報告しましょう。大きさは別として、同じようなのがいたという報告はしておいた方が良いと思いますの」
回収を終え、森を抜けて街道に出た俺たち。襲われる心配がなくなったことにほっとしていた。
そうして改めて確認するのは巨大カエルの中から見つかった遺品になるであろう物たち。ただ、記名されている私物や個人が特定できそうなものは何もなかった。持ち歩いていなかったのか、既に消化されてしまったのか。微妙なところではあるけれど、何もないよりはましだと思いたい。
トスタの街へと戻り、疲れた体を押してギルドへ。中には冒険者達もそこそこいた。俺はたまたま空いていたお姉さんのところへいって赤い球体を2つ取り出した。ごとりと重そうな音を立ててカウンターに置かれるそれに周囲の視線が一瞬集まる。が、冒険者にとってどこでどう稼いだなんてのはお互いの秘密だ。問い詰めるような気配は無いかな。ちなみに巨大ガエルの胃の中にあったんだよね、これ。
「トールさん、これは?」
「軍が倒したって言う今回の異常発生の犯人?を見に行ったんですよ。そしたら確かにでっかいのが死んでまして……燃やしていたら、子供ですかね? 別の奴がいたんでなんとか倒しました」
ざわりと、周囲がざわめいていく。どうしてそこまで……あっ。
そうか、そもそも2匹目がいるって時点で普通は軍と同じように被害を受けるかもしれないと逃げ出すのか……飛べる貴石術使いを除いてみんな飛べないもんな。
それを少女5人と男1人で倒しましたって言われても驚きか。
「確かに軍も倒したって言う割に特に証拠となるような討伐部位を持ち帰ってきていないって言うので相当苦戦したと思いますが……死骸がそのままだったんですね。そのままだと他の魔物が餌にして別の問題を作り出していたかもしれません。これの鑑定はお任せいただけるので?」
事務的な真面目な顔になったお姉さんに頷いて宝石とは違うような気がする2つを渡しておく。お金には困ってないけど、不思議な物は手に入れておきたいからね。
後ろの冒険者の中には俺達のことを知っている人もいたみたいで、あちこちでざわざわする中には俺達のことを確か……なんて言ってる人もいた。初めて俺達が戦えることを知ったらしい人たちのまなざしを浴びながら料理の上手いおっちゃんの経営している宿へ向かう。
「よう、元気に帰って来たってことは何かしら成功したんだな?」
「ええ、ここの料理が楽しみで、必死に帰ってきましたよ」
これ自体は本心だ。実際、他の街で出会った食事もそれぞれに美味しかったけど……なんというか、基本部分が違うんだよね。一味ここの食事は違う。派手さとかは別として、飽きずに何度でも食べたくなるんだよね。
「ごっはん、ごっはん」
「ジルは食いしん坊さんだよねー。ま、ボクも好きだけどさー」
ここだけ見るとまるで子供連れの家族空間の様だった。実際、とても戦いに出てるとは思えない少女5人が談笑しながら座っている光景は家族の集まりか、近くの子供たちが一緒に過ごしているようにしか見えないであろう。
だからか、時折他の利用者から視線を感じる。嫌な物じゃないからいいんだけどね。
「マスター、あの巨大ガエルですが……もしかして他にも同じような相手がいるのではないですか?」
「俺もそう思うよ。急に出てきたのか、実は森の奥に最初からいたのかはわからないけどね。前からゴブリンたちが増えてるって言ってたのが関係してるかもしれない」
貴石を取り込んで暴走、あるいは強化された貴石獣……という線はどうも薄そうだった。力は感じたけれど、貴石の気配は全くなかった。敢えて言えば背中のが石英というか水晶の塊のように見えたけど……あれ、気が付くと溶けてたんだよね。
北西のモンスターの本拠地になるほうの開拓、解放も重要だけどどうも外側だけじゃなく、内側にも問題がありそうな気がするんだよね。
「あんなというと怒られるかもしれないですけど、指揮官さんがあの動きでは困ってしまうのです」
「案外、他の土地でも同じようなのが起きてて、人手が足りなかったんじゃないの?」
ニーナのつぶやきは少々毒があるけれど、事実としてはあの指揮官は撤退時期を誤り、大きな被害を出してしまった。討伐が大事だけれども次が続かないだろうからな……そうなるとルビーの推測があってるのかな?
「そんなことより、ご飯。冷めちゃうよ」
「そうだね。今は食べようか」
硬くなりかけた空気を見事に砕くジルちゃん。みんな苦笑を浮かべながらも食事にすることに反対意見は無く、俺達はそのまま食事を続ける。
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