JD-157.「増えすぎた緑」
結論から言えば、トスタの街のそばで起きていた戦いは規模こそそこそこ大きかったものの、中身は前にも見たようなゴブリンやオークといったなじみの相手だった。森には他にも獣だっているのに、どうしてこうも街にやってくるのかはなんとも悩ましいところだと思う。
街の結界装置も前に交換したばかり。となれば狙いに来たと考えるのは難しい。何かほかに理由があるのではないか?なんて考えてしまうところだね。
「助かった!」
「お互い様ですよ。横槍かなとも思ったんですけどね」
モンスターの集団に襲われる形になっていた冒険者達。その中の一人がこちらにお礼を言ってくるのに対して俺も特別な事じゃ無いというように答える。実際、討伐による報酬はこれでは変わってしまうかもしれないところだからね。
ここはゲームではないけれど、獲物の横取りは何かしらのトラブルの元だ。
「いや、帰り道にまとめて襲われてね。誰もが消耗していたから危なかったよ」
言われてみてみれば、冒険者の集団は8人ほどいるのに、誰もが何やら荷物を抱えている。血の色がついている袋も多い……ということは討伐の帰りなんだな。にしても多くないか? 確かにゴブリンは間引きが推奨されるほどいつの間にか増えているとあの時も言っていたけれど……。
「皆さま、ひとまず街に戻りましょう」
その場で一息ついている俺達にラピスの声がかかる。確かにその通りだということでみんなして街へ。
ここを立った時とあまり変わらない町並みに、俺はどこかほっとした感情を抱いた。
故郷ってわけじゃないけれど、最初の街だもんね。
「異常繁殖?」
「ええ、前にも増して、ですね」
冒険者達と別れ、ひとまずとギルドに顔を出した俺達は最近の様子を聞いてみることにした。顔を覚えてもらっていた受付のお姉さん曰く、最近は強さはそうでもないが、モンスターの数がまさに異常だということ。
ギルドで出ている討伐依頼の報酬も、単価を下げざるを得ないぐらいに出てくるらしい。
「不思議だねー。ボクだったらまとめてどーんってやっちゃうかな。原因はわかってるのー?」
「ゴブリン程度だったら壁でビタンと潰すことも出来なくはないのです。でも囲まれるとめんどくさいのです」
若干物騒な意見ではあるけれど、今の俺たちなら2人の言うようなことも出来なくはないと思う。ただまあ、地形の問題もあるよね。木々をなぎ倒して倒すっていうのはさすがに……ね。
話の続きを聞こうと思ったのだけど、お姉さんは俺を見て、ジルちゃんを見て、さらにラピスを見て……終わりにニーナたち3人を見た。
「トールさん。個人の自由ですけど……年下趣味も限界があるのでは?」
「久しぶりにまともにつっこまれたっ!」
別にお姉さんはそんなつもりではないのだろうけれど、思わずそう口にしてしまうぐらいには、久しぶりだった。
気にしてないかと言われたら、気にするよね。かといってここでみんながスタイル良しな姿を基本にされても困るのだけど……。
「まあ、私が見てもわかるぐらいに実力をつけられてるみたいですし、お互いが良いならいいんじゃないですかね?
それより、さっきの話ですけど……森に行くなら注意してくださいね。奥に行くほど数が多いらしいですから。一応国も動くそうで、近々討伐部隊が組まれると連絡は来ています」
思ったよりもあっさりと流され、そんな忠告をありがたくいただいて俺達はひとまず受付から離れて近くの席についた。今後のことを話し合うためだ。今のところ、貴石の気配は無いし、土偶にもらった奴にも反応はないけれど……。それはそれとして、国……か。よく考えたら俺はこの街が所属するスーテッジ国について全く知らないな。どんな王様なのかと言ったことも。
「気になるわね。いくらなんでも無尽蔵に沸いてくるとは思えないわ。何かあるはずよ」
「ご主人様、狩り放題だよ。石英がいーっぱい」
顔を険しいものにするルビーに対して、ジルちゃんはどこか楽観的な返事だ。たぶん、みんながいれば何とかなるって感じかな。俺もそれには賛成だけどね。
ルビーの言うように何かあるんじゃないかとは思うけど、もう少し探ってみないとどこまでの脅威かは何とも言えない。
「準備をして、一度森に行ってみましょう。現地でないとわからないことも多そうですわ」
ラピスの意見を締めとして、俺達はそのまま街を出て森にさっそく向かうことにした。まだ日は高いし、様子を確認してくるぐらいなら問題はないんじゃないだろうか。
前と比べて、ゴブリンの討伐によるお金そのものには困っていない俺たち。油断しないよう、慎重すぎないようにという気持ちで外に出た。
「確かにかなりの数だね」
「見える範囲にゴブリンのいない場所ってないんじゃないかなー。どうするの、とーる」
フローラに言われても、俺もどうしたものか、と腕を組んで考え込んでしまう。トスタの街からしばらく歩き、街道から逸れた場所にある森にやってきた俺たち。直接姿を見ずとも、明らかに何かの気配が森に溢れている。
「気配が多すぎて何とも言えないわね」
「むう、どっちを向いても敵敵敵、なのです」
「ゴブリンにゴブリンに、ゴゴゴブリン?」
いっそのこと焼き払う?なんていうルビーの言葉が魅力的に感じるほど、以前の森とは大違いな状況だった。
これでは駆け出しや中堅未満は危なくて森に行けないだろうな。
ジルちゃんなんかは数え方がずれてきているぐらいだ。
「マスター、一度飛んでみていただけます? 何か見えるかもしれませんの」
「よーし、どっちが先に見つけるか勝負だよ、とーる!」
いつの間にか始まったフローラとの勝負。このままという訳にもいかないので同じように飛び上がり、風に乗って上空から周囲を確認することにした。
伸びる街道、その横に広がる森。反対側はやってきた海に続く道だ。山脈のある方へと向き直ると……ちょっと変な物を見つけた。
ひとまず降りてきてフローラの方を見ると、彼女も頷いて一方を指さしていた。
「とーる、何かあったね」
「うん。靄がかかってるというか、蜃気楼みたいに揺らいでたね」
そう、森の奥の方、大き目の木があるあたりに揺らめきというか、そういったものを感じたんだ。ただ、みんなの使えるような貴石の反応は感じられない。というか、あの方向って最初にこの街で過ごす時に、奥へ行き過ぎないようにって言われた方向じゃないだろうか?
「そのまま飛んでいくか、森を突き進むか……私はどっちでもいいわよ」
「出来るだけは地上を間引いていった方が後が楽なような気がするのです」
悩ましい選択ではあったけれど、出来るところまでは地上というか森を進み、どうにもならなそうなら飛び上がって現地に向かうことに決めた。ついでに石英も集まるし、悪い話じゃないからね。
出来るだけ獣道でもいいから道がありそうな場所から突入することにした。
すぐに目につくのはゴブリン。前に倒したことのある姿と同じだ。なので強さも相応……むしろ逃げていく気がする。
最初は襲い掛かって来たのに、ジルちゃんたちに文字通りなぎ倒されていくと残りが退却を始めたんだ。
そのぐらいの考える頭はある……親玉がいるのかな?
「フローラ、適当に風の刃で周辺を斬っておきなさい。じゃないと視界が悪いわ」
「わかったよ。いっけー!」
今のままでも戦えなくはないけれど、確かに木陰からの奇襲が怖い。森の中をかまいたちと呼べそうな風の刃が走り……木と一緒に隠れていたゴブリンも切り裂いていた。
やっぱり隠れていたみたいだ。となるとそろそろオークにも出会いそうだけど……。
「なんだかゲームの襲撃イベントをソロでこなしてる気分だな」
「クリア条件はたぶんありませんわね。参りましょう、マスター」
周囲をゴブリンの死体と血で埋め尽くしながら、俺達は森を進んだ。
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