JD-156.「意外な使い道」
「世の中わからないものだなあ……」
『本当だね。私もこれだけ稼働して来て初めてのことだよ。この場所が観光施設になるなんてね』
俺達の視界には村人や近隣から集まって来た冒険者達でにぎわっている塔が写っている。地球の混雑具合と比べたら別に盛況というほどの人数ではないかもしれないけど、この場所を考えるとかなりの人数だと言えると思う。
土偶以外にも存在していた喋るゴーレムたちを起こし、接客をさせるというアイデアは物珍しさも相まって予想以上に人気の様だった。
謎の光が船を惑わせ、入った者は出てこない。そんな恐怖の対象だったこの塔が何故にぎわっているかと言えば……きっかけはニーナの一言だった。
「そういえばこの塔って、貴石術が使えない人間からでもマナが確保できるです?」
『ああ、そうさ。研究者の半数は貴石術が使えなかったけどそれでも問題なかったよ』
暴走していたゴーレムを一撃粉砕で片づけたニーナは戻ってきてもうすぐ目を覚ますであろう村人たちを見ながらそんなことを呟いていた。
土偶もまた、それに普通に返事をしている。というか今度土偶にも名前を付けた方が良いかな?
俺達の見守る中、ニーナは眠っている村人と俺とを交互に見ては何やら考え込んでいる。
「だとすると……トール様、なんでもいいのでちょっと貴石術を使ってみてくださいなのです」
「なんでも? じゃあちょっと灯りを」
ぽわんと、俺の右手の先から蝋燭のような灯りが灯り周囲を照らす。最近、貴石術は要はイメージが重要だということも実感としてわかってきた。同じ炎でも、より高温の炎、熱さという物を知っているとより強い力となるようだった。
「ふむふむ……みんなも確認してほしいのです。この場所で寝ると、マナを塔に吸われるのです。これ、逆に言うと貴石術が使えない人でもマナを通す道が作られるということだと思うのです」
「確かに……貴石術で普通重要なのは、如何にマナを体の外に出すかですわね」
その後もあーでもないこうでもないと話し合いを続けるニーナたち。俺と土偶はどちらかというと置いてけぼりだ。
ちらりと土偶の方を見ると、表情が変わってるようには見えないのに苦笑して肩をすくめているような気がした。
「土偶さん、土偶さん。この塔、もう無くてもいいのは間違いない?」
『まあ……報告する先も無いんじゃね』
ジルちゃんの優しいながらも飾りのない言葉に、直視したくない現実を思い出すことになった土偶が呻くようにつぶやいた。この辺も器用というか、性能がすごいというか……。
ともあれ、その返事を聞いたジルちゃんたちは頷きあった。
「マスター、土偶さん。ここを貴石術の素地を身に着ける修行の場所にしましょう」
「覚えた貴石術をゴーレム相手に練習するとかどうかなー!」
思ってもみなかった提案に俺は目を瞬かせる。ただ、言われてみればそれもありかなと思った。さっきニーナが発見したようなことが起きているとするなら、この場所は貴石術の実力を高める。あるいは覚えるのに最適な環境と言える。
命の危険はなさそうな仮想敵がいて、休んでるだけで力を引き出してくれ、それによってこの場所も維持される。
もちろん、それで全部上手く行くとは限らないけれど、このまま塔を隠したままというよりは村の人も安心するんじゃないだろうか?
目に見えない何かって日が立つごとにいらない不安を作り出すもんね。
「ま、駆け出しにはいいんじゃないってぐらいかもしれなけど」
「最初が、かんじん」
『なるほどねえ……人間は面白いねえ。いや君たちは……まあ、関係ないか。私もそれを言ったら……ね。
ともあれ、良い考えだと思う。私もこのまま孤独に稼働し続けるのはちょっとね。一応他にも同タイプは眠ってるんだけどさ』
所有者というか、現在の管理者が同意したとなれば話はどんどんと進んでいく。まずは眠っている村人が起きるのを待ち、混乱する彼らをなだめ、村まで送り届ける。
謎の光は原因を取り除いたから大丈夫、と説明しつつ、塔の正体についてざっくりとだけど村の皆に説明をした。
あまりピンと来ていないようだけど、塔につかまっていた人達の中に素質のあった人がいたようで、いきなり氷を生み出したことで状況が一変した。
村人総出で塔を見学に行き、気が付けばオニキスがあった場所には実際にかがり火を置いて灯台とし、塔を周囲ごと共同管理することで話がまとまったのだ。
そして滞在一か月。噂を聞きつけた人などでにぎわう、観光地めいた場所の出来上がりというわけだ。
気になっていた効果の方だけど、駆け出しからベテランまで一定量の効果があったらしく、精度が上がった、なんて話はほとんどの人から聞けた。
そうして塔を訪れる人が宿を求めて村は賑わい、活気を産む。最初は不安が多かった村人もいつしか塔に来ては一番上から景色を眺めるようになっていた。
『これで私も停止まで飽きずに過ごせそうだよ』
「一体何年かかるかわからないけど、それは何よりかな。俺たちはそろそろ行くよ」
思ったよりも足止めを食ってしまった。幸い、ニーナの貴石も見つかったし、問題はないって言えばないけどね。
ルビーのも見つけてあげないといけないし、まだコレクションは見つかってないのもある。どこにどうしてることやら……。
『君たちは不思議な出来事や、貴石獣を探してるんだったね? だったらこれを持っていくといいよ』
手渡されたのは、一見するとただのコンパスだ。でも色々メモリがあるし、張りだって1本じゃないぞ……?
横にはボタンがいくつもついていて、なんとなく技術を感じる。
『本当は周囲のマナ濃度を測る装置なんだけどね。これ、現状を登録して基準値に出来るんだ。
どういうことかというと、君たちがそろってる状態を基準にしておけば、異常なマナの揺らぎとかがあったらすぐに針が動く。そしたら周囲を探せばいい』
「なるほど。ありがとう」
実際には、ジルちゃんたちもある程度そういったものを感じるだろうけど、手段は多い方がいざという時のカバーが効くもんだよね。
準備を終えたみんなの元へと向かい、俺達は謎の塔がそびえる丘のある入り江の村から旅立った。
「向かうのはトスタの街なのね? トールたちが最初に出会った場所……気になるわね」
「魔物はあんまりいないよ? 探せばいると思う……よ」
ほのぼのと会話しながらであるが、実のところみんな小走りである。フローラと俺が皆に貴石術で風の力を足元に産んでいるため、ほとんどスケートで滑るかのように街道を進んでいる。
これ自体は俺達のオリジナルという訳じゃなく、マリルの物を参考にしたり、実際に他の貴石術使いの中にもこういう移動手段そのものはあるそうなので特別目立つわけではない……はずだ。
さすがに6人でというのはちょっと目立つかもね。
どんどんと流れていく景色。その中にも懐かしさを感じ始めたころ、見覚えのある街並が見えてきた。
俺とジルちゃん、そしてラピスが出会って過ごした……トスタの街だ。
そしてここに来て、何度も戦いを潜り抜けた俺の感覚は異常を捉えた。街のそばで、結構な戦いが起きている。
「マスター!」
「うん。危ないかもしれない、行こう!」
小走りだった移動をそのまま走るようにして、俺達は街から進路を変え、その戦いの場所へと向かうのだった。
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